先週(12月22日週)の振り返り=円買い介入警戒により、一時155円台まで米ドル安・円高に

日銀会合後の円安が修正=「断固たる措置」介入示唆発言がきっかけ

先週の米ドル/円は、12月19日の日銀金融政策決定会合のあとから大きく米ドル高・円安となった流れを引き継ぎ、157円台後半での取引スタートとなりました。ただその後は、おもに片山財務相などを中心とした円安阻止介入発言に反応し、12月22日にかけてほぼ一本調子で155円台後半まで米ドル安・円高へ戻すところとなりました(図表1参照)。

【図表1】米ドル/円の日足チャート(2025年9月~)
出所:マネックスト証券「分析チャート」

そもそも19日の日銀会合では利上げを決めたことから、日米金利差(米ドル優位・円劣位)は一段と縮小に向かいました。その意味では、日銀会合後に大きく円安となった動きは日本の金融政策や日米金利差などとは無関係の結果だったでしょう(図表2参照)。

【図表2】米ドル/円と日米2年債利回り差(2025年11月~)
出所:LSEG社データよりマネックス証券が作成

日本の利上げとそれに伴う日米金利差縮小をほぼ無視したような円売り急拡大が手掛かりになった可能性があったのは、日本の財政リスクへの懸念だったのではないでしょうか。日本の長期金利、10年債利回りは、過去最大規模に拡大する2026年度の当初予算案へおもに反応した形で2%の大台を大きく超える動きになりました(図表3参照)。

【図表3】米ドル/円と日10年債利回り(2025年11月~)
出所:LSEG社データよりマネックス証券が作成

2024年までの「ルール」ならまだ円安阻止介入の可能性低い

こうした長期金利上昇、円安に対して、政府からはけん制する発言が相次ぎました。とくに片山財務相は、一部のインタビューの中で、円安に対して「断固たる措置をとる用意がある」と答えました。このように実際に介入を行うことを決めた際に使う「断固たる」という表現を使ったことが、円買い戻しをうながす要因となった可能性はあったでしょう。では、実際にこの先円安阻止の米ドル売り・円買い介入は、実現することになるのでしょうか。

日本の通貨当局は、2022年以降断続的に米ドル売り・円買い介入を行いました。これらは基本的に、米ドル/円が120日MA(移動平均線)を5%以上上回ったところで行われました(図表4参照)。米ドル/円の120日MAは12月26日時点で151円程度なので、目先的には年初来の高値である158.8円以上に上昇すると、米ドル/円は120日MAを5%以上上回る可能性が出てきます。

【図表4】米ドル/円の120日MAかい離率と為替介入(2022年~)
出所:LSEG社データよりマネックス証券が作成

ただし、2022年以降において、米ドル/円が120日MAを5%以上上回っても米ドル売り・円買い介入が行われなかった局面がありました。それは、より長期の移動平均線である5年MAを2割以上上回るまでに至っていなかった局面や、前回の介入局面のピークよりまだ米ドル安・円高水準で推移している局面などでした。米ドル/円の5年MAは足下で137円程度であることから、それを2割以上上回る水準は164円以上といった計算になります(図表5参照)。

【図表5】米ドル/円の5年MAかい離率と為替介入(1990年~)
出所:LSEG社データよりマネックス証券が作成

以上のように見ると、少なくとも2022、2024年に行われた円安阻止介入のルールを前提にすると、これまでの段階で円安阻止介入を再開することを決めた上で「断固たる措置」という表現を使った可能性は低いのではないでしょうか。

「政治主導」の円買い介入は実現するのか=介入「失敗」にも要注意

高市政権に代わったことで、為替介入ルールも変わった可能性はあるかもしれません。2024年までの円安阻止介入が行われる前に実施されることの多かった会合に、財務省、金融庁、日銀による三者会合がありました。これは基本的には財務官など官僚が主導して行われました。

ところが、11月19日に行われた三者会合は、片山財務相、植田日銀総裁、城内経済財政政策担当相という政治家出席によるものでした。これは、高市政権になり円安阻止なども政治主導に変わった可能性を感じさせるものであり、その意味ではこれまでの介入ルールで説明できるより早く円安阻止介入に動く可能性もあるのかもしれません。ではその場合、それは円安を止めることができるのか。

2022、2024年の介入局面は、投機筋の円売り主導の円安に対して行われたものでしたが、少なくとも代表的な投機筋のデータであるCFTC(米商品先物取引委員会)統計を見る限りこの点が今回は大きく異なっている可能性があります(図表6参照)。投機筋の円売り主導の円安は、大規模介入により円安阻止に成功すれば、その後投機筋の円買い戻しにより大きく円高へ戻ることになりました。これに対して、今回の円安が投機円売り主導でないなら、円安阻止には2024年までより苦労する懸念があるのではないでしょうか。

【図表6】米ドル/円とCFTC統計の投機筋の円ポジション(2022年~)
出所:LSEG社データよりマネックス証券が作成

2022、2024年に行われた介入では、その日のうちに5円程度の大幅な円高が起こりました。急激に円高へ戻ったことで、投機筋の円買い戻しへの転換を促したと考えられました。その意味では、今回もしも政治主導でこれまでのルールで説明できるより早いタイミングで米ドル売り・円買い介入が実現した場合、その日のうちに5円程度と大幅な円高が起こるかが注目されるのではないでしょうか。もしも介入でも円高への戻りが限定的なら、逆に円安再燃のきっかけになる危険にも要注意でしょう。

今週(12月29日週)の注目点=日本の長期金利上昇続く場合、円安阻止介入との攻防で波乱含み

今週の米ドル/円は155~160円で新た展開を予想

2024年までの投機円売り主導とは異なる今回の円安は、財政リスクへの懸念などにより日本から資本流出が起こっている影響が大きいのではないでしょうか。そうであればその目安の1つ、日本の長期金利上昇が止まらない限り、円売りは続く可能性があるでしょう。

今週は、クリスマス休暇明けから欧米のトレーダーが取引を本格再開する可能性があります。日本の長期金利上昇が続いた場合、それを手掛かりに円売りが再燃し、それに対して円安阻止介入が再開されるかが焦点になるでしょう。以上から、今週の米ドル/円は155~160円での荒れた展開を予想します。