衝撃的と受け止められた1月の米雇用統計
1月の米雇用統計の結果を、市場では「衝撃的」と受け止める向きが少なくなかったようです。ただ、市場の一部からは「雇用指標は遅効性が強いことから、今回が強さを示す最後の変数になる可能性がある」との声も聞かれ、私もそのような見方に賛同します。
もちろん、単に「遅効性が強い」というだけで説明し切れるものではありません。同時に米労働市場の「流動性の高さ」といったものも、大いに関わっていると見るのが適切でしょう。
2022年秋あたりから、米テック企業を中心に従業員を大量解雇する動きが目立っていました。解雇された人々の多くは比較的高度なスキルを有する人材であり、そういった“高度人材”を求める企業は数多あると考えられます。
つまり、解雇や自発的離職が増えると、その分新たな雇用者数は増加するものであり、結果的に新規の雇用者数が増加したからといって、それが必ずしも米労働市場のひっ迫を意味するわけではないと思われます。
発表された非農業部門雇用者数の伸び(NFP)に対して、AIアルゴリズム取引が、やけに敏感に反応したということもあるでしょう。より重要なことは「労働参加率」や「平均賃金の伸び」の方であり、今回で言うと労働参加率は一段の上昇、平均賃金の伸びは前回分(12月修正分)よりも大きく低下したということも押さえておくことが重要です。
その点については、むしろ市場の事前予想通りで、NFPの結果だけを見て、近い将来の米利上げ停止と2023年内の利下げ開始を可能性として封印する必要はないと思われます。
米ドル/円は21日移動平均線を上抜け、ユーロ/米ドルは急落の展開
とはいえ、とりあえず先週末の米経済指標を受けて米ドル買いの動きが強まったことも事実です。米ドル/円は、長らく上値抵抗として意識されていた21日移動平均線を上抜け、同時に2022年11月下旬から形成されていた「下降チャネル」の上辺をも上方ブレイクするに至りました。
また、ユーロ/米ドルは逆に21日線を下抜け、終値でも1.080ドル処を下回る急落となりました。先週2月2日の欧州中央銀行(ECB)理事会を受けて、一時は1.100ドル処の重要な節目を上回る場面さえあったというのに、結果的に週足ロウソクは長めの上ヒゲを伴う陰線となり、週足「雲」のなかに再び潜り込みました。
やはり、米雇用者数の高い伸びが今後も長く続くとは考えにくく、米労働市場のひっ迫した状態が、再びぶり返してくるとも思えません。むろん、米連邦準備制度理事会(FRB)が引き締めペースを再加速させるということもないでしょう。
先週2月3日のNYダウ平均の下げは0.38%に留まり、ナスダック総合指数が1.59%下落したというのも、基本的にはGAFAの決算が不調だったことに因るところが大きいと見られます。
なお、かねて日銀の正副総裁人事案が今週2月10日を軸に国会に提示される方向であると伝わっています。無用な予断を持つことは避けつつも、その人選によっては円安と日本株高が進みやすくなる可能性もあるということだけは心得ておきたいところです。
そのうえで、当面のユーロ/米ドルの足元の調整は限定的なものに留まると個人的には見ています。ウクライナ危機のおかげで後手に回らざるを得なかったECBのインフレ抑制のための対応は、今しばらく続けなければなりません。よって、ユーロ/米ドルが上げ一巡から弱気トレンドに転換したなどと考えるのはやや早計と言えるでしょう。
今週の米ドル/円、ユーロ/米ドルの注目点とは
今週の米ドル/円に関しては、週足の「雲」の上限をクリアに上抜けるかどうかに注目しておくことが肝心です。なおも上値抵抗として意識され続けるようであれば、改めて21日線を下抜けてもおかしくないと見ています。
その一方、ユーロ/米ドルには調整余地がまだ幾ばくかあるとは思われるものの、個人的には1.070ドル近辺で押し目買いを入れる算段で臨みたいと考えます。