米ドル/円は115円の壁を突破するか

10月が終わり、米ドル/円の月足ロウソクが月末終値で一目均衡表の月足「雲」を上抜けることとなりました。これは2019年4月以来のことであり、結果として月足のチャートフェイスから受ける印象は前月(9月)までとは一変しました。

市場では、円相場の下限とされる購買力平価(PPP、消費者物価ベース)の114円台前半や「115円の壁」などが意識されている模様ですが、依然として円の先安観が根強いことも事実です。

10月下旬以降、それまでの急上昇に対する調整安の状態にありながらも底堅く推移しているクロス円全般のリバウンドを期待する向きも少なくない模様です。

特に、豪ドル/円については「豪州準備銀行(RBA)が2020年3月に導入したイールドカーブ・コントロール(YCC)を停止して、利上げの前倒し準備にかかる」といった市場の憶測が高まっており、再び86円台に乗せてくれば一気に上値余地が広がりやすくなると見られます。そうなれば当然、米ドル/円の115円台乗せも時間の問題ということになるでしょう。

もちろん、資源・エネルギー価格の上昇を主因として10月初旬から強まった「日本売り」の流れにも依然変化が見られます。実際、日本の9月の貿易収支は6,228億円の赤字と、2ヶ月連続の貿易赤字になり、それが1つの円売り材料となることで赤字が一層膨れ上がりやすくなるという円にとっては弱気の「循環」が生じています。

むろん、日銀の政策方針だけが他の国・地域の中央銀行とは“別の世界”にあることも、根本的な円安の流れを司っていると見ていいでしょう。よって、仮に米ドル/円が115円の壁を突破した場合には、少し長い目で2017年の年初に位置していた118円台を試しに行く展開も十分にあるものと思われます。

ユーロ/米ドルは週足「雲」を下抜けるか

なお、同時に米ドルがユーロや英ポンドに対して基本優勢にあるということも重要です。先週10月28日に行われた欧州中央銀行(ECB)の理事会では「金融政策の現状維持」が決められ、ラガルド総裁は「(インフレは)2022年中に後退する」と述べました。ユーロ圏のインフレ率は足元でECBの目標水準を上回っており、それが「想定よりも長く続きそう」であることはラガルド総裁も認めています。

ただ、その主要因が目下「供給制約」にあるということも衆目の一致するところです。新型コロナウイルスによるパンデミックの影響で一時的に「消滅」した需要がここにきて一気に「復活」してきているのですから、一時的にも需給関係がタイトになるのは当然のことと言えますが、いずれは供給が追い付いてインフレも後退して行くというラガルド総裁らの見方にも違和感はありません。

そもそも、利上げは供給制約の解決策にはなり得ません。下手をすれば解決の障害になります。それでも、英中央銀行(BOE)は足元のインフレリスクの高まりに対して年内の利上げ実施で対応する構えのようで、そのこと自体はとうに市場で織り込み済みとなっています。

つまり、英国の利上げは「今さら英ポンドの買い材料にはなりにくい」と見る向きが多いようです。そればかりか、今週11月4日の政策会合でBOEが一段のタカ派姿勢を示さなければ、失望売りが広がりやすくなるとの見方さえあります。むろん、性急な利上げが景気回復の減速につながらないか懸念する向きもあるでしょう。

当面のユーロ/米ドルについては、週足ロウソクが一目均衡表の週足「雲」下限(現在は1.1575ドル処)を下抜けるかどうかに注目しておきたいところです。同水準を下抜けて、さらに月足の薄い「雲」が位置する1.1450ドル処をも下抜ければ、そこからは一気に下値リスクが高まりやすくなると見られます。

先週末10月29日の少々目立った下げは「月末のロンドン・フィキシングに絡んだフロー」という側面もあったことから、目先は再び1.17ドル近辺まで値を戻す可能性もあると見られますが、あくまで基本は戻り売り姿勢で臨みたいと考えます。