前回のコラム公開後から株式市場は俄かに活気を帯びてきました。先月11月下旬には日経平均が年初来高値を4ヶ月ぶりに更新するに至っています。米国金利引き上げ観測の後退をきっかけに、特に海外投資家が強気相場を牽引した印象です。今後の焦点は、この上げ相場の持続力でしょう。

強気相場の参加者がもっと広がらなければ、遅かれ早かれ腰折れとなってしまう可能性は否めません。中国景気の停滞懸念や、まだら模様の種々の国内景気指標を見る限りは、まだ慎重な目線を外せないようにも感じています。しかし、時には期間限定の強気相場と割り切って、しっかりと踊ることも重要です。ここから当面は掉尾の一振と期待したいところです。

MBOとは何か?MBOによって得られるメリットとは

さて、今回は昨今ニュースで目にすることの増えたMBO(Management Buy Out)を採り上げてみましょう。

MBOとは、とても簡単に言ってしまうと「経営陣による会社買収」に相当します。多くの企業は会社の持主(=株主)と経営陣が全くの同一ではありません。経営陣は株主からの負託を受け、その企業の価値を引き上げるという責務を負う、という構図にあります。そのため、時として株主が求める経営が現場の経営陣の手法とマッチしないケースが発生します。

ほとんどのケースは経営手法の変更や取締役の入替によってこの問題は解決するのですが、経営陣自身が逆に会社の持主となって経営を進めるという選択が採られることもあるのです。これがMBOです。MBOでは経営陣と株主が一体化するため、経営手法に対する齟齬が発生しなくなり、意思決定の迅速化が期待できることになるのです。対象企業が上場会社であれば、MBOで非公開化することにより、上場維持に関する諸コストの削減も実現できます。

MBOで注意しておきたいポイント

一方で、デメリットは「上場企業」という肩書きがなくなることで社会的信用力の低下懸念が生じる他、市場目線による経営監視がなくなることでガバナンスの低下や成長意欲の鈍化懸念があるというところでしょう。何事にも一長一短はあるということになります。

大正製薬ホールディングス(4581)やベネッセホールディングス(9783)といった大型MBOなど、最近MBOのニュースが散見されるようになったのは、ガバナンスに対して、特に上場企業にはより高いハードルが課せられるようになったこと、それに伴って経営決定に時間を要するようになったこと、短期的な業績低迷を甘受してでも、より長期的な戦略投資を実行したいという戦略的な思考が浸透してきたことが背景として挙げられるでしょう。

M&AやTOB(株式公開買付)が珍しくなくなったことによる心理的影響もあると考えます。それでもMBOが成立するためには相当数の既存株主がMBOに賛同して経営陣へ株式を売却しなければなりません。MBOを仕掛けた経営陣は株式を売ってもらえるような魅力的な買付価格を提示する必要があるのです。

多くは現状の株価に対して何割かのプレミアムを付与した買付価格が提示されることになります。そのため、このプレミアムを狙った株式投資戦略もまた、TOBの場合と同様、ここでは成立することになるのです。

しかし、MBOプレミアム狙いの戦略を採るとしても、今後どの企業がMBOに踏み切るかの予想は困難を極めます。MBOは基本的に経営陣の意思で決定されるものであり、業績動向などファンダメンタルズに沿った「論理的状況的帰結」だけではない部分が大きいためです。

MBOを選択肢として考えた場合、投資妙味のある企業を見極めるには

そこで、MBOがあっても納得できるような企業群をデータから機械的に絞り込んでみましょう。考えられる絞り込み条件としては、堅調な業績を挙げているものの、株価評価が比較的低く、MBO後に経営の足枷とならないような健全な財務を持ち、そして経営陣が買収できる程度の「程良い」規模の時価総額、ということになるでしょうか。

あるいは、新市場区分下における暫定上場銘柄もその条件に加えても良いかもしれません。暫定企業は早ければ1年後までに一定の条件をクリアできなければ上場廃止となってしまうのですが、広く株主が分散したままの市場退室となると、意思決定に時間がかかる構造や株主対応コストの負担も残ることになります。

強制的な上場廃止とMBOによる非公開化は似たように見えますが、その後の経営の自由度には雲泥の差が生じます。上場廃止懸念が高まれば、MBOの検討にも合理性があると考えるのです。

なお、上場廃止を株価が織り込み始めてから慌ててMBOに踏み切ると、今度はMBOに要する資金の圧縮を狙った意図的なものとして訴訟の対象になる可能性がありますので、難しい経営判断となります。

ここでは機械的に、ROE8%以上(堅調な業績)、PBR0.6倍未満(低い株価評価)、D/Eレシオ0.5倍以下(健全な財務)、プライム市場上場、「程良い」時価総額という条件で企業をスクリーニングしてみました。

12月初旬時点の調べではPEGASUS(6262)、中山製鋼所(5408)、小野建(7414)、日本トランスシティ(9310)、平河ヒューテック(5821)、ノーリツ鋼機(7744)、福山通運(9075)、新日本電工(5563)、日本トムソン(6480)の9社がこれにヒットしました。時価総額では100~1900億円という規模感です。

繰り返しますが、これらはMBOが予想される企業群という意味ではなく、MBOを選択肢として考えても無理がないという企業群です。難しい切り口でも、このような銘柄選択の方法があるということです。

スクリーニングは銘柄選択の上で非常に有用です。是非、MBOに限らずテーマに沿った条件を設定し、銘柄を検索してみてください。きっと見落としていた銘柄の発見に繋がることでしょう。