先週の動き:6月CPIを受けニューヨーク金先物価格2,400ドル超で高値接近、国内金価格は為替波乱の中で最高値を更新
先週のニューヨーク金先物価格(NY金)は、週末7月12日は2,420.70ドルで終了した。終値ベースで5月21日に付けた過去最高値(2,438.50ドル)に接近する水準で終了となった。週足は23.00ドル、0.96%高の3週続伸であった。
前週末(7月第1週)に6月雇用統計が労働市場の減速を示したことを受け、米連邦準備制度理事会(FRB)による利下げ観測が高まったことから、NY金は水準を切り上げていた。一時は1ヶ月ぶりに2,400ドル台まで乗せていたことから、切り上げた水準を維持できるか否かに注目が集まった。週明け7月8日は、短期筋のファンドの利益確定売りによって、前週末比34.20ドル安と下落し、再び2,350ドル方向に押し戻された。この点で先週はNY金=中心限月(Active month、8月物)の取組(建て玉残)が大きく減少し、短期筋のファンドが利益確定に走っていることが、出来高と取組の推移から推測できた。
先週は7月9日の上院銀行委員会、同10日の下院金融サービス委員会と2日間の日程でパウエル議長の議会証言があった。最近のデータはインフレ面での「さらなる緩やかな進展」を示しているとし、雇用市場冷え込みの兆候が増えていると強調した。先週の当コラムにおいて、パウエル議長も「リスクはインフレだけではない」という他の主要FRB高官と同様の認識を持っているとみられるとしていたが、その通りだった。一連の発言は、FRBが利下げ方向に体勢を傾けていることを思わせ、金市場では買いが膨らんだ。それにもかかわらず、上値が限定的なものとなったのは、ファンドの利益確定売りによるとみられる。
ただし、その売りも最大の注目材料となっていた7月11日発表の6月の米消費者物価指数(CPI)が、総合指数が前月比で予想外にマイナスとなるなど鈍化したことで消化された。NY金は2,400ドル台にレンジを切り上げた。サービス分野の伸びが粘着型のインフレとして警戒されてきたが、6月CPIは住居費の伸びが鈍ったことが、さらなる鈍化を予見させるポイントになった。
先週はNY金の想定レンジを2,375~2,430ドルとしたが、実際に2,356.00~2,430.40ドルと、ほぼ見通し通りの展開となった。さらに「NY金が想定レンジ上限を試す際に最高値をさらに更新するとみる」とした国内金価格は、このタイミングで1万2467円まで買われ、最高値を更新した。国内金価格は想定レンジを1万2200~1万2450円としたが、実際には1万2189~1万2467円と読み通りの展開となった。
円高方向への動きから国内金の上昇スピードは今後鈍化
為替市場では、6月CPIの結果を受け通貨先物市場で過去最大規模に膨れ上がっていた円売りポジションが巻き戻され、米ドル安円高の動きが進むことになった。米ドル円は、1ドル=161円台半ばでの値動きだったが、CPIの結果を受け1円程度円高方向に動いたところから、米ドル売りが加速し、一時157.44円まで円高が進んだ。結局、158円台で取引を終了したが、3兆円規模の介入があったとされる。介入の手法としては、円の売り持ちが膨らんでいたタイミングで、逆向きの指標の結果を見てドル売りに傾いたところで、背中を押しドル売りを加速させるやり方で、以前から見られてきたものだ。
翌7月12日も159円程度の水準から157円台に値動きが加速することがあり、介入か、との見方が生まれたが、前日11日ともども、真相は不明だ。市場の介入警戒感は高まっている。
米ドル円相場に関しては、160円を超える米ドル高・円安局面は、売られ過ぎ感が強く、円安はピークを付けたと見ている。先週末時点までで、年始からのNY金の上昇率は16.8%、対して国内金価格は31%となっている。上昇率の違いは円安効果による。米ドル円相場は今後時間をかけながら150円方向に進むとみている。予想通りならば為替要因は逆向きで国内金価格には下落圧力となる。ただし、NY金については高値更新を読むことから、実際には国内金価格は一定の高値水準を維持し高値更新もあるとみる。その場合でも、上昇スピードは落ちると思われる。
トランプ・トレードのゴールド上昇は時期尚早
日本が3連休だった週明け7月15日のNY金の値動きは、前週末から反発の8.20ドル高の2,426.80ドルで終了した。同日はNY時間に入り株式市場が開くころから騰勢を強めた。金融市場中心にトランプ前大統領の当選を前提とした、いわゆるトランプ・トレードの動きが見られ、金市場にも波及したとの指摘がある。週末7月12日に起きた銃撃事件をきっかけにした支持率上昇見通しを手掛かり材料とするものだ。
確かに今回の銃撃事件は、米国政治の分断という、状況によっては米ドル安など金融市場から米国外交を通し、国際問題の混乱に波及するリスクを改めて意識させたのは事実だろう。また、トランプ陣営が掲げる大型減税などから、米国財政のさらなる悪化も金市場の刺激要因とされてきたが、現実のものとして意識させた面もある。ただし、足元の買い手掛かりとしては一過性と言える。大統領選の結果を強く意識される類の材料ではあるが、時期尚早であろう。もっとも、バイデン大統領が再選された場合でも、財政赤字の拡大は不可避とみられている。
この日のNY金の高値は2,445.00ドルだった。5月20日に記録した取引時間中の過去最高値2,454.20ドルに接近しているが、こうした高値更新に向けた動きがイベント含みでなく、売りを消化しながら自然体で進行していることが足元の相場の強さを思わせる。
今週の見通し:ウォラー、ボウマン両理事の発言と小売売上高、ベージュブックに注目、想定レンジNY金2,405~2,480ドル、国内金価格1万2200~1万2550円
月末7月30~31日の米連邦公開市場委員会(FOMC)を前にして、来週は政策関連発言を控えるブラックアウト期間に入ることから、今週は多くのFRB高官の発言機会が予定されている。6月のFOMCで示されたメンバー予測(ドット・プロット)では年内の利下げは1回となったが、2回とする見方と僅差だった。6月下旬来ここまでの発言からパウエル議長はじめFRB執行部は2回を予想しているとみられる。一連のデータが示すインフレ鈍化と雇用の減速を受け、いわゆるタカ派とみられるメンバーの発言に注目したい。この点で7月17日のウォラー理事、同18日のボウマン理事、ダラス地区連銀ローガン総裁の発言に注目している。7月16日の6月小売売上高、7月17日の地区連銀経済報告(ベージュブック)も9月利下げ観測を確認する手掛かりとなる。
NY金の想定レンジは、7月15日の安値2,406.10ドルに準じ、2,405~2,480ドルと小売売上高の鈍化を読み最高値更新を見込む。一方、国内金価格はやはり最高値更新を含む1万2200~1万2550円を想定している。