実質的には成長していない米国経済、2025年「債務上限」をめぐる争いは?
ロングセラー『ブラック・スワン』の著者ナシーム・ニコラス・タレブは2024年の夏、「バブルに賭けてすべてを危険にさらさないでください。誘惑にかられるのはわかりますが、我慢してください」とXに投稿した。
ブラックスワン的なイベントに備えるファンド(ブラックスワン・ファンド)を運用するユニバーサ・インベストメンツのマーク・スピッツナーゲルは、「私の見解(相場観)よりも重要なのは、ユニバーサの顧客が、顔を引き裂くような上昇と、1929年以来最悪の暴落の両方に対して、どのような立場にあるのかということだ」と述べている。
西側の経済は負債と資産を両方膨らませるという「両建て経済」となっているが、両建てどころか負債の方が多い。つまり、経済の成長が負債に追いついていないのである。これは長期的には持続不可能である。
著名投資家のジェフリー・ガンドラックは、「2018年、米国の名目GDP(国内総生産)成長率が国債発行残高の増加率を下回った。つまり、成長が全くなかったことになる。 米国人がみているのは成長の幻想だ。つまるところ借用証書を発行して、それを使った数字を成長とうたっているにすぎない。しかし、歳出は決して成長ではないのだ」と述べた。
米国経済は実質的には成長していないということだ。資産バブルを膨らませたり、36兆ドルの連邦債務で個人消費を助成したりすることで「負債を成長で解消する」ことはできない。
著名投資家が警鐘、迫りくる「負債マネー問題」
レーガン大統領の時代の1981年、財政赤字は9000億ドルに過ぎなかった。それが今日では約40兆ドルにまで膨れ上がった。選挙に勝つためには票を金で買うこと、つまり財政政策が非常に効果的であり、どの大統領も行ってきた。それでも2017年末の時点で、8年後に債務が40兆ドルになることを予測していた人は誰もいなかっただろう。1981年に比べて44倍だ。一方、税金による歳入は5倍にしか増えていない。
著名投資家のポール・チューダー・ジョーンズは2024年10月22日、米CNBCの番組に出演し、「米国の政府支出の増加と減税の見通しから、FRBが目標としている2%の達成は劇的な政策変更がない限りは事実上不可能だ」と指摘。「米国はインフレを起こし、債務負担を成長で乗り越える必要がある」と述べた。
ジョーンズは、「(米国は)支出問題に真剣に取り組まない限り、すぐに破産するだろう」と述べるとともに、「すべての道はインフレに通じる」として、ビットコイン(BTC)とゴールドを含むコモディティをロング、ナスダックのバスケットを保有する一方、利回りのある金融商品からは離れるよう推奨した。
世界最大のヘッジファンドの一つ、ブリッジウォーター・アソシエイツの創設者であるレイ・ダリオは、「債券や借金などの負債資産から距離を置き、ゴールドやビットコインのようなハードマネーに投資する」と語ったと、サウスチャイナ・モーニング・ポスト紙が報じた。ダリオは世界金融の基盤を揺るがす「負債マネー問題」が迫っていると警鐘を鳴らしている。
国債買い入れが長期株式投資の起点になるか?
2025年の相場の大きなテーマは債務との闘いとなる。債務危機を起こさずに、相場が上げている最大の要因である過剰流動性を維持できるか否かが焦点となるだろう。
トランプ次期政権では、大規模な減税が確実に行われるだろう。しかし、支出削減の約束は守られない可能性が高い。それは、巨額の財政赤字がさらに急増することを意味する。
現在、米国の巨大な債務の壁が満期を迎えている。発行残高28兆ドルの米国債のうち、これから3年間で米財務省は15.5兆ドルの債務を借り換えなければならない。米国の債務を返済するための利息コストは、ここ数ヶ月で爆発的に上昇している。
米国債の買い手がいないなか、長期金利が急上昇するのを防ぐためFRBはいずれ国債買い入れ(QE)をことに行うことになるだろう。筆者は次のQE5こそが長期株式投資の起点(スタート時期)になると考えている。だが、それはいずれ米国のインフレを急上昇させることになるだろう。
現在の相場は、膨大な額の信用の積み上がり、金融政策の緩み、住宅価格の高騰、不動産投機、レバレッジの爆発、大衆投資家による投機熱の高まりなど、バブルに共通する分母で溢れている。
西部邁によれば、大衆という人種は、「わかりやすい単純模型」に簡単に飛びつく愚かな人々である。大量の人間が飛びつくものに、ろくなものがあった試しがないのである。 相場の世界では、流行とかブームに乗ると、最後にはしっぺ返しが待っている。
儲けそこなうという焦りや、追い込まれた状態で大きな勝負をしてはいけない。
相場は明日もやっている。