財政赤字拡大を懸念した円売りなのか?
米ドル/円は7月に入ってから大きく米ドル高・円安へ動いた。この動きは、日本の10年債利回りの上昇(債券価格は下落)と相関しているようにも見えなくない(図表1参照)。この円安は、参院選挙の結果を受けて、消費税減税を訴える野党勢力の伸長に伴う財政赤字拡大を懸念した日本からの資金流出、それによる円売りなのか。
ただ7月からは米10年債利回りも上昇している。米10年債利回り上昇の基本的な背景は、6月米雇用統計が予想外に強い結果となったことを受けた早期利下げ期待の後退などだろう。その意味では、日本の10年債利回りの上昇は、日本の財政赤字拡大への懸念より、むしろ米10年債利回り上昇の影響を受けたということではないか(図表2参照)。
そもそも、日本の財政赤字拡大への懸念、それに伴う資金流出ということなら円安だけではなく株安も広がるのではないか。7月に入ってからの日経平均は米国の主要株価指数が軒並み最高値を更新したことを考えると、上値の重さは目立ったものの、急落したということではなかった(図表3参照)。以上のように見ると、最近にかけての円安を日本の政治要因で説明するのは無理があるのではないか。そうであるなら、円安の理由は何か。
ヘッジファンドの円買いポジション手仕舞いの円売り
ヘッジファンド(以下ヘッジF)の取引を反映するCFTC(米商品先物取引委員会)統計の投機筋の円ポジションは、5月初めには買い越しが17万枚以上と過去最高を大きく更新して空前規模に拡大したが、先週は10万枚まで縮小した(図表4参照)。
そして、この円買いポジションの損益分岐点の目安と見られる120日MA(移動平均線)より、7月11日終値から米ドル高・円安水準での推移となった(図表5参照)。これは円買いポジションが含み損に転落した可能性を示している。こうしたことから、円買いポジションの手仕舞いに伴う円売りが拡大し始めた可能性はあるだろう。以上のように見ると、円売りの中心は、日本の政治不安ではなく、ヘッジファンドなどの円買いポジションの手仕舞いではないか。
政治不安で「下がる円」、「下がらない株」という矛盾
米ドル/円の120日MAは7月18日現在で146.7円。これより米ドル高・円安で推移すると、円買いポジションの損失回避の手仕舞い売り(米ドル買い戻し)が入りやすく、それは米ドル高・円安を後押ししそうだ。
ただし、これまで見てきたことからすると、日本の政治不安や財政赤字拡大懸念を円売り材料とするのには基本的に無理がありそうだ。投機筋の中にはヘッジFのように円買いポジションの手仕舞いに伴う円売りではなく、円安を見込んだ短期的な円売り仕掛けも少なくないのではないか。
そもそもこの間の米ドル高・円安は日米金利差(米ドル優位・円劣位)からは大きくかい離している(図表6参照)。日本の株価が急落しないようなら、日本の政治不安を理由とした円売りの矛盾が確認されることにより、その反動が入る可能性もあるのではないか。
