ついに、ついに日経平均は史上最高値を更新し、なんと4万円台に乗せることとなりました。2023年末のコラムでは「2024年は史上最高値を狙う1年」と位置付けましたが、早くもそれが実現してしまったというところです。

長く証券業界に携わってきた身としては、遥か遠い目標と思われた最高値更新をこの目で見ることができたことに感慨深いものを感じています。このような上昇相場を目の当たりにして、今後は「持たないリスク」を感じた投資家がさらに参入してくる可能性も増してきたと考えます。一旦は目標達成感から売りが嵩む局面も出てくるでしょうが、まだしばらくは強気相場が続くと期待できるではないでしょうか。

ただし、以前のコラムでも採り上げた通り、強気の時ほどリスクへの備えもまた重要になってきます。急騰に浮かれることなく、「何かおかしなことはないか」というアンテナをしっかり張っておきたいところです。

第一生命によるベネフィット・ワン買収など、巷で噂されるTOBとは

さて、今回はTOB(Take Over Bid)を採り上げてみましょう。TOBとは株式の公開買付のことで、対象企業の経営権取得を目的に対象企業の株式買付価格や取得予定株数などの条件を公告し、取引所外で多くの株主から買い付ける一連のプロセスを指します。合併の場合は両社の経営陣が合意し、株主総会で承認を得れば株式を買い集める必要はありません。

しかし、買収や経営権取得の場合は対象企業経営陣の意思は関係なく、一定数の株式を買い集めれば実現が可能です。TOBはまさにこの株式を広く既存株主から買い集める際に適用される仕組みなのです。したがって、時としては対象企業経営陣が買収されることに反対の立場を取ることもあり、その場合は敵対的なTOBが展開されることもあります。

直近では、従業員福利厚生サービスなどを手掛けるベネフィット・ワン(2412)がTOBにより第一生命ホールディングス(8750)の完全子会社になることが発表されましたが、同社に対してはその前に医療情報サービスのエムスリー(2413)がTOBを実施し、同社経営陣も一旦それに賛同していました。

ところが、第一生命ホールディングスがより好条件のTOBを提示した結果、そちらへの賛同に鞍替えというケースでした。このような、ある意味「面白い」展開が起こり得るのがTOBでもあるのです。

MBO同様、企業の成長手段としてTOBも一般化へ

なお、TOBの実施にはきちんとしたルールがあり、一定数以上の株主から持株比率が5%を超える水準までの買付けをする場合はTOBを宣言しなければなりません。極めて少数の株主から買付ける場合でも、その結果、持株比率が3分の1を超えるならばTOBによる対応が求められます。これは短期間に大量の株数が特定者によって売買されるため、情報公開によって取引の透明性を高め、株主間で不公平が生じないようにする必要があるからです。

そのようなTOBですが、ベネフィット・ワンの例にもあるように、最近はかなり一般的になってきたように感じています。以前のコラムでも採り上げたMBOと同様、TOBが浸透してきたのは、M&A(企業の合併・買収)が頻繁に発生するようになってきたという時代の流れもあるのでしょう。

実際のところ、多くの企業は成長の手段としてM&Aを積極的に取り入れていますし、被買収企業となることへの心理的抵抗も(結果的に事業が成長できるのであればむしろ歓迎するなど)現在は少なくなってきたように感じています。今後もTOBが増えていくだろうことは想像に難くありません。

株式投資の観点から見たTOBの魅力とは

当然、TOBは株式投資という観点からも魅力があります。TOBを成立させるためには多くの既存株主が株式を譲渡したくなるような魅力的な買付価格を提示する必要があります。ベネフィット・ワンへのTOBはその典型例でしょう。多くは現状の株価に対して何割かのプレミアムを付与した買取価格が提示されることになるため、必然的にこのプレミアムを狙った株式投資戦略も機能することになります。

もちろん、買収する側の企業も事業強化に結び付くため、企業価値向上へのシナリオが見えてくることになるでしょう。しかし、TOBプレミアム狙いの戦略を採るとしても、MBOに関するコラムで解説した通り、今後どの企業がTOBの対象になるのかという予想は困難を極めます。

そこで、外形的にTOB対象となっても不思議ではないような企業群をデータから機械的に絞り込んでみましょう。ここでは絞り込み条件を、直近期ROE10%以上かつPBR1倍未満で、親会社を有する企業、としてみました。

昨今、親子上場に対する厳しい目もあり、高収益ながら市場の評価が解散価値を下回っている子会社ならば、親会社も安いコストで100%子会社にするインセンティブは十分あると考えたからです。TOBは対象企業の経営権取得が目的ですから、既に過半の持株比率にある親会社はTOBをかけやすいだろうというのも、この条件を設定した理由の1つになります。

機械的に上記条件に合致する企業をスクリーニングすると、2月末時点で日本伸銅(5753)、エストラスト(3280)、山陽特殊製鋼(5481)、プレサンスコーポレーション(3254)、両毛システムズ(9691)、トーメンデバイス(2737)、トラスト(3347)、遠州トラック(9057)の8社がこれにヒットしました。

直近では同様の条件にあったメルディアDCはTOBが成立し、親会社の完全子会社となっています。もちろん、これらはTOBが予想される企業群という意味ではなく、TOBがなされても無理がないだろうという企業群です。

また、今回は親子上場会社にターゲットを絞ってスクリーニングしましたが、ベネフィット・ワンのように親子関係になくとも、より戦略的なTOBが発生することも十分あります。それでも、経営権取得が目的である以上、やはり高い収益性を有する企業がそのターゲットになってくるという原則は揺らがないはずです。ぜひ、条件によるスクリーニングで銘柄を探してみるというアプローチを試してみてはいかがでしょうか。