株式市場は非常に堅調、S&P500も6,000ポイント台を回復
・株式市場は非常に堅調で、S&P500は先週末、3ヶ月ぶりに6,000ポイント台を回復。2月19日に史上最高値を更新した6,147ポイントから、残すところあと2.4%の水準まで戻した。
・一方で、ロサンゼルスで移民政策に対する抗議デモが起き、トランプ政権が州兵・海兵隊の派遣を命じるほか、トランプ米大統領がカリフォルニア州知事の逮捕支持を示唆するなど、日本の常識では理解できないようなことが起きている。
・S&P500が6,000ポイント台を回復した理由の1つが第1四半期の企業決算内容の好調である。トランプ関税の影響もあり、事前予想では前年比プラス6.7%の増益見通しだったが、これを上回り、実際には13.5%と、予想のほぼ倍の結果となり、非常によい決算だった。2024年はAI関連株がマーケットを牽引していたが、2025年に入り、トランプ米大統領の関税政策が注目を集め、一時的にAIというテーマはマーケットの関心から後退していた。それが最近になって、関税への懸念が落ち着き、再びAIの成長性にマーケットの関心が集まっていると考えられる。
・半導体関連株がS&P500やナスダック100の上昇を牽引している。4月6日安値をつけたが、そこから6月9日までで、エヌビディア[NVDA]は48%、ブロードコム[AVGO]は57%上昇。フィラデルフィア半導体指数も44%上昇と、力強い動きをしている。そうした中、米国では、個人投資家が、過去25週間のうち、24週間で買い越しをしている。しかも前例のない規模で買っているというデータもある。
・6月6日に発表された5月の米雇用統計では、非農業部門雇用者数が市場予想13万人を上回り、13万9000人と発表された。これは、4月の同17万7000人と比べるとやや減速はしているものの、十分に堅調な内容と言える。失業率も4.2%と、3ヶ月連続で安定した水準を維持。労働市場も堅調で、これも株価上昇の追い風になっている。
SNS上で繰り広げられた非難の応酬、株価への影響は一日限り
・トランプ米大統領とイーロン・マスク氏の子どもじみた報復合戦が世界中のお茶の間で話題になっている。6月5日のNY時間、二人がSNSのX(旧ツイッター)上で非難の応酬をした結果、テスラ[TSLA]株は14%下落し、市場全体にも影響を与えた。トランプ氏のトランプ・メディア・アンド・テクノロジー・グループ[DJT]も打撃を受け、株価も8%下落した。
・株価の影響は一日限りで収まったものの、イーロン・マスク氏はSNS上で「スペースXのクルードラゴンを即時退役させる」と投稿。これは、スペースXが開発した米国発の民間有人宇宙船で、2020年にNASAと一緒に国際宇宙ステーションへ宇宙飛行士を送り込むという画期的な運用を成功させている。米国の国家的な宇宙政策・安全保障にも影響しかねない事態が起こったが、無名ユーザーに諭され、マスク氏は投稿を撤回、沈静化に向かった。
・今後、トランプ米大統領とイーロン・マスク氏の関係はどうなるか。これ以上の対立はお互いにとって得策ではないと思っているだろう。二人とも強烈な個性とエゴを持っているが、トランプ米大統領にとっても、テスラの自動運転技術およびスペースXの宇宙事業は、中国との技術競争において戦略的に極めて大切な資産である。そう考えると、最終的にトランプ大統領は、国家の利益を優先せざるを得ない。米国が世界で指導権を握るためには、イーロン・マスク氏という存在は避けて通れないだろう。
テスラ社の自動運転タクシー「ロボタクシー」の運用開始へ
・6月12日(木)テキサス州オースティンで、「ロボタクシー」というテスラ社の自動運転タクシーサービスが開始される見込み(※)。イーロン・マスク氏によると、今回はパイロットプログラムで、Model Yをベースに、限定されたエリアで運行を開始。運転席は無人だが、当初は安全確保のために、オペレーターが監視するという。これはすでにアルファベット[GOOG]の子会社ウェイモがサンフランシスコなどの大都市で導入しているモデルと非常に似ている。
(※)ロボタクシーサービスのお披露目は、6月22日の実施予定に変更の見込み。
・米国の自動運転車は、このテスラとウェイモの二大勢力になっていく可能性が高いだろう。しかし、この2つは技術的には大きな違いがある。ウェイモはカメラに加えて、センサーを使用し、安全性は高いものの、コストもかかる。一方テスラは、8つのカメラを使って自動運転を実現。コスト的にはかなり有利になっている。
・テスラがEVメーカーからいわゆる物理AI事業へと進化していく一歩として非常に象徴的なイベントになるだろう。このロボタクシーは、今後数ヶ月以内に、1,000台規模で運行し、他の大都市にも展開していく予定だという。
・今週(6月9日週)のマーケット全体での注目点は、6月11日(水)発表の米CPI(消費者物価指数)である。利下げが重要なポイントの一つであり、現在、労働市場は非常に強いものの、インフレがどうなるか。それ次第で、FRBの判断にかかわるので、その意味で注目の指標であると思う。