任天堂(7974)が5月7日に発表した2020年3月期の決算は、売上高が前年比9.0%増の1.3兆円、営業利益は41.1%増の3,500億円と増収増益の好決算でした。新型感染症の影響もあり、来期は売上高で8.3%、営業利益で14.9%の減収減益決算を予想しています。この環境下で業績予想を提示できること自体が驚くべきことですし、減収減益幅も限定的と言えます。新型感染症の影響として、様々な活動が停止することによりゲーム機を製造するための部品が入手できない点や流通網が打撃を受ける点をあげています。裏を返せばそうした影響がなければ本業は好調ということでしょう。

任天堂の決算をより詳しく見てみましょう。まず驚くのは77%もの海外売上比率です。ゲームで競合するソニーの海外売上比率が同じ期で70%ですから、あのソニーより海外売上比率が高いのです。ご存じの通り、マイクロソフトは「Xbox」という家庭用ゲーム機を展開しています。アップルも「Apple Arcade」というゲームサービスを2019年に開始。ゲーム専用機だけでなく、iOSやAndroidを搭載したスマートフォン端末がゲーム機として使われていることもあります。このように強力な世界的競合がいるゲーム事業で、国内に依存せずにビジネスを行えていることは、任天堂の底力・ブランド力を示していると言えそうです。

「Nintendo Switch」は小型の「Nintendo Switch Lite」を発売したことで、合算販売台数は2019年度の1700万台を上回る2,100万台と24.0%増、ソフト販売本数も42.3%増となりました。自社ソフトのうち18本が100万本以上の売上を達成しており、「ポケットモンスター」「どうぶつの森」「マリオカート」「ルイージ」「ゼルダ」「ファイアーエムブレム」「スマッシュブラザーズ」とキラキラの任天堂ブランドが並んでいます。一方、「リングフィットアドベンチャー」「スプラトゥーン」と従来のブランドに頼らないネームも入ってきている点が任天堂のソフトウェア開発力の油断ならないところでしょう。競合である「Play Station」、「Xbox」に目を向けると、こうした自社ソフトウェアブランドは想像がつきません。

一方で、「Nintendo Switch」の100万本以上売れたタイトルの27本のうち、18本が自社ソフトであることから、任天堂が自社ソフトに頼っているあやうさを感じることも事実です。自社ソフト売上比率は実に82.8%で任天堂のハードは任天堂のソフトのためのハードと言えるでしょう。

また、自社ハードが自社ソフトに頼っているように、自社ソフトの売上が自社ハードに頼っている「相互依存」となっている点も任天堂の不安材料でしょう。2020年3月期の任天堂のモバイル・IP関連収入等、つまりスマートフォン等への配信による収入は512億円、前年比11.5%増ではあるものの、全体売上の5%に満たないのです。世界のゲーム市場のおよそ半分はスマートフォン等で、「Nintendo Switch」のようなゲーム専用機は残り半分の半分、つまり全体の1/4です。これだけの世界に通用するソフト資産を有しながら、ゲーム専用機市場以外で稼げていないのはもったいなく映ります。

決算説明会の質疑応答でもモバイルビジネスについて質問がされていましたが、2021年期において大きく増える想定はないという返事でした。質疑応答では、デジタルビジネスの有料会員数に関する質問もありました。これは安定した業績のため、固定収入を増やしたほうがいいという考えなのでしょう。任天堂に投資をはじめたバリューアクトはこうした自社ソフトの自社ハード以外への展開や、安定した収益のために固定収入を増やすサブスクリプションモデルの導入などを求めていくことが考えられます。

ダブルスクリーンによるゲームの新しい楽しみ方を提案した「ニンテンドーDS」、従来のコントローラーの概念を改めた「Wii」シリーズ、そして「Nintendo Switch」、任天堂のゲームの魅力はその独創性のある寺社ハードによる部分が大きいことは明らかでしょう。一方、日本勢の存在感が薄いグローバルなソフトウェアビジネスにおいて任天堂がさらに存在感を増してくれることを願う方も多いように思います。バリューアクトの今後の動きに注目です。