異例の米金利上昇と中国等の米国債売却の可能性

異例だったのは株価暴落や米ドル/円下落よりも米金利の急騰

4月に入ってから、トランプ米大統領の相互関税発表をきっかけに世界的な株価暴落、「トランプ・ショック」が広がると、その中で米ドル/円も144円割れ寸前まで下落した。ただ、こうした金融市場の動きの中で異例だったのは米金利の動きではなかったか。

基本的に株安、リスクオフ局面では代表的な安全資産である米国債は緊急避難的な資金の逃避先になる。この結果、米国債価格は上昇し、利回りは低下する。ところが今回の「トランプ・ショック」局面では米金利は逆に大きく上昇した。

この結果、日米金利差(米ドル優位・円劣位)は大きく拡大し、米ドル安・円高はそれからかい離する形で起こった(図表1参照)。こうした金融市場の動きの背景には何があったのか。

【図表1】米ドル/円と日米10年債利回り差(2025年1月~)
出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券が作成

米金利上昇の背景にあったもの

トランプ大統領が仕掛けた形の世界貿易戦争に対して、中国などは報復措置に動いた。その一環として、中国などが保有している米国債の売却を拡大した可能性はありそうだ。

そうであれば、米国債売却で米国債利回りが上昇する中、それを尻目に米ドルが下落したこととも辻褄は合う。実際に4月以降の米ドル/円と日米金利差は、金利差拡大の一方で米ドル/円が下落するという逆相関の関係にも見える(図表2参照)。

【図表2】米ドル/円と日米10年債利回り差(2025年1月~)
出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券が作成

円はすでに「買われ過ぎ」ていた

「トランプ・ショック」という世界的な株価暴落局面での米ドル安・円高拡大については、リスクオフの円買いの影響が大きいとの解説が多かった。ただ、CFTC(米商品先物取引委員会)統計の投機筋の円ポジションはすでに空前規模の買い越し(米ドル売り越し)となっていた(図表3参照)。「買われ過ぎ」となっていた円が、リスクオフで果たしてさらに買われることになっただろうか。

【図表3】CFTC統計の投機筋の円ポジション(2005年~)
出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券が作成

米中対立が米ドル安・円高の流れを左右する

4月9日、トランプ大統領が一部の関税発動は90日間停止する一方で、中国に対する関税率は一段と大幅に引き上げるなどと発表した。これを受けて、株価は世界的に急反騰となり、米ドル/円も145円程度から一気に148円を超えるまで大きく米ドル高・円安へ戻す展開となった。

しかし、翌10日の東京市場で株価が大きく上昇したのに対し、米ドル/円はむしろ米ドル安・円高へ動いた。株高、リスクオンでも円売りが続かなかったのはなぜか。

「トランプ・ショック」局面での米ドル安・円高を主導したのがリスクオフの円買いなら、リスクオンに転換すれば円買いは収束し、基本的には円売りに転じることになるだろう。

ただし、中国などの対米報復としての米国債売却がこの間の米ドル安の主導役なら、米ドル安・円高の流れを左右するのはリスクオフかリスクオンかではなく、米中対立に伴う報復合戦の構図が変わるかということではないか。