2016年は英・Brexit国民投票、米・大統領選挙で全世界が驚かされ、2017年は欧州の蘭仏独の選挙で、暫し安堵した年であったが、2018年は中南米に注目だ。ベネズエラ、コロンビア、メキシコ、ブラジルで大統領選挙を含む総選挙が行われる。さらに、2019年に予定されているアルゼンチン大統領選挙も、2019年6月と予想される政党登録期限の1年前から、選挙戦に向けた動きが活発化する(表1)。

(表1)中南米の選挙日程

国名 大統領選挙 就任日
第1回投票 決選投票
ベネズエラ 5月20日 なし 2019年1月
コロンビア 5月27日 6月17日 2018年8月
メキシコ 7月1日 なし 2018年12月
ブラジル 10月7日 10月28日 2019年1月
アルゼンチン(予想) 2019年10月 2019年11月 2019年12月

(出所:各種報道等より丸紅経済研究所作成)

この中で特に注目したいのが、メキシコとブラジルの大統領選挙だ。それは、この2カ国が域内でGDPの2位、1位である事以外に、それぞれの選挙が過去に例をみない事態になっているためである。

メキシコでは現在大統領選挙の世論調査のトップを走る候補は、70年以上政権を担ってきた現与党の制度的革命党(PRI)の候補でも、2000年から2012年の間に与党であった国民行動党(PAN)の候補でもなく、新興左派政党の国家再生運動(MORENA)を率いる、ロペス・オブラドール氏、通称AMLO(アムロ)だ。昨年前半から常に世論調査トップを走っており、2位のPAN候補に5ポイント以上の差をつけている(図表1)。

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同氏は過去2回大統領選挙に出馬し、2回とも落選したが僅差であった。同氏の支持が高い理由は、改善しない治安や汚職の現状に対しての不満が高まり、それらが既存政党・政治家への信頼を失墜させていることである。AMLO氏が当選すれば、メキシコにおいて初の左派大統領の誕生となり、バラマキ政策や外資への鉱区開放を含めたエネルギー改革の停滞が懸念される。ただ筆者が3月にメキシコでヒアリングを行ったところ、AMLO氏が当選したとしても、過激な左派よりの政策は実行されない、という意見が多く聞かれた。その要因は以下の通りである。
①AMLO氏は過去の大統領選で、最後まで過激な主張を続け落選した。今回はその教訓を活かすだろう。
②MORENAは新興政党で地方に地盤を持たない。大統領選挙と同時に行われる議会選挙で第一党を取ることは難しい。エネルギー改革を定めた憲法の改正には、議会の3分の2以上の賛成が必要。
③AMLO氏は当初、再交渉中のNAFTAに対しても否定的な態度であったが、徐々に軟化している。
何れも楽観的な意見であることは拭えないものの、AMLO氏自身が最近「私はベネズエラのリーダーとは違う」と強調するように、極左というイメージ払拭に注力している、また現政権が進めた油田鉱区開放についても、「契約プロセスの検証は行うが、一律契約を解消することはしない」と投資家保護のメッセージも発信するようになった。

一方、ブラジルの大統領選挙は混戦模様だ。その原因となっているのが、左派・労働党(PT)が擁立するルーラ元大統領の動向である。同氏は2003~11年に大統領を務め、貧困率を大きく引き下げたのに加え、商品市況上昇という追い風を受けブラジル経済を大きく成長させた。また2014年のサッカーワールドカップ、2016年のオリンピック招致を決め、南米の雄としてブラジルの存在感を高めた立役者でもある。現在でも低所得層を中心に人気が根強く、今回の大統領選挙の世論調査でもトップを走っている。ただし同氏には、大統領時代の汚職嫌疑がかけられ、連邦裁判所の控訴審で既に禁錮12年の有罪の判決が出ている。現在はルーラ氏が最高裁に対し人身保護令適用を求めており、最高裁は4月4日に審理を行う予定。もし人身保護令が適用されなければ、ルーラ氏は収監される可能性が高く、大統領選出馬の可能性は無くなる。ただもし適用が認められ、8月15日の立候補届け日までに収監を免れることができれば、同氏の出馬資格については、選挙裁判所が判断する事になり、出馬の可能性は残される。ルーラ氏以外では、右派・社会キリスト党(PSC)のボルソナロ下院議員が2位、中道左派・ブラジル社会民主党(PSDB)のアルキミン・サンパウロ州知事が3位につけている(図表2)。

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現地でのヒアリングでは、ルーラ氏の出馬可能性を排除する声が多数を占めたが、代わりに大統領の座に近い人物となると、まだ見通せないという意見が多かった。ブラジル経済は2年間の景気後退から漸く脱出し、緩やかながらも回復傾向にはいった。しかし最大の課題は、財政を圧迫する年金改革である。現テメル政権は法案提出まで漕ぎ着けたものの、支持を取り付けることができず、実質現政権での成立は見送った。経済が回復傾向に入ったことで、財政問題も後送りされるという懸念があるものの、意外に現地からは「年金を巡る議論は既に成熟しつつあり、有権者も重要性を認識している」との声が多かった。

メキシコ、ブラジル共に現地では冷静で楽観的な意見が多かったが、選挙の行方を国際マーケットは否応でも注目するだろう。中南米での左派勢力が台頭すれば、同地域の経済成長への懸念が強まり、為替市場が大きく変動する可能性もある。今年は中南米から目が離せない。

コラム執筆:阿部 賢介/丸紅株式会社 丸紅経済研究所

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