「給与は増えたのに、手取りが思ったより増えない」と感じたことがあるでしょう。
政府は、税金や社会保険料の負担を軽減するために「給付付き税額控除」の導入を検討してきましたが、それに先立ち、2029年度から「所得に連動したきめ細やかな給付」を行うことで、与野党が大筋合意しました。
今回は、本稿執筆時点(2026年7月17日)の情報をもとに、「給付付き税額控除」の概要と、インフレに立ち向かう方法を紹介します。
「現金給付」と「税額控除」をセットで行う「給付付き税額控除」
そもそも「給付付き税額控除」とは、「現金給付」と「税額控除」を組み合わせた制度です。
現金給付は文字どおり、現金を給付することです。これまでもたびたび、政府・自治体などによる給付が行われてきました。
税額控除は、税額そのものを差し引いて減らす仕組みです。さまざまな計算のルールにしたがって算出された税額から、一定の金額を差し引くことで税金の負担を軽くすることができます。
「給付付き税額控除」では、まず所得税から減税します。所得税が少ない(ない)ために全額を減税しきれない場合には減税しきれなかった分を現金給付します(図表1参照)。
たとえば、「給付付き税額控除」が「10万円」となった場合、仮に所得税が10万円ならば所得税が丸ごと控除できてゼロになりますので、税額控除を十分に受けられます。所得税が15万円の場合でも、そのうちの10万円が控除されるので、差額の5万円だけ納税すればよくなります。しかし、所得税5万円だと半分の5万円しか税額控除を受けられず、所得税0円だと税額控除の恩恵はまったくなくなってしまいます。
そこで、「給付付き税額控除」では、税額控除の恩恵を受けきれない人(ここでは、所得税5万円・0円の人)に対して5万円・10万円と現金給付することで、合計10万円分の恩恵を受けられるようにします。
これまでの税額控除では、税額控除の対象になる納税額がなかったり少なかったりする場合、税額控除の恩恵を受けにくくなってしまうのが欠点でした。「給付付き税額控除」であれば、この欠点を現金給付で補うことができます。
「給付付き税額控除」の導入を検討しているのはどうして?
政府が「給付付き税額控除」の導入を検討する目的は、特に中・低所得者の負担を減らして手取りを増やすことにあります。税金や社会保険料の負担が増え、インフレが進む一方なので、手取りはなかなか増えず、生活が苦しくなる人が増えるのは目に見えています。
また、単純に現金給付を行うよりも、税負担を減らして手取りを増やす方が消費に回り、それが経済活性化につながりやすいという思惑・期待もあるのだと思います。
2026年2月に行われた衆院選の自民党の公約には、
中・低所得者(若者・現役世代を含む)の税・社会保険料負担を軽減し、所得に応じて手取りが増えるように、「給付付き税額控除」の制度設計を進めます。
とありました。
2026年2月に高市政権の下で設置された超党派の「社会保障国民会議」では、「給付付き税額控除」についての議論が進められています。同会議の資料には、子育て世帯(夫婦・子2人)の税・社会保険料の負担から児童手当や生活保護などの現金給付を差し引いた「純負担率」が示されています(図表2参照)。
左から右に行くほど世帯年収が増加します。それに対して純負担率はどうかというと、図内の青い丸で囲まれた部分で、諸外国(米独仏)と比べて純負担率の割合が高くなっています。金額(純負担額)で示すと、図表3のとおりです。
世帯の給与収入が375万円の場合、米独仏3ヶ国の平均よりも27万円も負担が重くなっています。一方、世帯の給与収入が540万円を超えて増えれば増えるほど、米独仏3ヶ国よりも負担が軽くなります。日本は、中・低所得者ほど負担が重くなる国だということを示しています。
政府はこの改善のために、「給付付き税額控除」によって負担を軽減し、手取りを増やすとともに、「年収の壁」によって起きている働き控えの緩和・就労促進を目指しています。資料には、子育て世帯の負担にも配慮することを検討すると明記されています。
実際、「給付付き税額控除」は、海外ではすでに子育て支援や就労支援、社会保険料の負担軽減などの目的で実施している国もあります。
「給付付き税額控除」は「所得に連動したきめ細やかな給付」に
本稿執筆時点では、「給付付き税額控除」に関する「中間取りまとめ(案)」が検討されているところです。2026年7月16日の社会保障国民会議では、「給付付き税額控除」に先立って、2029年度に「所得に連動したきめ細やかな給付」を行う制度を導入することで大筋の合意を得たと報道されています。
ただ、「所得に連動したきめ細やかな給付」のなかには「給付」はあるのですが、「税額控除」がありません。
中間取りまとめ(案)では、「給付付き税額控除」の理想形・最終形は「給付と税額控除の組み合わせとすることが望ましいとの強い意見がある」と記載されています。
しかし、「給付付き税額控除」を実施しようとすると制度が複雑になり、国や自治体の負担も増えてしまいます。何より、今支援の必要がある人を支援するのが遅れてしまいます。それを防ぐために、先に給付の制度を導入するというわけです。
グラフは左に行くほど所得が少なく、右に行くほど所得が高いことを表します。また、上に行くほど支援額が多くなることを表します。「所得に連動したきめ細やかな給付」の支援は、大きく4つのブロックに分けて考えられていることがわかります。
(1)一定の勤労収入があるものの、非課税ラインよりも所得が少ない場合
→定額での支援が行われます。「一定の勤労収入」がいくらからかはまだ決まっていませんが、図には収入約106万円超・74万円超・約53万円超とする意見があったことが示されています。
(2)非課税ラインより所得が多い場合
→所得に応じて支援額が増加します。年収の壁(税金や社会保険料のかかり始めるボーダーライン)を超えた場合には、一定額の上乗せも行われます。
(3)(2)よりも所得が多い場合
→(1)と同様、定額の支援が行われます。ただし、公平性の観点から、高所得の配偶者がいる場合には例外を設けるとあります。
(4)(3)よりも所得が多い場合
→総所得に応じて支援が少なくなり、一定額以上で消失します。なお、「総所得」には、勤労所得だけでなく金融所得や預金の利子所得を加えることも検討されています。
「所得に連動したきめ細やかな給付」は、中・低所得の会社員・パート・アルバイトといった労働者だけでなく、自営業者・フリーランス・高齢者(働いていて、純負担率が現役世代並みの中・低所得者)も対象になります。
「所得に連動したきめ細やかな給付」は「恒久的な制度」の位置付けですが、将来にわたって給付のみとするものではありません。今後の議論次第では、後から税額控除が追加される可能性もあるでしょう。
「所得に連動したきめ細やかな給付」ではインフレに立ち向かえない
社会保障国民会議では「食料品への消費税減税」も話し合われています。
「給付付き税額控除」の実施までの「つなぎ」として、食料品への消費税を2027年4月からゼロにすることが検討されていました。本稿執筆時点では、より早く実施できる「1%」とする案が濃厚ですが、詳細はまだわかりません。ただし、いくら所得に連動したきめ細やかな給付が行われて食料品の消費税が減税されたとしても、インフレに立ち向かうことは難しいでしょう。
生活を守るため、毎月の支出を把握するところから始める
生活を守るという観点からは、支出の削減が欠かせません。生活満足度を下げるほど極端な節約をするというよりも、不要な支出を減らして家計に余裕をつくっていきましょう。
毎月の支出が把握できていないようであれば、まずは1ヶ月分のレシートや領収書、支払い明細などを集めて「固定費(毎月決まって支払いのある費用)」「食費・交際費」「その他」の3つに分類し、1000円単位で集計してみましょう。集計が済んだら、不要な支出を減らすようにしていきます。レシートをあらためて見返して、必要な支出に◯、不要な支出に×、曖昧な支出には△をつけます。×や△のついた支出は次回以降、発生させないようにします。
不要な固定費を見直し、削減する
生活満足度を下げずに、節約効果を長く保つには、固定費の削減が重要です。
固定費には、住居費、通信費、水道・光熱費、保険料、自動車費、サブスク代などの月会費、クレカの年会費などがあります。固定費は金額が大きなものが多いので、一度見直せば効果が長続きします。
1つずつ確認して、なくすことができないか、もっと安いもの(プラン)に切り替えられないかを確認しましょう。
インフレに負けない資産形成の実践も重要
インフレ時代には、お金の価値がどんどん目減りしてしまいます。日銀の利上げの影響で、大手銀行の普通預金金利は年0.4%に上昇する見通しですが、インフレはそれをはるかに上回るペースで進行しています。
インフレであっても資産を増やしていくには、投資の力を借りることが欠かせません。インフレ率以上に資産価値を増やすことができれば、資産を守ることができます。投資には元本保証がないので、元本割れする可能性もありますが、長期・積立・分散投資にコツコツ取り組むことで、その可能性を低くすることができます。
投資をするときにはNISAやiDeCo(個人型確定拠出年金)といった制度を優先して活用しましょう。
NISAは投資の運用益(値上がり益・配当金・分配金)にかかる税金を生涯にわたって非課税にできる制度。日本に住む18歳以上であれば誰でも利用でき、引き出しも自由にできます。
iDeCoは運用益非課税に加えて、掛金が全額所得控除にできるので、毎年の所得税や住民税の節税にもつながります。iDeCoの資産は60歳になるまで原則受け取れませんが、受け取るときにも控除を生かすことができます。
目の前の現金給付や消費税の減税は嬉しいのですが、これらの施策はインフレを助長・増進する施策でもあります。インフレ時代では、余計な支出を減らしつつ、将来時点の購買力維持のためにも、インフレ率を超えて資産を増やすことが大切です。
