驚異の決算にも関わらず、株価はやや期待外れ

8月6日に任天堂(7974)が営業利益で前期比5倍増という衝撃的な決算を発表しました。株価は確かにその決算を好感しましたが、その後1週間経過した今、任天堂株が高値を追っているかというと、そうでもありません。決算翌日8月7日の始値こそ51,400円と発表前の49,190円から4.5%程度の上昇を見せたものの、以降は8月7日の始値51,400円に達することができていない状況です。

日経平均は8月7日の始値22,434円から8月13日高値で23,317円と3.9%程度上昇。任天堂と同様にゲームで稼ぐソニー(6758)も8,406円から8月13日高値で8,730円と同じく3.9%程度上昇しています。それに比べると、これだけ好調な決算を出しながら、任天堂の株価はやや期待はずれという感じは否めません。

もちろん、「あつまれ どうぶつの森」や「Nintendo Switch」の売れ行きが好調なのはよく知られており、任天堂株が決算前から買われていたという面はあります。しかし、決算数字はその期待を超えるもので、各社の予想(コンセンサス)を上回っていました。しかし、任天堂株は上値追いを進めているというわけではないのです。

決算で見る任天堂の課題

この理由は、任天堂に投資しているアクティビスト「バリューアクト」が任天堂に期待していること、改善を望んでいることが今回の決算で満たされなかったことが一因ではないかと思います。前回の記事でもお伝えした通り、バリューアクトは「任天堂がディズニーやネットフリックスのような世界的なエンターテイメント企業になりうる」と見ており、そのために「任天堂は現在の課題を克服すべきである」という立場をとっています。任天堂も世界的な会社ですが、ディズニーやネットフリックスの時価総額は任天堂の3倍程度で、より評価されています。

では、任天堂の決算のどのあたりがバリューアクトの期待値に満たなかったのでしょうか。2019年決算との比較から探っていきます。なお、バリューアクトは任天堂の課題を公表していないため、この分析は筆者が任天堂とディズニーやネットフリックスを比較した場合の課題感をまとめたものです。(詳細は過去の記事「決算から見える任天堂とディズニー・ネットフリックスの違い」、「グローバル市場でも発揮された任天堂のブランド力の裏にひそむ「課題」」をご覧ください。)大人気漫画「鬼滅の刃」の映画・ゲーム化への展開に期待されるソニーと好対照になってしまっていると思います。

まず、任天堂の収益がゲーム専用機とそのソフトに偏っていることが課題の一つであると言えるでしょう。世界のゲーム市場のうち、ゲーム専用機の市場は全体の1/4です。今回、任天堂の決算はゲーム専用機の売上が前年比約2.1倍に伸び、全体の売上も約2.1倍となったのですが、モバイルと知的財産による収入は約1.3倍にとどまりました。大きな成長ですが、ゲーム市場の1/4の中だと井の中の蛙になりかねないと見られうるでしょう。なお、スマートフォンなどのゲーム市場はゲーム専用機の市場の倍程度になります。任天堂の売上の96%はゲーム専用機で、今回その依存度が増してしまっているのです。

また、任天堂は自社コンテンツのみで稼いでいるというのも課題とされます。今回の決算では自社コンテンツの売上比率が74.1%から82.5%とさらに大きくなっています。これは任天堂のコンテンツ力の強さを示すものですが、自社頼みの一本足打法の場合、どうしても業績のぶれが大きくなると見られがちです。

ネットフリックスはもともと他社のコンテンツで成長してきた会社ですし、ディズニーもあれだけ強力な自社コンテンツを持ちながら、ピクサー、マーベル、21世紀フォックスなどコンテンツを保有する他社の買収を進めています。

今回の決算によれば、第1四半期時点でのミリオンセラー作品はすでに9本、うち7本が自社コンテンツとのことです。前期は年間で27本だったので、ペースが上がっているのは間違いないですが、前期より自社コンテンツの比率が上がっていることに対して上記と同じような懸念を持たれそうです。

今後の任天堂株の注目ポイント

競合であるソニーは同じ第1四半期決算でゲーム&ネットワークサービスが売上・利益ともに最大のセグメントとなりました。そのソニーの直近のヒット作は「Ghost of Tsushima」というモンゴル軍の日本への来襲(元寇)をテーマにした作品です。この作品は2011年にソニーが買収した米国のゲーム開発会社によって開発されたものです。

また、近年のソニーのゲームビジネスを語る上で欠かせないのが、FGOこと「Fate/Grand Order」でしょう。Fateシリーズはもともと同人サークルが手掛けていた作品で、その作品がソニー子会社のアニプレックスと組んでスマートフォンゲームとして爆発的な人気を博し、映画も公開予定です。ソニーは自社以外のコンテンツをゲーム専用機以外で展開することに成功しています。

近年最大の注目コンテンツは「鬼滅の刃」です。同作品もFGOと同じくソニーのアニメ子会社が手掛けており、大きな人気となっています。同作品も2020年10月に映画化が予定され、今後スマートフォンやPlayStationでのゲーム化が予定されています。任天堂が同様にゲーム専用機以外でも通用しうるコンテンツを創出あるいは吸収できるかが、今後の任天堂株の注目ポイントと思われます。