PBR(株価純資産倍率)や配当利回りといった様々な投資指標には、月ごとに見たときに明確な季節性が存在します。季節性とは、投資指標を使って銘柄選択を行った場合に、ある特定の月では優れた効果が発揮される一方で、別の月では同じ指標を使っても十分な成果が得られないといった、月別パフォーマンスの差を指しています。
なかでも配当利回りは季節性が明確に表れる指標です。多くの日本企業が3月期決算を採用しているため、3月期末の配当権利付き最終日までに株式を保有していれば、配当を受け取ることができる仕組みがその背景にあります。このため、市場では配当を得ようとする「配当取り」という動きが見られ、権利確定日に向けて配当利回りの高い銘柄に買い需要が集まりやすく、需給が改善することによって株価が上がりやすくなる傾向が見られます。
年末から新春にかけては、こうした月別の強弱がはっきりと出る投資指標が複数存在するため、今回はこの季節性を活用した投資指標による銘柄選別に焦点を当てて紹介します。
年末~新春に有効な指標「配当利回り」と「利益予想変化率」
まず、年末から新春に狙うべき季節性について、結論を先に述べると、「配当利回り」と「営業利益の予想変化率」という二つの指標を使った戦略が効果的です。
なぜこの二つが有効なのかという根拠を示すために、実際に投資指標の有効性を検証した分析結果を紹介していきます。
配当利回りの月別効果を確認するにあたっては、まず月次サイクルにおいて配当利回りがどの程度の有効性を持つのかを把握する必要があります。その際には、銘柄の流動性を確保するための母集団としてTOPIX500を採用しました。TOPIX500とは、東証上場銘柄のなかでも時価総額と流動性がともに高い主要500銘柄によって構成される代表的な株価指数であり、東証が公表している指数のひとつです。こうした十分な流動性を備えた銘柄群を対象とすることで、より実務に近い形で配当利回り指標の有効性を評価することが可能となります。
このTOPIX500の銘柄群について、毎月末時点のデータをもとに今期予想配当利回りが高い上位20%の銘柄を抽出し、それらに均等に投資した場合のパフォーマンスを算出しました。こうして得られた結果が図表1の青線グラフです。青線は累積リターンを示しており、右肩上がりの形状から高配当利回り銘柄群が継続的に高い収益を上げてきた傾向が視覚的に確認できます。また、赤線グラフは、これらの銘柄群のリターンから対象銘柄全体の平均リターンを差し引いた「超過パフォーマンス(累積)」を示しており、こちらも右肩上がりで推移していることから、高配当利回り銘柄群が市場全体を上回る成果を上げ続けてきたことが分かります。
注2:母数はTOPIX500構成銘柄
注3:配当利回りに用いる配当は日本経済新聞社の今期配当額予想を用いる
注4:毎月末時点で配当利回りが高い方から20%に該当する銘柄に等金額投資した場合の翌月のリターンを算出して絶対パフォーマンスは2005年1月以降を累積している。超過パフォーマンスは対象となる月の母数全体に等金額投資した場合のリターンを引いた超過分を求めて2005年1月以降累積している
出所:QUICK Workstation Astra Managerを用いて、マネックス証券作成
季節性の集計結果
図表1の赤線グラフは超過リターンの累積値を示したものですが、配当利回りに見られる月別の季節性を把握するためには単月の超過リターンを用いる必要があります。そこで2006年1月以降の単月データを月別に平均した結果が図表2の青太枠となります。
12月における平均超過リターンは0.58%となっています。これは、分析期間中で19回ある12月に高配当利回り銘柄群に均等投資した場合の超過リターンを平均した数字です。値が大きくプラスであればその月に高配当利回り株のパフォーマンスが良いことを意味します。実際に他の月と比較しても12月が最も高い値となっているため、12月は高配当利回り株のパフォーマンスが相対的に優れる季節性が明確に示されます。
注2:母数はTOPIX500構成銘柄
注3:毎月末時点において各指標で魅力的な方から20%に該当する銘柄に等金額投資した場合の翌月のリターンを算出。対象となる月の母数全体に等金額投資した場合のリターンを引いた超過分を求めて月別に平均している
注4:プラス(指標としての有効性がある)月は背景と数値を赤字にしている
出所:QUICK Workstation Astra Managerを用いて、マネックス証券作成
さらに、投資指標ごとの月別パフォーマンスを比較しやすくするために、図表2に示される各指標の平均リターンを同じ月の中で順位付けしてみたところ、12月は配当利回りが第1位となり、次いで赤太枠で示される今期の営業利益予想変化率が第2位となっていました(図表3)。利益予想変化率は投資の世界では「リビジョン」と呼ばれ、幅広い場面で使われる指標ですが、この分析結果からは12月において今期の営業利益予想変化率が高い銘柄のパフォーマンスが良いことが確認されます。
注2:母数はTOPIX500構成銘柄
注3:毎月末時点において各指標で魅力的な方から20%に該当する銘柄に等金額投資した場合の翌月のリターンを算出。対象となる月の母数全体に等金額投資した場合のリターンを引いた超過分を求めて月別に平均した値を更に月別順位に変換している
注4:月別上位3指標までを背景と順位を赤字にしている
出所:QUICK Workstation Astra Managerを用いて、マネックス証券作成
スクリーニング結果:参考銘柄9選
これら二つの指標─高い今期予想配当利回りと今期の営業利益予想変化率─は、12月のみならず年をこえて2月まで有効性が比較的高い傾向があります。これは、年度末の決算を控えた時期に企業の業績見通しが徐々に着地へ向けて調整されていく過程で、市場が利益予想の変化に素直に反応しやすくなることが背景にあります。
また、今期予想配当利回りについては年度末の配当取りへ向けた思惑が強まる季節であることも影響しています。ただし注意が必要なのは、3月期決算企業の場合に配当が実際に得られるのは3月であるものの、3月の配当利回りの月別パフォーマンス自体は良くない点で、これは3月のリターンが配当落ちによる株価下落を含んでしまうためです。一方で、権利付き最終日に向けては3月の配当利回り銘柄が上昇しやすいという季節性は確かに存在します。
こうした背景を踏まえ、営業利益の予想変化率と増益率を指標として、マネックス証券のウェブサイトで提供されている「銘柄スカウター」の10年スクリーニング機能を利用し、配当利回りと利益予想変化率を基準とした銘柄抽出を行いました。
対象は金融業を除く企業とし、具体的には「銀行業」「証券・商品先物取引業」「保険業」「その他金融業」を除外し、流動性の観点から東証プライム市場に上場し、時価総額1,000億円以上の銘柄に限定しました。金融業を除いた理由は、営業利益の予想が取得できず利益予想変化率を指標として利用できないためです。また、業績面の健全性を確保する目的で、実績ROEが3.00%以上で、今期の営業増益率が3.0%以上という条件も付加しています。
このような前提条件を踏まえ、予想変化率(営業利益)が3%以上で予想配当利回りが3%以上という基準を設定し、抽出された銘柄を図表4に示しました。投資の参考にしてみてください。
[詳細条件]
[指標]予想配当利回り:3.00%~、[今期コンセンサス]予想変化率(営業利益):対3か月前・3.0%~・3人以上、[指標]実績ROE:3.00%~、[今期コンセンサス]増益率(営業利益):3.0%~・3人以上
出所:マネックス証券ウェブサイト マネックス銘柄スカウター(2025年11月21日時点)を用いてマネックス証券作成
具体的なスクリーニング入力項目は(図表5)に示しています。
みなさんも投資の参考にしてみてください。
