最高値更新から一転して急落、バリュー株やディフェンシブ株に資金シフトか
先週(6月1日週)の米国株式市場は、週前半の史上最高値更新ムードから、週後半には一転して急落する非常に振れ幅の大きい展開となりました。
6月1日(月)・2日(火)には主要3指数がそろって史上最高値を更新し、S&P500は年内24回目の最高値を記録しました。しかし、6月4日(木)・5日(金)には流れが大きく変わり、株価は急落。週間ではS&P500が2.6%安、ナスダック100が4.53%安となりました。特にナスダック100の下落率は、2020年2月27日以来、最大の落ち込みとなりました。
先週(6月1日週)で特徴的だったのは、物色の中身に変化が出たことです。週前半はマーベル・テクノロジー[MRVL]を中心に半導体株が強く、エヌビディア[NVDA]関連の発表もAIインフラ関連株を押し上げました。一方、週後半にはテクノロジー株が売られ、ヘルスケア、金融、生活必需品、公益といった、これまで出遅れていたセクターへ資金が向かいました。
6月4日(木)にはS&P500やナスダック100が下落するなか、ダウ平均は逆に大きく上昇し、史上最高値を更新しています。これはAI相場の崩壊を示すものではなく、グロース株に偏っていた資金の一部がバリュー株やディフェンシブ株へと広がり始めた動きと捉えるべきでしょう。
急落の引き金① ブロードコム[AVGO]の決算
後半の急落には、2つの直接的なきっかけがありました。
1つ目は、6月3日(水)の引け後に発表されたブロードコム[AVGO]の決算です。売上高は前年比+84%という驚異的な成長で、AI関連需要の力強さを示す内容でした。しかし、市場が期待していたほど強い見通しではなかったため、4日(木)・5日(金)の2日間で株価は約2割もの下落となりました。フィラデルフィア半導体指数(SOX)は5日(金)だけで-10.3%と暴落し、2020年3月以来最大の下落率を記録しています。
AI関連株はここまで相当な期待を織り込みながら上昇してきただけに、今は「良い決算」だけでは市場を満足させられない局面に入っています。「非常に良い決算」に加えて「さらに強いガイダンス」—その両方が揃って初めて、市場は納得するのです。
急落の引き金② 強すぎる雇用統計
そして、すでに下落を始めていたテクノロジーセクターにさらなる圧力をかけたのが、6月5日(金)の雇用統計です。5月の非農業部門雇用者数は17万2000人増と強く、過去分も上方修正されました。労働市場の底堅さは、景気そのものには良い材料です。しかし、現在の市場にとって、強すぎる雇用は「FRB(米連邦準備制度理事会)が利下げに動きにくくなる」というシグナルとして受け止められます。
そこにイラン情勢を背景とする原油高、ホルムズ海峡をめぐる地政学的不透明感、関税政策の再浮上が重なり、インフレ再燃への警戒が一気に強まりました。2年債利回りはFRBの政策金利見通しを映して上昇し、10年債利回りも4.5%台へ。株式市場、とりわけグロース株にとって、10年債利回りが4.5%を超えた状態は黄色信号です。
米国株の上昇トレンドは終わったわけではない
もっとも、今回の調整だけをもって、米国株の上昇トレンドが終わったと考える必要はないと思います。S&P500は3月下旬の安値から大きく反発し、9週連続で上昇。その分、マーケットには一定の過熱感があり、投資家のポジションもAIや半導体関連にかなり集中していました。そうした意味では、
今回の下落は行き過ぎた期待や一方向に偏ったポジションが整理された側面が大きいとみています。
問題は、良い経済指標が素直に株価の追い風となる局面から、良い経済指標が金利上昇を通じて株価の重しとなる局面へ—市場の「解釈」が一時的に切り替わったということです。企業業績の強さも、労働市場の底堅さも、米国経済のファンダメンタルズがなお良好であることを示しています。それ自体は何ら変わっていないと思うのです。
アルファベット[GOOGL]がAIインフラ投資に大型増資
先週(6月1日週)もう1つ注目すべきは、アルファベット[GOOGL]の大型増資です。同社はAIインフラ投資を支えるため、2026年・2027年の設備投資資金として800億ドル規模の株式発行を行う方針を示しました。2026年の設備投資は約1900億ドルに達する見通しです。
バークシャー・ハサウェイ[BRK.B]がこの増資に参加したことは安心材料ですが、一方でAI投資が株主還元を圧迫する可能性も市場は意識し始めています。今後は「AIで売上が伸びるか」だけでなく、「AI投資がどれだけ利益とキャッシュフローに結びつくか」がより厳しく問われることになるでしょう。
今週(6月8日週)は重要インフレ指標、アップルWWDC、スペースX上場に注目
今週(6月8日週)の最大の注目点は、まず5月のCPI(消費者物価指数)とPPI(生産者物価指数)です。雇用統計が強かっただけに、インフレ指標まで強ければ利下げ期待はさらに後退し、年内利上げの可能性すら市場が意識する展開になりかねません。逆にCPIが市場予想を下回れば、金利上昇への警戒は和らぎ、相場はいったん落ち着きを取り戻す可能性があります。
次に、アップル[AAPL]の世界開発者会議(WWDC)です。市場はAI対応の新しいSiriに期待していますが、株価はイベント前にすでに上昇してきただけに、発表内容が期待を下回れば失望売りが出るリスクもあります。
決算ではオラクル[ORCL]とアドビ[ADBE]にも注目です。オラクルはAIインフラ需要、アドビはソフトウェア分野のAI活用を測る材料になります。
そして、週末6月12日(金)には、史上最大級ともいわれるスペースX(非上場)のIPOが予定されています。スペースXは宇宙企業であると同時に、スターリンク(スペースX傘下、非上場)、AI計算資源、将来の宇宙データセンター構想まで含む巨大な成長ストーリーとして評価されています。長期的には期待の高い銘柄ですが、バリュエーションは極めて高く、上場直後のボラティリティには注意が必要です。
