本欄の8月6日更新分でその可能性を指摘したように、足下でユーロ/ドルの月足ロウソクは一時的にも一目均衡表の月足「雲」下限を下抜ける展開となり、先々週以降は週足ロウソクも週足「雲」下限をクリアに下抜ける格好となっています。8月15日には一時1.1301ドルまで下押す場面がありましたが、1.1200-1.1300ドル処は昨年5月から6月にかけてしばらくもみ合いを続けた水準でもあり、そこは一つの重要な節目として意識されながら一旦は下げ渋る展開となっています。
とはいえ、当面の戻りはある程度限られたものに留まる可能性が高いと見られ、とりあえずは1.1500ドルの心理的節目、あるいは週足「雲」下限付近まで戻ればいいところなのではないかと個人的には見ます。なにしろ、目下の市場ではユーロの弱気材料を次々と見出しては、それを売りの口実とするような傾向が強まっているように見えるのです。
まずは、もともと域内全体でポピュリズムの台頭が色濃くなっており、そのこと自体が不穏なムードを醸し出し続けているという点。さらに、そうしたことの帰結として域内の財政事情が悪化することに対しても警戒感が拡がっています。市場で注目されているコンテ伊政権による予算案の取りまとめについても、かねて連立政権内の不協和音が問題視されているなかで取り繕われる"妥協の産物"というのは、おそらく財政拡張的なものとなって欧州債市場に不安材料を提供することとなるでしょう。
また、なおも「欧州金融機関のトルコへのエクスポ―ジャーを巡る懸念」というものを取り沙汰する向きもあるようです。もっとも、それはユーロ売りの口実として利用されている感が強いものの一つで、事実誤認という部分も大いにあるように思われます。既知のとおり、スペイン、フランス、イタリアなどの国際与信残高全体に占めるトルコ向け与信残高の割合は最も大きいスペインでも4.5%程度、ドイツ、フランス、イタリア、スペインにおける平均は2%未満に留まるとされ、実のところはさほど大騒ぎするほどの問題でもないとされているのです。
総じてトルコ情勢を巡るリスクについては、このところ少々大げさに取り沙汰されてきたきらいがあると言え、とくに「国際金融市場に対するトルコの影響力は限られたものに留まる」という事実については、これから時間の経過とともに理解され、徐々に消化されて行くものと見ます。もちろん、ECBの出口戦略に対する市場の見方が一頃よりもずっとハト派寄りになって行く可能性は大いにあると見られ、その点は今後のユーロの強い戻りに期待しにくい材料の一つとして認識しておく必要もあるでしょう。
何より、足下でドルの強みが一層増してきているという点にはあらためて要注目です。トランプ米大統領は8月16日、確かにツイッターで「我々の大切な(cherished)ドルには過去にめったに見られないほどのマネーが流れ込んでいる」などと呟いていました。どうやら、ここにきてトランプ米大統領の語り口には多少の変化が見られるようになってきたようです。やはり、中間選挙の日程が近づくほどに政策の力点やアピール・ポイントが共和党内に向けたものから一般国民に向けたものに変わって行く部分もあるのでしょう。
目先、ドル/円については一目均衡表の日足「雲」下限および89日移動平均線が下値サポートとして機能し続けるかどうかが一つの焦点。実際にサポートを受けて切り返せば、次は21日移動平均線や日足「雲」上限が意識されやすくなると見られます。
コラム執筆:田嶋 智太郎
経済アナリスト・株式会社アルフィナンツ 代表取締役