先週の振り返り=週後半は米金利大幅低下で米ドル反落

先週の米ドル/円は、10月31日の日銀金融政策決定会合後に大きく上昇し、一気に2022年10月21日に記録した米ドル高値、151.9円に迫る動きとなりました。ただその後は、11月1日のFOMC(米連邦公開市場委員会)や予想より弱い米経済指標の結果を受けて米金利が大きく低下。日米金利差米ドル優位が縮小したことで、米ドル/円も149円台前半まで反落となりました(図表1、2参照)。

【図表1】米ドル/円の日足チャート(2023年9月~)
出所:マネックストレーダーFX
【図表2】米ドル/円と日米10年債利回り差(2023年4月~)
出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券が作成

米経済指標は総じて弱い結果に、米10年債利回りも大きく低下

先週は11月第1週ということで、10月雇用統計を筆頭に注目度の高い米経済指標発表が目白押しでしたが、下記のように総じて予想より弱い結果が目立ったと言えそうです。

1日:ISM製造業景気指数=予想49、結果46.7
3日:10月NFP=予想19万人増、結果15万人増
同失業率=予想3.8%、結果3.9%
ISM非製造業景気指数=53、結果51.8

これに対して、一時2007年以来約16年ぶりに5%を突破するまで上昇した米長期金利、10年債利回りは素直に低下で反応。11月3日の雇用統計発表の後は日中の取引で一時4.5%も割れるなど大きく低下しました。米10年債利回りの低下幅は、短期間に0.5%程度にも達したわけです。

そもそもこのところの米金利は、上昇要因への反応が鈍い一方で低下要因へ過敏に反応する傾向がありました。10月26日に米7~9月期の実質GDP・速報値が前期比年率で4.9%という異例の大幅上昇となったにもかかわらず米金利が低下したことなどは、その最たる例だったのではないでしょうか。

米金利が「低下要因」に過敏に反応する2つの理由

この背景には主に2つの理由があると思います。1つは強すぎる米景気が減速に転じ始めている可能性があるということ。そしてもう1つは、テクニカルに見て米金利が「上がり過ぎ」、その修正により低下する可能性が高くなっているということです。

米10年債利回りの90日MA(移動平均線)かい離率は一時プラス20%近くまで拡大しました。これは、経験的には短期的な「上がり過ぎ」懸念が強まったことを示すものでした。同かい離率は先週の米10年債利回り低下で大きく縮小しました(図表3参照)。これは、「上がり過ぎ」の修正が進んだという意味になります。

【図表3】米10年債利回りの90日MAかい離率(2010年~)
出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券が作成

これまで、短期的な「上がり過ぎ」修正局面では、米10年債利回りは90日MAを比較的大きく割れるまで低下するのが普通でした。これを参考にすると、米景気の減速を示す材料を確認しながら、米10年債利回りは足元で4.3%程度の90日MAを割り込んでさらなる低下に向かう可能性もあるのではないでしょうか。

【図表4】米10年債利回りと90日MA(2023年1月~)
出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券が作成

日米の10年債利回りがともに低下するなら、米ドル/円の下落要因に

先週は、日銀の金融政策会合があり、YCC(イールドカーブ・コントロール)で設定している日本の10年債利回りの上限について柔軟に対応することなどが決まりました。ただ、日本の10年債利回りは基本的に米10年債利回りの影響を強く受けるので、米10年債利回りがさらに低下に向かうようなら、日本の10年債利回りも上昇は一巡し、低下に向かう可能性があるでしょう(図表5参照)。

【図表5】日米の10年債利回り(2023年6月~)
出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券が作成

日米の10年債利回りには値動きに高い相関性がありますが、水準は大きく異なります。このため同じように低下する場合は、どうしても米10年債利回りの低下幅が日本の10年債利回りの低下幅より大きくなります。この結果、日米金利差米ドル優位は縮小する可能性が高くなるので、米ドル/円にとっては下落要因となるでしょう。

今週の注目点=大量の米ドル買いポジション手仕舞いは?

米ドル/円が一時151円まで上昇した中で、為替市場のポジションは大きく米ドル買い・円売りに傾斜している可能性が高そうです(図表6参照)。金利差の変化などから米ドル/円の下落リスクが高くなった場合、米ドル買いポジション手仕舞いも注目されるところとなるのではないでしょうか。

【図表6】CFTC統計の投機筋の円ポジション(2022年1月~)
出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券が作成

1年前の2022年11月は、米CPI(消費者物価指数)発表をきっかけに1日で146円から140円まで米ドル/円が急落する「CPIショック」が起こりました。これは、大量の米ドル買いポジションを、少しでも米ドルが高いうちに売ろうとする動きを加速させたと見られ、その後の米ドル一段安を後押しするところとなりました。

米景気の減速とそれに伴う米金利低下の可能性が出てきたことで、大きく米ドル買い・円売りに傾斜していると見られるポジションの手仕舞いは、今後米ドルの上値を抑制するとともに、状況次第では米ドル下落を加速させる可能性もあるのではないでしょうか。以上を踏まえると、今週の米ドル/円は147~151円中心のレンジで予想したいと思います。