「バークシャーの財産」アップル[AAPL]株の半分を売却
著名投資家ウォーレン・バフェット氏率いるバークシャー・ハサウェイ[BRK.B]は2024年4-6月期に保有するアップル[AAPL]株の約半分を売却したことが、8月3日明らかになった。バークシャーによるアップル株の保有は6月末時点で842億ドルと、3ヶ月前の1354億ドルから38%減少した。保有株数は約4億株と3ヶ月前から(3月末時点:7億8940万株)からほぼ半減した。
5月から6月にかけては大型テクノロジー銘柄の主導により、S&P500種株価指数が史上最高値を更新するなど、米株式市場を巡る楽観論が台頭していた。アップル株も2024年4-6月期に23%上昇しており、株高に沸く市場はむしろバークシャーにとっては絶好の売り場になったと推測される。
バークシャーが公開したキャッシュフロー計算書によると、2024年4-6月期の株式売買動向は買いが16億1500万ドルに対し、売りが771億5100万ドルと、差し引き755億3600万ドルの売り越しだった。売越となるのは7四半期連続、また、売越額は前四半期から4倍強に拡大した。うち約750億ドルがアップル株の売却によるものだ。
バフェット氏はかつてアップル株について「バークシャーが保有する財産の一つ」と評していた。また、5月の株主総会で、アップルは「極めて素晴らしい事業。2024年末時点で最大の保有株である可能性が極めて高いと思う」と述べていたが、ここに来て3四半期連続でアップル株の売却を進めている。
2023年10-12月期に1%、2024年1-3月期にも13%削減し、四半期ごとに売却ペースを加速させている。これまでの売却はあくまでポジションのリバランスということで片付けられる程度であったが、今回保有株数を半減したことは、バークシャーによる「意思ある売却」であることは間違いない。
利下げの足音が近づく中、ポートフォリオ上位の銀行株も一部手放す
バフェット氏は2024年4-6月期、アップル株の売却に加えて石油大手シェブロン[CVX]の保有株数も3%程度減らした。さらに7月以降、同様に上位5銘柄の一角であるバンク・オブ・アメリカ[BAC]株の保有も減らした。
つまり、保有上位5銘柄のうち、手をつけていないのはアメリカン・エキスプレス[AXP]、コカコーラ[KO]のみということになる。
バークシャーがSEC(米証券取引委員会)に提出した資料によると、7月17日から8月1日までの半月の間に合計9042万株、金額にして38億ドル規模のバンク・オブ・アメリカ株を売却した。1株あたりの平均売却単価は42ドル程度で、バークシャーが保有するバンク・オブ・アメリカの株数は94万株程度に低下した。
バフェット氏がバンク・オブ・アメリカに投資したのは金融危機が起こった後の2011年8月だった。バークシャーはバンク・オブ・アメリカの優先株に50億ドルを投資、この優先株の配当利回りは6%で、バークシャーには年間3億ドルの配当収入がもたらされた。
また、優先株にはバンク・オブ・アメリカの普通株7億株を1株当たり7.14ドルで購入できるワラントも付いており、バフェット氏は保有する優先株を普通株7億株に転換することが可能だった。バフェット氏はこのワラントを行使するなどしてバンク・オブ・アメリカ株の保有を積み増し、以来、これまでに一度も売却せず保有を維持してきた。
2023年の年次株主総会において、バフェット氏は「銀行への投資はバンク・オブ・アメリカから始まった。私はバンク・オブ・アメリカが好きで、経営陣も気に入っており、取引を提案した。そしてその通りに実行したまでだ」と述べていた。
3月末時点でのバンク・オブ・アメリカの株式の保有数が10億3285万株だったことを考えると、これまでの売却数は保有株全体の約9%に過ぎないものの、米国において利下げの足音が近づく中、13年にわたって保有してきたバンク・オブ・アメリカ株を売却したことは大きな転換点であることは間違いない。
「重大な失敗を避けさえすれば、これまでも、そしてこれからも報われる」
バフェットは2023年の年次株主総会において「我々の事業の大部分は、今年は昨年より低い収益を報告するだろう」と語り、米国経済の「信じられないような時期」が終わりつつあると述べた。バークシャーはそれを裏付けるかのように保有する株式を売越しており、現金ポジションが積み上がっている。
バフェット氏が5月の年次総会で「バークシャーの手元キャッシュは近いうちに2000億ドルを超えるだろう」と語ったように、6月末時点の現金保有残高(現預金と米短期債の保有額を合計した額)は2769億ドルと、前期(2024年第1四半期末は1890億ドル)から約46%増え、過去最高を更新した。上場企業の時価総額と比較すると、シェブロンやネットフリックス[NFLX]、ロイヤル・ダッチ・シェルやペプシコ[PEP]を上回る規模だ。
バフェット氏は以前から、目を見張るようなリターンを達成できる有意義な案件が不足していると述べていた。直近で米国の3ヶ月物短期債の利回りが約5.4%で推移する中、米短期債の保有を積み増している。短期債から得る金利収入は2023年の第3四半期以降、保有株からの配当収入を上回っている。
バフェット氏はバークシャーの年次株主総会で、「なぜ現金を使わないのか」という投資家からの質問に対して「使いたいのはやまやまだが、リスクがほとんどなく、私たちに大きな利益をもたらしてくれると思わなければ、使うことはないだろう」「われわれは気に入った球しか振らないんだ」と語っていた。
バークシャーの手元キャッシュが発する2つのメッセージ
バークシャーの手元キャッシュが積み上がっているという事実が発するメッセージは2つあると考える。1つはバフェットが言及しているように「妥当な価格」の買収対象が見つからないということだ。2700億ドルの資金があれば、バークシャーが完全に買収するか、支配権を取得できる企業はいくらでもあろう。
しかし、過去10年以上にわたる金融緩和を受けた株価とバリュエーションの上昇を考えると、バークシャーが直面している「妥当な価格」の買収先を見つけるのが難しいという課題は、単にバークシャーが機会を選びすぎているという類のものではないことが分かるだろう。
2つ目は、将来起こりうる市場の混乱に備えている可能性だ。バークシャーは巨額の資金と確実なパフォーマンスで、市場の混乱や発作に即座に対応する手段を完備している。バフェット氏は米国市場について「重大な失敗を避けさえすれば、これまでも、そしてこれからも報われる」と述べている。
2008年から2009年にかけての世界金融危機において、破たんの危機に直面したゴールドマン・サックス[GS]はバークシャーに援助を依頼した。バフェット氏は「有利な条件」で「大量の資本注入」を行った。将来、そのような機会は訪れるのか。答えは「イエス」である可能性が高い。いつの時代もそうであるように、行き過ぎた株価の戻りは起こるものだ。そのような混乱が起きたとき、バフェット氏には現金を利用する準備が整っている。