毎週月曜21時から開催している「広木隆のMonday Night Live」でいただいたご質問のうち、セミナー内で回答しきれなかったご質問に広木隆が回答いたします。回答対象とするご質問は、サイトへの掲載を考慮して選択採用とさせていただきます点についてご了承くださいますようお願いいたします。

Q.世界を取り巻く外部環境が不安定要素が多く、日本株に対して逆風ですが、どのように対応すればよいでしょうか。

いずおのジョン様からのご質問

広木さん、世界を取り巻く外部環境が、不安定要素が多く、日本株に対して逆風です。特に米国下院議長問題について、とても心配です。
どのように対応すればよいでしょうか。

 

回答

「いずおのジョンさま」のご心配はごもっともです。

特に米国下院議長問題は深刻ですね。米連邦議会で10月3日、史上初めて下院議長が解任されました。上院の議長は副大統領が兼任するため、下院議長はまさに連邦議会の「顔」と言える存在。下院議長は、大統領が病気や事故で職務を継続できなくなった場合の職務継承順位が、副大統領に次ぐ2番目に位置づけられている要職中の要職です。その議長が解任されるというのは米国の政治がいかに機能不全に陥っているかを示す象徴的な事件です。

しかし、さらに言えばこれは民主主義の機能不全だとも言えます。かつて英国の首相を務めたウィンストン・チャーチルは「民主主義は最悪の政治システムだ。これまで試されたあらゆるシステムを除いては」と述べました。民主主義には多くの欠陥があるが、それでも社会主義や共産主義よりはマシ、という意味です。

ところが、こうした事態が起こると、本当に民主主義が良いのかという疑問がわいてきます。事実、世界では専制政治の体制をとる国のほうが、社会システムのパフォーマンスがよいという指摘もあります。またマルクス経済学者・斎藤幸平氏の『人新世の「資本論」』がベストセラーになったように、新しい社会主義を求める声もあります。この問題は単に米国政治の空転というレベルを超えて、民主主義の存続が根幹から揺さぶられるような事態に発展する危険を孕んでいると思われます。

資本主義というものは、自由主義、市場主義とセットで語られる経済システムですが、その政治形態は民主主義のもとに成り立つと考えられてきました。しかし、一方では中国の「国家資本主義」のような例もあります。民主主義が揺らげば、中国のような政治経済のシステムの台頭を許すことにつながるでしょう。それをよしと考える人がどれだけいるでしょうか。

議長解任から3週間、やっと一昨日の10月25日に米連邦議会下院は新しい議長に共和党のマイク・ジョンソン氏を選出しました。しかし、これまで審議がストップしていた案件がすんなり解決に向かうとは考えにくいです。イスラエルやウクライナ支援など問題は山積しています。なかでも現在、暫定的な「つなぎ予算」でしのいでいる予算編成の期日が11月17日に来ます。期限までに本予算か新たな「つなぎ予算」を編成できなければ、予算切れで政府機関は一部閉鎖されます。市場は再び「政府機関閉鎖」のリスクに翻弄されることになるでしょう。

Q.米国では賃金上昇率が物価上昇率を上回ると聞きますが、その背景を教えてください。

旅人様からのご質問

米国では賃金上昇率が物価上昇率を上回ると聞きます。
その背景を教えてください。

 

回答

つまり実質賃金の伸びがプラスということで健全な状態にあるということです。そもそも米国では物価も上がるが賃金もそれと同等かそれ以上に上がるという状態が普通でした。そうでなければ人々が生活苦を訴え、政権がもちません。ところがコロナが生み出した特殊な状況のため物価が極端な上昇率を示したため、一時的に実質賃金の伸びがマイナスになっていましたが、ここにきて物価上昇率が落ち着いてきたため、もとに戻ったということです。

日本も実質賃金の伸びがプラスに転換するような状況にならなければなりません。その意味では来春の春闘が大いに注目です。岸田首相は「しっかりと賃上げを行う」と発言しています(テレビ東京ワールドビジネスサテライト等での発言)が、賃上げを行うのは政府ではなく、企業の判断です。そして企業に賃上げを促すのは、なによりも好業績があってのことです。日銀が金融緩和を続け、為替の円安が進み、企業の業績は好調です。ここでしっかりと賃上げを根付かせるために、あと必要なのは日本の労働者の生産性向上です。生産性向上を伴って業績が伸びる。そのような軌道で企業が成長する経済を作らなければ、一時的なムードに乗った賃上げは持続的にはならないでしょう。

Q.アメリカ株が底値をつけて反転上昇するのは何時ごろと予想されますか。

長崎竜馬様からのご質問

アメリカ株が底値をつけて反転上昇するのは何時ごろと予想されますか。

 

回答

12月のFOMCの頃だと思います。アメリカ株の軟調は米国長期金利の上昇に終わりが見えないことが主因だと考えています。長期金利の上昇の背景にあるインフレはすでにピークアウトしていますが、そこから長期金利のピークアウトまでにはタイムラグを伴います。12月のFOMC(米連邦公開市場委員会)で利上げの終焉がはっきりすれば長期金利のピークアウト感が台頭して株も底入れするでしょう。

Q.今後の中国経済についての見解を教えてください。

まさ様からのご質問

ニデックの決算は悪くなかったのですが、中国リスクで株価がさえません。
今後の中国経済についての見解を教えてください。

 

かわら様からのご質問

中国経済に対する見解を。
一時は20年後には米国のGDPを超えるなんて話もありましたが。

 

回答

ニデック(6594)は2024年3月期の電気自動車(EV)向け部品事業について「150億円の営業赤字になる」として、今期に初めて黒字化させる計画を撤回しました。同社が中国で投資を拡大してきたこの事業の不振が明らかになったことで、成長市場として期待した中国の先行き不安が投資家心理を冷やし、他の関連銘柄にも売りが波及しました。

一部のコメントで「主力部品メーカーとして中国市場に入り込んでいるニデックが示した見通しが想定外に悪かった。『世界の工場』の不調が日本の製造業全体に響きかねないとの印象を与えた」というものを見ましたが、ニデックの決算を中国リスクに結びつけるのは誤った見方でしょう。

これは中国の景気が悪くてニデックの部品が売れないのではなくて、現地メーカーとの競争に敗れた結果です。そもそも競争にすらなっていないです。中国政府は、中国の電気自動車(EV)メーカーに対し半導体などの電子部品について、中国企業の国産品を使うように内部で指示していることがわかったと読売新聞が報じています。世界的に急成長するEVの分野でサプライチェーンを国内で完結させる狙いとみられ、今後、日米欧の部品メーカーは排除される可能性が高いと見られています。

だとすれば、これはニデックの戦略ミスで、この点は永守さんも認めています。永守さんは決算説明会で「戦略方針を変えた」と話し、「中国一辺倒」の販売を改め、日米欧のEV市場の開拓に力を注ぐ考えを示しました。

中国経済はこれまでずっと述べているように、成長鈍化は既定路線で、しかし、底堅く推移しています。

Q.今後、長い目で見た場合、為替リスクとヘッジコストの見解はいかがでしょうか。

yoshi様からのご質問

株式から外国債券中心のポートフォリオに移行中です。ただ、為替変動リスクが心配です。また、国内の為替ヘッジ有り投信の場合、ヘッジコストも気になります。今後、長い目で見た場合、為替リスクとヘッジコストの見解はいかがでしょうか。

 

回答

これはまさに「投資にフリーランチはない」ということです。為替リスクをとりたくなければ為替ヘッジをするわけですが、その場合のヘッジコストは円と外国通貨の金利差です。外債の高金利はヘッジコストで相殺されてしまいます。

外債の高金利を享受したいなら、為替変動リスクを受け入れるしかありません。特にいまのように長短金利が逆ザヤになっている時はヘッジコストが外債ポートフォリオ全体の利回りを上回るのではないかと思われますので、ますます難しくなります。

参考までですが、生保の下期の運用計画が出そろいました。各社ともオープン外債、すなわち為替ヘッジなしで外債を増やす計画になっています。円安がしばらく継続するとの見通しを持っているようです。

Q.米国債券が魅力的ではあるが、短期、中期、長期で魅力度合いはどの程度違うのでしょうか。

まる様からのご質問

米国債券が魅力的ではあるが、短期、中期、長期で魅力度合いはどの程度違うのでしょうか。10年債が5%だが、中長期の債券ETFは下落が止まりません。魅力的なのだけれどな、と。

 

回答

どう考えても米国債は魅力的ですよ。ドルで5%の利回りですから。これは前の質問にも関連しますが為替をどう見るかですね。10年後のドルの価値を信じるなら黙って10年債を買って満期保有でよいのではないでしょうか。

債券ETFの価格が下がるのは金利が上がっているからです。金利変動に賭けて短期でトレードするわけではないでしょう。個人投資家は機関投資家と違って、債券の評価損を気にする必要はありません。価格変動よりも利回り水準そのものを重視して投資を判断されるべきです。

短期、中期、長期で魅力度がどう違うかというのは、リスクの違いです。短期債はリスクが小さく、長期になるほどリスクが大きくなります。ここでいうリスクとは金利感応度=デュレーションという意味ですが、直感的に考えても、例えば1年債は1年で投資が完結するので、不確実な要素が少ないから、とも言えます。

では短期債のほうが魅力的なのでしょうか。そうではありません。短期債には隠れたリスクがあります。それは再投資リスクです。10年債なら投資した時点で10年間のリターンが(ドルベースで)確定します(デフォルトはないと仮定して)。

ところが短期債では‐例えば2年債を例にとると、満期償還になった2年後に同じ条件で投資できる債券があるかわかりません。その時に大幅に金利が下がっていたら、低利回りの債券で我慢するしかないのです。

結局、将来の不確実性と価格変動リスクのトレードオフです。それをどう受け入れるかというのは投資家のリスク許容度の問題です。


このコーナーでは、毎週月曜夜21時から開催している「広木隆のMonday Night Live」でいただいたご質問のうち、セミナー内で回答しきれなかったご質問にチーフ・ストラテジストの広木隆が回答いたします。

今回は2023年10月23日のセミナーで寄せられたご質問から抜粋して回答しています。

回答対象とするご質問は、サイトへの掲載を考慮して選択採用とさせていただきます点についてご了承くださいますようお願いいたします。

 

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