今回から、こちらの連載をスタートします、吉野貴晶(よしのたかあき)と申します。1989年のバブル相場の株価が最高値を付けた年にアナリストとして仕事を開始。以後、一貫してクオンツ計量分析のアナリスト、モデル開発に従事してまいりました。

クオンツというと、統計分析やAI(人工知能)といった難しい話をイメージするかもしれません。しかし「身の回りの意外な情報から株価を予想する」といったことも話題の1つです。私が見つけた株価の法則の1つに「サザエさんと株価の関係」があります。サザエさんの視聴率と株価の動きに強い関係があるというものですが、こういった話題もクオンツの分野となります。

少し前置きが長くなってしまいました。今回から、この連載を通じて計量分析を用いた投資戦略など投資に効果的な情報を紹介してまいります。今回、紹介するのは、株式市場で良く知られているアノマリー(株価のジンクス)を使った投資戦略になります。

9月のアノマリー、配当利回り効果

9月に注目のアノマリーと言えば「配当利回り効果」があります。配当利回り効果とは、「高配当利回り株に投資すると高いリターンを得られやすい」というものです。

9月は3月期決算企業の上半期の決算期末です。そのうち上半期末で中間配当を実施する企業が多いため、投資家の配当への注目が高まる月になります。中間配当取りを狙う投資家の方も見られ、それに連動して配当利回り効果が高まるのです。

図表1では月別に高配当利回り株に投資した場合のパフォーマンス集計をしました。9月は8.2%と最も高いリターンとなっています。TOPIX(東証株価指数)を構成する銘柄のうち予想配当利回りが高い(上位2割まで該当する)銘柄に対して、毎年9月から半年間投資した場合、それ以外の銘柄に比べてパフォーマンスが大きく上回ることを示しています。

【図表1】高配当利回り株に半年間投資した場合の月別パフォーマンス
注1:データ期間は2021年4月から2025年8月
注2:母数はTOPIX構成銘柄(ただし、今期予想配当が取得できない銘柄は除く)
注3:予想配当は日本経済新聞社の今期予想を用いている
注4:毎月末時点で配当利回りを計算する。そして高配当利回りの銘柄から母数の上位20%までの銘柄に等金額投資した場合のリターンを算出、同月の母数全体に等金額投資した場合のリターンを引いた超過分を求める。そして半年間累積する
注5:半年間投資を月別に平均している
出所:QUICK Workstation Astra Managerを用いて、マネックス証券作成

配当収益に加えて値上がり益も期待

高配当利回り株と言えば、毎年の配当収益を狙ってコツコツと投資するのが王道です。ただ図表1は半年程度の短期的な投資でも高い投資効果が得られることを表しています。配当利回り株への投資については、配当だけでなく株価の値上がり益も期待できることがポイントです。

9月からの半年投資では、翌年2月に手仕舞ってしまいます。これでは翌年3月末の配当が受けられなくなります。しかし、分析結果からはそれでも9月からの投資の効果が高いことが示されています。意外に、本決算期末に向けた配当利回り効果は、前倒しで3月末より前に終わる傾向があることがその理由です。

図表1の結果は中間配当がない企業も含まれています。それでも9月からの半年投資が効果的であることを示す結果ですが、実際に銘柄を選ぶ際には、さらに中間配当企業に絞り込むほうが効果的でしょう。

企業の株主還元の目標で注目される純資産配当率

そして、さらにもう一歩進んだ戦略を紹介します。配当利回りに加えて、純資産配当率も組み合わせた投資戦略です。

純資産配当率とは配当額÷純資産で計算されるものです。業界でDOEと呼ばれる株主資本配当率(配当額÷株主資本)とほぼ同様のものです。純資産と株主資本はほぼ同じ金額だからです。

近年、企業の株主還元姿勢が注目されています。企業が示す株主還元の目標水準によく使われるのが配当性向です。配当性向は純利益のうち、どれ位の割合で配当するかを示すもので、株主還元姿勢が強い企業なら配当性向は高く設定されます。

しかし、2020年からのコロナ禍で多くの企業の利益が減る場面は、どうでしたでしょうか。利益に配当性向を乗じた分を配当目標と設定している企業のケースでは、利益の減少とともに配当の支払いも減ってしまいました。そこで、近年は不況下でも変動が小さい株主資本をベースに、配当還元の目標とするDOEを資本政策の目標に据える企業が増えています。

配当利回りと純資産配当率を組み合わせた投資戦略

そこで、配当利回りが高いだけでなく、DOEも銘柄選定基準に組み入れて、企業側の株主還元姿勢の面を組みあわせた戦略を紹介します。

実際に、筆者がマネックス証券のウェブサイトの投資情報タブのスクリーニングを使用したところ、図表2の銘柄が選別されました。配当利回りと純資産配当率が5%以上の銘柄のうち、比較的売買が行いやすいように流動性を考慮して、東証プライム上場で時価総額800億円以上としています。さらに、配当利回り(予想)の高い方から並び変えています。

【図表2】スクリーニング(東証プライム上場、配当利回りと純資産配当率が5%以上、時価総額800億円以上、配当利回り降順)
出所:マネックス証券ウェブサイト(2025年9月7日時点)

具体的なスクリーニング入力項目は最下表(図表4)に示しています。

ここからさらに、3月期が本決算で、9月の中間決算企業に絞り込むと、より効果的でしょう。スクリーニング上で銘柄名をクリックすると「会社四季報」タブが出てきます。その中のさらに「業績/株主構成」タブを見ることでチェックすることができます。

図表3は9月7日時点のランキング第1位のUTグループ(2146)の例です。「業績/株主構成」タブを見ると同社は3月期決算企業ということも分かりますが、図表2で2025年9月に配当が予定されていることから、前述の条件もクリアしていることが分かります。みなさんも投資の参考にしてみてください。

【図表3】UTグループ
出所:マネックス証券ウェブサイト
【図表4】スクリーニングの条件設定画面
出所:マネックス証券ウェブサイト(ログイン後―投資情報―スクリーニング、2025年9月7日時点)