国内初ステーブルコインが今秋にも発行、国際送金の新しい選択肢に
金融庁が今秋にも法定通貨に価値が連動するステーブルコインの発行を国内で初めて認める、と8月中旬に報じられたことをきっかけに、株式市場では関連企業への関心が一気に高まっている。8月18日には、フィンテック企業のJPYCが資金移動業者の登録を完了した。世界では米ドル建てを中心に市場規模が2500憶ドル(約37兆円)に拡大。日本でも国際送金の手段などとして普及を目指すとしている。
日本では2023年6月施行の改正資金決済法で「通貨建て資産」として暗号資産(仮想通貨)と切り離されて定義され、銀行や信託会社、資金移動業者が発行できるようになった。JPYCが発行するステーブルコインの名称は「JPYC」で、1JPYC=1円に価値が保たれるように、預金や国債などの資産を裏付けとして保有する。ブロックチェーン(分散型台帳)技術を基盤に、即時・低コストの送金手段としての普及が期待される。また、越境決済の領域でも活用でき、既存の金融ビジネスに変革をもたらす可能性がある。
JPYCの岡部社長は8月19日の会見で、「既存のVISAやマスターカードの決済、あるいは銀行の送金ネットワークを大きく上回る規模になるのではないか」と語ったと報じられている。
ステーブルコイン=法定通貨などに裏付けされた暗号資産
ステーブルコインとは米ドルや日本円などの法定通貨のような、特定の資産に価格を連動させた暗号資産(仮想通貨)・電子決済手段。ビットコインに代表される暗号資産は価格変動が激しく、決済に使うには課題が多かった。
JPYCを利用したい個人や法人などは代金を振り込むとウォレット(電子財布)にJPYCが送金される。海外にいる留学生への国際送金、法人決済などへの活用が見込まれる。仮想通貨に投資するヘッジファンドなど資金運用向けにも需要がありそうだ。
世界中で高まる導入機運、EUや米国でも法案整備が進む
世界でも導入機運が高まっている。EU(欧州連合)では2022年10月に暗号資産市場規制(MiCA)法案が可決。ステーブルコインの発行者に対し、裏付け資産と交換可能な体制を義務付けるなど厳格な対応を求めている。これにより消費者を保護する規制フレームワークが整った。実際、大手仮想通貨取引所が規制に準拠していないステーブルコインの上場廃止を行うと発表している。
米国では6月18日に上院で「GENIUS(ジーニアス)」法案が可決した。企業や個人がステーブルコインを利用した即時決済を可能にする法的枠組みを整備する内容が盛り込まれている。法案が成立すれば大手のテック企業が独自のステーブルコインの発行に乗り出すとの見方が多い。ベッセント米財務長官はSNSで「ステーブルコイン市場は2030年までに3.7兆ドル(540兆円)に成長する可能性がある」と投稿した。
課題はステーブルコインを扱う事業者が少ないことで、JPYCの登場によって、今後普及ためのインフラ整備が進むことが期待される。
ステーブルコイン関連銘柄をピックアップ
関連銘柄をピックアップする。なお関連銘柄であっても、信用取引規制銘柄などは除外している。
Speee(4499)
子会社のDatachain(データチェーン)が電子決済手段(ステーブルコイン)関連事業を展開。2023年10月にはDatachain、メガバンクグループ各社、日本取引所グループ(JPX)(8697)、SBI PTSホールディングス、NTTデータグループなどとともにデジタル証券やステーブルコインのプラットフォームを提供するProgmat(プログマット)を共同設立。Progmatは国際的な銀行間ネットワーク「Swift」に参画している。
8月22日にSpeeeはブロックチェーン(分散型台帳)技術で株式など有価証券をデジタル化したセキュリティトークンの2次流通市場で、ステーブルコインを活用した効率決済化の共同実証プロジェクトを開始したと発表した。実証には三井住友銀行、大和証券、SBI証券、Datachainなども参画している。
SBIホールディングス(8473)
連結子会社のSBI VC トレードが2025年3月に米ドル連動型ステーブルコインUSDC(ユーエスディーシー)の一般向け取り扱いを開始。国内で唯一、日本円でUSDCの取引が可能になった。SBI VCトレードは8月22日に三井住友銀行とステーブルコインの健全な流通と利活用に共同研究にかかる共同検討に関する覚書を締結。新しい決済・運用サービスの創出を目指す。
シンプレクス・ホールディングス(4373)
金融機関向けシステム構築が主力。8月21日にAva Labsと、シンプレクスが提供するステーブルコイン発行・償還システムとAva Labsが提供するブロックチェーンインフラサービスを組み合わせ、金融サービス水準の可用性(継続稼働能力)と低レイテンシ(短時間処理)の実現に向けた実証実験を実施、可用性や低レイテンシでの処理を確認したと発表している。
GMOインターネットグループ(9449)
2024年5月に野村ホールディングス(8604)と、野村ホールディングスの子会社でデジタル資産関連サービスを展開するレーザー・デジタルホールディングスとで、日本市場における日本円と米ドルの新たなステーブルコイン発行・償還・流通の仕組みを検討する基本合意書を締結している。
パーソルホールディングス(2181)
グループのベンチャーキャピタルであるパーソルベンチャーパートナーズが2024年3月にJPYCに出資。デジタルアセットを通じた新たな人材サービスの創出を狙う。
インターネットイニシアティブ(3774)
9月11日付の日本経済新聞に同社グループのディーカレットDCPが開発するデジタル通貨「DCJPY」をゆうちょ銀行(7182)が導入すると報じられた。1円=1DCJPYとして発行し、入金する仕組み。貯金者はデジタル通貨を金融商品の決済に使える。2026年度に貯金者向けに発行するという。将来は地方自治体の補助金を迅速に支給する手段としての活用も視野。デジタル通貨は、ステーブルコインに付加価値を付けた商品といえそう。
TIS(3626)
独立系のシステムインテグレーター。2025年4月に三井住友フィナンシャルグループ(8316)、ブロックチェーン開発のAva Labsなどと将来的なステーブルコインの事業化を視野に入れた利活用に関する共同研究を開始することで合意している。
また、7月にはTIS(3626)、ふくおかフィナンシャルグループ(8354)傘下のみんなの銀行などと、将来的なステーブルコインおよびweb3ウォレットの事業化に向けた共同検討を開始したと発表している。
グラッドキューブ(9561)
デジタルマーケティング支援が軸。9月1日に独自のステーブルコイン「SPAIAコイン」(仮称)を2026年度内に発行すると発表した。1コイン=1円の価値を担保するため、銀行預金などの裏付け資産を確保する。JPYCやUSIDなど主要ステーブルコインと連携可能な設計を検討しているとしている。免許取得の見込み時期は未定。
