10月の米CPIは総合指数の前年同月比上昇率が7.7%と市場予想(8%程度)を大幅に下回った。債券市場では長期金利が急低下した。今回のCPIは確かにポジティブ・サプライズだが、この先、揺り戻しはあるだろう。しかし、これで長期金利はピークアウトしたと判断していいだろう。

前回のレポートでは、

<結局、『もうすぐ「不景気の株高」が始まる』で書いた通りなのだろうと思う。>

と書いた。それで正解だった。

10月に入ると米長期金利上昇⇒米国株安という構図が崩れた。10月のダウ平均は14%上昇し、1976年1月以来46年9カ月ぶりの上昇率を記録した。この間、長期金利は上昇を続けた。10月下旬には2007年11月以来15年ぶりの高水準となる4.33%をつけた。その後、長期金利は一時低下したものの、それでも今週初めの時点でまだ4.2%を超える水準にあった。

「金利上昇で株価下落」という構図が崩れたわけは、僕がサブシナリオで掲げた、株式市場が債券市場のプライシングを信用しなくなったというものだ。つまり、4%を超える水準の長期金利は行き過ぎであり、いずれ低下すると株式市場が見込み始めていたのだろう。これは、株式相場が本来持つ、数カ月先を読む機能を取り戻したと言える。

これまではインフレの高止まりやFEDのタカ派的な利上げ姿勢ばかりに目が奪われていたが、ようやく利上げの「終わりの始まり」を意識し始めたということだ。

11月のFOMC後の会見でタカ派姿勢を示したパウエル議長だったが、データに基づけば利上げペースの縮小を次回FOMCで決めるだろう。

全米企業エコノミスト協会(NABE)の10月の景況調査では、経済専門家のほぼ3分の2が米国はすでに景気後退に陥っているか、あるいはまもなく陥る可能性があると考えている。こうした見方の正当性を裏付けるようにISM製造業景気指数は好不況の境目である50割れ目前まで低下している。

10月の非農業部門雇用者数は前の月より26万1000人増加した。19万人強を見込んだ市場予想を上回った。平均時給は前月比0.4%増と、前月(0.3%増)から伸びが加速。市場予想は0.3%増だった。ただし、雇用は強いように見えて、雇用の増加ペースは着実に鈍化しつつある。26万1000人という増加幅は2021年以降で最小だ。

企業の動きとしても人員整理のニュースが増えてきた。アマゾン・ドット・コムは増員につながる新規採用を停止すると発表。配車サービスのリフトは全従業員の13%に相当する約683人を削減すると明らかにした。強烈だったのはメタのリストラだ。メタは9日、世界で1万1000人超を削減した。テック業界では10月までの人員削減が前年の2.6倍の3万人近くに増えているとの報道もある。いずれ雇用統計にも減速感がより鮮明に出てくるだろう。

FF金利先物は、9日時点ではターミナルレートは5%超、ピークのタイミングは来年半ばを見込んでいたが、CPIを受けてわずか1日で大きく低下した。ターミナルレートは5%を越えない4.875%、ピークも来年の5月に前倒しとなった。

FEDの利上げは12月に0.5%に利上げ幅を落とし、来年前半には利上げが打ち止めになるだろう。年後半には利下げに転じるものと予想される。

【グラフ1】FF金利先物フォワードカーブ
出所:Bloomberg
【グラフ2】NYダウ平均
出所:Bloomberg

NYダウ平均は年初につけた高値から9月末の安値までの下げ幅に対する50%をわずか1カ月で取り戻した。相場格言では「半値戻しは全値戻し」という。

CPIを受けた昨日の大幅高でさらにフィボナッチの61.8%まで上昇している。最高値まで、あと下げ幅の3分の1強を残すだけの水準まで戻ったということだ。

利上げ加速、長期金利上昇で下げた相場なので、その反対のこと、すなわち利上げの減速~停止で長期金利がピークアウト~低下に向かえば、戻りを辿るのは道理である。米国株は「不景気の株高」が始まったように思われる。

金利がピークアウトしなければ株価の底入れはないと従来から述べてきた。これで金利のピークアウトは、ほぼ確実と言っていいだろう。問題は、前回のレポートで指摘した通り、業績見通しの低下に歯止めがかかるか、である。

ほんの、かすかな光明だが、早くも下げ止まりの兆しはある。グラフはNASDAQ100構成銘柄の12カ月先予想EPSである。微妙なところだが、確かに直近は上向いている。このまま底入れできるか要注目だ。

背景には米国IT企業の素早い危機対応がある。人員削減は確かにネガティブなニュースだが、これほど迅速かつ大胆に手を打てば、立ち直りも早いということだろう。

【グラフ3】NASDAQ100構成銘柄の12カ月先予想EPS
出所:Bloomberg

実際、アマゾン、マイクロソフト、アルファベットなどの予想EPSは上向きになっている。あとは最大の時価総額を誇るアップルのEPSが上向くのを待つばかりだと言える。

企業業績見通しさえ下げ止まれば、金利の低下を受けて、株価は上がるべくして上がるしかない。それを待って、本格反騰のスタートとしたい。