年平均30%のリターンでも知られる伝説的投資家ドッケンミラー氏
スタンレー・ドラッケンミラー氏は米国を代表する伝説的投資家の一人である。著名投資家ジョージ・ソロス氏の下で10年余りにわたり資金を運用してきたことで知られている。1992年、ソロスはポンドを為替市場で大量に売り、その後、ポンドが安くなったところでポンドを買い戻すという取引を実行した。投機筋によるポンド売りは加速し、ソロスは「イングランド銀行を破った男」と呼ばれるようになった。
ポンドの大暴落によってジョージ・ソロス率いるクォンタム・ファンドは10億~20億ドルの利益を得たと言われている。この戦略をソロスに進言したのは、当時、クォンタム・ファンド(ソロスのファンド)の運用実務責任者を務めていたドラッケンミラーであった。ポンドの売りで大儲けした背景には、ドラッケンミラーの存在があった。
ドラッケンミラーは世界のマクロ経済や金融政策の変化を読み解き、株式、債券、通貨、コモディティなど幅広い資産を対象にポジションを構築している。また、分散投資によるリスク低減よりも、徹底した集中投資で大きなトレンドに乗ることを重視し、リターンを追求するのが特徴だ。ポートフォリオの大部分を数銘柄や特定の資産クラスに集中させることで1986年以降2010年に入るまでの間、年平均30%というリターンを達成してきた。
アマゾン・ドットコム[AMZN]などを売却する一方、半年間でファウンドリ大手のポジションを約7倍に拡大
そのドラッケンミラーが運用するファミリーオフィス、デュケーヌ・ファミリーオフィスが8月15日、SEC(米証券取引委員会)にフォーム13Fを提出した。米国において1億ドル以上を運用する機関投資家などは四半期毎にSECに対して、保有株式の報告が義務付けられている。投資家にとっては、著名投資家や大手ファンドがどのようなポジションをとっているのか、その投資戦略を間接的に把握できる機会となる。ただし、リアルタイムのポジションではなく「過去のスナップショット」であること、さらに一部デリバティブ取引や空売りは含まれない点には注意したい。
デュケーヌのフォーム13Fによると、2025年6月末時点で保有する米国上場株式数は67銘柄と、3ヶ月前(2025年3月)に比べて差し引き18銘柄増加した。アマゾン・ドットコム[AMZN]やアメリカン航空グループ[AAL]、テスラ[TSLA]を含む16銘柄を売却した一方、新たにシティグループ[C]やゴールドマン・サックス[GS]などの金融株を取得した。またハイテク関連では、マイクロソフト[MSFT]を20万株、ブロードコム[AVGO]8万株を買い入れた。
デュケーヌが半導体大手TSMC(台湾セミコンダクター・マニュファクチャリング)[TSM]の持ち高を前期末からさらに積み増したことを指摘したい。2024年12月末時点でのTSMCの保有株数は107,515株だったのに対し、2025年3月末時点の保有株数は598,780株と5.5倍余りに拡大、さらに6月末時点では765,085株と、3月末から持ち高を約16万株増やした。半年前に比べると7倍以上に拡大している。
ドラッケンミラー氏のポートフォリオで実現される半導体サプライチェーン
6月末時点の上場株式ポートフォリオを評価額順にまとめると、前回同様、トップはテキサス州オースティンに本拠を置く臨床遺伝子検査会社ナテラ[NTRA]、2位はイスラエルの製薬会社であるテバ・ファーマシューティカルズ・インダストリーズ[TEVA]だった。TSMCは、上場株ポートフォリオの中で5番目の評価額だった。
また今回、半導体材料を手がけるインテグリス[ENTG]を新たに164万株取得し、ポートフォリオの8位に入った。インテグリスは、半導体及びその他のハイテク産業向け先端材料及びプロセスソリューションのサプライヤーだ。半導体製造のプロセスにおいてシリコンウェハを汚染物質から保護するための技術に強みを持っている。
半導体の製造工程は細分化されていると同時にとても繊細だ。半導体メーカーにとっては工程の途中の小さな欠陥が数億ドルもの損失につながる可能性がある。最先端になればなるほどこの工程は神経質なものとなり、インテグリスはこの分野におけるリーダーとして高度なチップ製造の拡大を推進するために重要な役割を果たしている。
ドラッケンミラーは過去にもインテグリス株を保有していたことがあった。2022年末時点で約5万5500株を保有し、2023年初頭にわずかな利益で売却した経緯がある。しかし、今回の保有規模は前回の約30倍で、上場企業ポートフォリオの中でもトップ10に入るほど大きい。ある明確な意図を持ってインテグリス株を保有したと考えてよいだろう。
前述の通り、ドラッケンミラーの投資スタイルは大きなマクロ経済トレンドから独自の方法で恩恵を受けることができる事業を見出すというものだ。半導体の製造工程における欠陥を低く抑え、歩留まりを高く維持するために、インテグリスの提供する技術が必要となる。インテグリスへの投資は、自社で半導体を製造することはないものの、AI需要によって主導される高性能半導体需要をとらえることにもつながる。
ドラッケンミラーがTSMCの株式保有を増やしたこと、新たにマイクロソフト、ブロードコム、そしてインテグリスの株式を取得したことをつなぎ合わせると、ドラッケンミラーは自身のポートフォリオの中で半導体のサプライチェーンを一部再現させているとも言えるだろう。半導体の設計開発、材料と装置、ファウンドリ、そして先端の半導体を使うハイパースケーラーという図式である。半導体はいまや、現代の社会機能の維持に必要不可欠なエッセンシャルな業務だ。
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