先週の動き:自律反発の戻りに限界、モメンタム喪失 上値の重さを示したニューヨーク金先物価格

メモリアルデーの3連休明けで4営業日となった先週のニューヨーク金先物価格(NY金)は、前々週の週足82.90ドル、3.4%の大幅安に対する自律反発という1週間だった。5月30日にはNY金の中心限月(中心になる取引限月、active month)が2024年6月から8月限に移行した。その上で週末5月31日の終値は2,345.80ドルで週足は前週末比11.30ドル、0.48%の反発となった。5月月間では42.90ドル、1.86%の上昇。3ヶ月連続の上昇となり、年初来では274.00ドル、13.22%の上昇となる。

先週、週足ではプラスとなったものの、2,350ドルを上回る水準では戻り売りが控え、上値は重かった。上値の重さは、5月31日発表の4月のコア個人消費支出(PCE)価格指数(デフレーター)が前年比2.8%の伸びで、加速が見られなかったにもかかわらず反応は限定的で、むしろ上げ一服となると反落してマイナス圏で取引を終えたことに象徴された。前々週後半の大幅下落からの自律的反発が一巡した後に、新たな買い手掛かりが得られずモメンタムが失われたことで、さらにファンドのポジション整理の売りが進んでいることを思わせた。あくまで相場の急落に反応した自律的反発であり、本格的反発には日柄調整とともに有力な手掛かり材料の浮上待ちとなる。

先週は週を通し米長期金利が上昇傾向を維持し、ドル指数(DXY)も強含みに推移したこともNY金には逆風となった。というのも、米財務省は先週総額6000億ドルを超える国債入札を実施。5月28日の入札は新発2年債690億ドルと5年債700億ドルを中心に合計2,970億ドルに上り、大量供給に直面した債券市場では需給面の悪化が懸念された。翌5月29日には440億ドルの7年債の入札を実施。入札結果は前日も合わせ、最高落札利回りが実勢レートを上回り、応札倍率も前回比低下し「不調」ということになった。長期金利の指標となる10年債利回りは、一時4.640%と1ヶ月ぶりの水準に上昇。ドル指数も105ポイント台に上昇し、ゴールドは売られやすい市場環境となっていた。

NY金の先週の想定レンジを2,330~2,380ドルとしていたが、実際の値動きも2,320.80~2,381.20ドルとほぼ同じだった。

一方、国内円建て価格は週を通し、米ドル円相場が1ドル=157円を挟んだ狭いレンジの滞留となったことで、NY金の値動きに沿ったものとなった。日本時間の5月2日の早朝に政府・日銀が為替介入したとみられる際の水準が157円台だった。介入への警戒感もあり、この水準での滞留となったとみられる。結局、国内金価格の先週末の終値は1万1851円で週足は前週末比ほぼ変わらずの12円、0.1%上昇の小反発となった。月間ベースでは142円、1.21%高となった。先週のレンジは1万1747~1万1979円となったが、こちらも想定レンジ1万1740~1万1940円に沿ったものとなった。

商業用不動産市場で「大きな損失」を予想

先週も数名の米連邦準備制度理事会(FRB)高官の発言が続いた。FRB高官の中で私が注目したのは、金融政策に関連したものではないが5月28日のミネアポリス地区連銀のカシュカリ総裁の発言だった。ロンドンでのイベントで講演した際に、聴衆からの質問を受けた同総裁は、米国経済へのリスクとして商業用不動産市場でのストレスを指摘。このセクターで「大きな損失」を予想しており、そうした損失が発生する場合にはサプライズが起きる可能性が高いとした。

以前から金利上昇と長期化する高止まりに伴い、懸念されている商業用不動産の抱えるリスクだが、FRB高官がここまで踏み込んだ発言をするのは珍しい。米国外での講演ということと質疑応答という状況の中で飛び出した発言という特殊な事情ゆえか。このセクターでここまで何も起きていないことから警戒感は薄れがちだが、低金利時代の融資の借り換えが本格化するのは2024年の下半期以降とされている。波乱なく通過できるか否か、ゴールドを見る上で目が離せない。

JPモルガンCEO 「地獄を見ることになりかねない」

FRB高官ではないが、もう一つ、注目すべき発言があった。5月29日のジェイピー・モルガン・チェース[JPM]のジェイミー・ダイモンCEOの「プライベートクレジット(非公開融資)にいずれ問題が生じるだろう」という発言だ。プライベートクレジットとは、投資ファンドやヘッジファンドなど金融機関以外の融資のことだ。ブルームバーグによると、プライベートクレジット業界の規模は、今や1兆7000億ドル(約270兆円)にも上り、活況を呈しているとされる。ダイモン発言は「とりわけリテール(個人)顧客も投資できるようになっていることもあり、『地獄を見ることになりかねない』」(ブルームバーグ)と続いたとされる。

プライベートクレジットには、後発としてJPモルガン・チェースなど大手銀行も乗り出し、既存の貸し手からシェアを奪おうとしているとのことなので、ダイモン発言自体が、いわゆるポジショントークという可能性は否定できない。

「リテール顧客も投資できる」とは、プライベートクレジットを束ねて組成された金融商品が販売されていることを指していると思われる。また、ダイモンCEOは「業界の一部企業は『素晴らしい』が、全部がそうなのではない」とし、市場における問題は往々にして「良くない」企業が引き起こす」と指摘した(ブルームバーグ)ということだが、何やらサブプライム問題を思わせる話ではある。すぐ問題にならないとしても、頭の隅に置いておくのがよかろう。

今週の動き:5月米雇用統計、5月ISM製造業景況指数に注目、想定レンジニューヨーク金先物価格2,320~2,380ドル、国内金価格1万1710~1万2010円

今週は週末6月7日に5月の米雇用統計の発表が控え、その前には求人件数ほか重要指標が並ぶイベント週だ。前回4月雇用統計では前月比雇用者増加数が予想比下振れたことで、FRB利下げ観測にはプラスに働いた。雇用統計に加え6月3日発表のISM(サプライマネジメント協会)製造業景況指数に注目したい。5月23日に発表された米S&Pグローバルの5月の米総合購買担当者景気指数(PMI)速報値が54.4と、2022年4月以来の高水準となったが、より広範囲なISMの指標で状況を確認する。6月5日のISMサービス業景況指数も合わせて注目となる。なお、来週6月11~12日にはFOMCが控える。今回はメンバー19人全員による経済予測の各項目の中央値(ドットプロット)が公表されることから、今週の主要指標が予想より振れた場合の市場の値動きは大きくなりそうだ。

以上を踏まえ、今週のNY金は2,320~2,380ドル、国内金価格は1万1710~1万2010円のレンジを想定している。

【図表】金 縦軸:円建て金/グラム(単位:円)
出所:マネックス証券