前回の記事「【日本株】配当が注目される中、過去に取り上げた資産株はどんな動きをしたのか?」では、株主還元が強化されている中で注目されているDOE(Dividend Of Equity:株主資本配当率)の説明とともに、PBR1倍や企業の保有している資産に注目し、どういう銘柄を探すかについて解説しました。

そこでの話は以下のようにまとめられます。

1.企業の保有している資産に対して、その企業の評価(つまり株価)が低い
2.その企業が、(資産の処分などを含め)株主還元を決める
3.その場合、配当利回りが高い水準になることもあり、株価は大きく反応することが多い

前回取り上げた京成電鉄(9009)、ドリームインキュベータ(4310)、パソナグループ(2168)が優良な子会社を有していて、その価値に対し、株価が安く評価されているというのは多くの方が知り得る情報だったのです。これは公開情報ですし、特にこれらの企業が保有する株式は上場企業だったので、その評価も容易だったと言っていいでしょう。問題は、上記でいう2.がいつ起こるかの想定が難しいという点です。

一方、これまでの記事でも取り上げてきたようなPBR1倍割れを解消しようという動きは確実に2.の動きを起こしやすくしています。上のような例が相次いでいるのもこのような背景があるからです。直近でも、運用会社がPBR1倍割れの企業の社長の再任に反対するというニュース(日本経済新聞2024年3月7日付け)や、金融庁が政策保有株の開示について全上場企業を対象に調査するというニュース(日本経済新聞2024年5月27日付け)が出ています。いずれも経営者が2.を決定する動きを促進するものです。

今回は、そういった動きが進んでいることを理解したうえで、それをどのように投資アイディアに活かせるかを考えたいと思います。

大幅な増配発表した東北新社(2329)を例に考察

配当利回り6.8%、超高配当株に仲間入り

まずは、直近で大幅な増配を行った企業の例を見てみましょう。東証スタンダード市場の東北新社(2329)は5月17日に大幅な増配を発表しました。もともと19円としていた2024年3月末基準の配当金を78円とし、2025年3月期、つまり今年度の配当も同じく78円とすることを発表したのです。

発表前の同社株価は1,144円だったので、78円の配当は配当利回りで言うと6.8%になります。もとの19円だと1.7%ですから、一般的な配当水準から一気に超高配当株に仲間入りしたと言えます。(5月27日現在、今期予想ベースで配当利回りが6%を超える銘柄は東証上場の3,827銘柄の株式の中で4銘柄のみ)

これを受け株価も大きく値上がり、翌営業日の5月20日にはストップ高の1,444円(300円高)となり、5月21日には高値で1,603円をつけました。その後、1,400円台に戻ってきていますが、まさに上記の1.から3.の動きそのものだったと言えるでしょう。

洋画配給を主とする東北新社、一定の利益をキープし会社の資産は成長傾向が続いていた

東北新社といってもピンと来ない方も多いと思います。この会社は主に洋画の配給などを行っていて、映画関連の衛星放送「スターチャンネル」の運営も行っていました。また、自社でもCMなどを含め様々な映像作品を制作しています。たとえば、最近舞台が注目されている「千と千尋の神隠し」の映画の共同製作に名を連ねています。また2023年、役所広司が主演し、カンヌ国際映画祭で最優秀男優賞を受賞した「PERFECT DAYS」の監督であるヴィム・ヴェンダースの作品「パリ、テキサス」は、東北新社の配給です。その他にもアカデミー賞作品賞受賞作品などを配給しています。

特殊な業種で目立たないものの、過去10年にわたって経常利益は20億円以上をキープしており、2014年3月の1株純資産が1,369円だったのに対し、2024年3月は1,815円と着実に成長しています。配当金も新型コロナウイルスの影響のあった2021年3月こそ11円ですが、それ以外はここ10年で2014年3月の配当金14円を上回る水準を続けていました。

つまり、特に利益水準が大きく成長するような状況ではないものの、一定の利益をキープし、会社の資産は成長傾向が続いていたと言えます。一方で、たとえば営業利益を見ると、2012年から2014年にかけて60億円を超えていましたが、それ以降は60億円を超える水準はなく、2023年3月期だと42億円、2024年3月期だと27億円と成長面では苦しい状況になっています。2015年から2024年の10期でみると、7期が減収となっています。

安定しているとは言え、成長性に期待が持てない状況ということもあってか、株価は低空水準が続いており、2015年には1,000円を超える時期もあったものの、この10年での株価は1,000円を切る時期がほとんどでした。ここまで書いていたようなPBRへの注目が集まる中で、2023年以降の株価は上昇傾向となったという状況でした。2022年3月末の株価は622円で、当時の1株純資産は1,640円だったので、0.38倍に留まっていたということになります。

増配がありうる典型的な5つの特徴とは?

もちろん、東北新社が増配する…と個別に見通すのは難しいですが、東北新社は増配などのありうる典型的な特徴が揃っているように思えます。たとえば、以下のような点です。

1. 一定の配当をするための資産がある
2.株価が低い(PBR・PERが低い)
3.一定の利益水準がある
4.ビジネス上、配当を行いやすい
5.株主などからのプレッシャーがかかっている

まず、配当を行うためには当然1.と2.の資産があり、配当をする環境になっていることが大事ですが、企業の継続性を無視して配当を行うというのは、経営者にとっては判断しにくいことです。そのため、3.と4.も重要ということになります。利益以上の配当を行うと、企業の余力も小さくなり、成長余地も乏しくなります。

東北新社の場合は、今回増配した78円配当で、年間35億円の配当金になるようです。一方、2022年3月期から2025年3月期の純利益(2025年2月期は予想)は31億円、31億円、40億円、51億円で、概ね利益額とほぼ同水準ということになります。また、同社の純資産は2020年3月末で698億円でしたが、2023年3月末には824億円になっています。

一方で、売上高は599億円から528億円、2025年3月期には460億円に減少するなど、ビジネスはむしろ小さくなっているので、ビジネスを行う上での資産は十分にあるということでしょう。先ほど東北新社のビジネスとして書いた「スターチャンネル」はジャパネットに売却することも決まっており、同社としてもビジネスを絞って行うべきものを行おうという姿勢と言えます。

そして、なにより5.株主などからのプレッシャーがかかっている、です。同社は2023年3月に3Dインベストメントパートナーズという投資家が投資を開始し、しかも着実に買い増しており、直近の2024年3月には17.7%を保有しています。上記のような増配、子会社の売却などはこの3Dインベストメントパートナーズの主張とも概ね一致しています。

適時開示情報の検索などから「株主提案」を追いかけるとチャンスありか?

1.から4.の要素は企業の分析にあたるもので、本連載でもこれまでよく見てきたものですが、それでは、5.はどのように探すのがいいでしょうか。もちろん、個々の投資家の動きを追うのもいいのですが、そういう投資家を探すのもなかなか大変です。一番早いのは、適時開示情報の検索で、「提案」「株主提案」などで検索することだと思われます。東証のウェブサイトの適時開示でも過去1ヶ月の適時開示は検索が可能です。

上記の東北新社の例でも、2024年に3Dインベストメントパートナーズが株主提案を行っており、その開示が行われたのは4月17日でした。そもそも、3Dインベストメントパートナーズが大株主に登場したのは2023年3月です。2023年3月はそのニュースを受け、株価も上がり、月末で710円、また2024年4月末の株価は1,240円です。直近は1,400円を超える水準で、おもしろい投資余地があったということが言えそうです。株主提案などを見て、それを追いかける投資でも、いい投資チャンスがありそうだということでしょう。