日本の個人投資家のバイブルとなっている『株式投資 長期投資で成功するための完全ガイド』の著者であるジェレミー・シーゲル氏とマネックス証券のチーフ・外国株コンサルタントのハッチこと岡元兵八郎の対談を4回にわたってお届けします。

第4回は「AI革命、そして次の10年、これから投資を始める人へのメッセージ」についてお届けします。

>> ジェレミー・シーゲル教授が語る長期投資の本質【第1回】
>> S&P500の未来、バブルと割高相場をどう見極めるか【第2回】
>> ポートフォリオの考え方、巨大テクノロジー企業の競争優位性はいつまで続くのか【第3回】

AIブームはまだ始まったばかりなのか

AIブームは今後どのくらい続くか

岡元:現在の株式市場における主要テーマとして、AIブームは今後どのくらい続くとお考えでしょうか。まだ初期段階にあるのでしょうか。それとも、すでに中盤に差しかかっているのでしょうか。あるいは、期待が先行しすぎる局面に近づいていると見るべきでしょうか。

シーゲル教授:私は初期段階だと考えています。AIの導入という意味では初期段階です。一方で、「AIに何ができるか」を見る段階としては、比較的進んだ段階に来ていると思います。しかし、企業がAIをどのように活用しコストを削減し、自社の利益率を高めるかという点では、特に非テクノロジー企業での活用余地はまだ非常に大きく、かなり初期段階でしょう。

ゴールドマン・サックス[GS]は四半期ごとにAIに関する調査レポートを発行しており、数百社にAI利用状況を聞いていますが、その結果を見ると、AIの利用率はまだ比較的低い水準です。多くの企業は、望むレベルまでAIを導入できておらず、多くは初期段階にあり、まだ着手すらしていない企業もあります。ですから、まだまだ何年も続くということですね。

競争圧力がAI導入を加速させる可能性はあります。実際のところ、導入がもっと早く進まないことに驚いている人もいます。時にはショックのようなもの、つまり「今すぐイノベーションを取り入れなければならない、そうしないと利益率が下がり、事業を維持できない」と気づかせる劇的なきっかけが必要なこともあります。

物事の調子が良い時は、人はそれほどイノベーションの活用や革新を急がないことがあります。景気後退や何らかのショックが、技術をシステムに組み込む触媒になることがあるのです。

「時価総額1.5兆ドル」でも指数への影響はわずか?S&P500の仕組みと誤解

岡元:現在の有力なテクノロジー企業であるスペースX[SPCX]が上場する予定です(注:インタビューは4月28日に実施)。将来、S&P500の構成銘柄に組み入れられるようになれば、指数の主要構成銘柄になる可能性がありますよね。

シーゲル教授:ここは非常に注意して考える必要があります。おそらくあなたが次に質問しようとしていることを先回りしているかもしれませんが、S&P500指数は浮動株ベースで算出されます。つまり、公開され、市場で流通している株式です。

仮にスペースXの企業価値が1.5兆ドルだった場合、もし公開されるのが10%だけなら、指数に反映される時価総額は1,500億ドルに過ぎません。つまり指数に入るのはその公開されている部分だけなのです。投資家が実際に投資できるのもその公開されている部分だけです。非公開の部分には投資できません。

私の理解では、そうした企業は、将来的に徐々に売り出す可能性はありますが、当初はかなりの部分が非公開のままになるでしょう。この点については誤解している人が少なくありません。巨大な未上場企業が上場すれば、何兆ドルもの資金がインデックスに流れ込み、市場全体を飲み込んでしまうと考える人がいます。しかし実際には、そうはなりません。S&P500は浮動株調整後時価総額加重指数だからです。

そして現在のところ、その大部分は依然として非公開のままです。私が聞いた話では、イーロン・マスク氏や他の一部の関係者は、インデックス算出においてフリーフロート比率以上の部分も反映できないかと主張しているようです。ただ、その議論が現在どのような状況にあるのか、私は詳しく把握していません。しかし、少なくとも現行ルールのもとでは、投資家が保有することになるのは公開されている株式部分だけです。

現在のエヌビディア[NVDA]の浮動株比率は、どれくらいか正確には確認が必要ですが、おそらくかなり高く、80%前後だったと思います。しかし、これから上場するような企業は、初期には浮動株比率が非常に小さいでしょう。

岡元:まさに、そこをお聞きしたいと思っていました。もしそうした企業がS&P500に組み入れられるようになれば、S&P500の長期的な成長力は高まるのでしょうか。

シーゲル教授:繰り返しになりますが、そうした企業は皆さんが想像するような規模でインデックスに入ってくるわけではありません。

例えば、企業価値が1.5兆ドルで、そのうち10%だけを公開したとします。そうすると市場で流通する部分は1,500億ドルです。もちろん、それでも大企業です。しかし、現在の基準で見れば正確には分かりませんが、ランキングではかなり下の方、30位か40位になるでしょう。ですから、確かに何らかの影響はあると思います。しかし、圧倒的な影響を与えるというほどではありません。

AIが企業利益率と生産性に与える影響

岡元:AIは、今後長期的に経済をどのように変えると思われますか。AIは生産性や企業利益率にどのような影響を与えるでしょうか。

シーゲル教授:非常に大きな影響を与えると思います。AIの本質は生産性の向上にあります。情報を得ること、問題を解決すること、定型業務をより速く処理すること。これはまさに生産性そのものです。ですから、AIは産業革命が始まって以来、最も劇的な生産性向上をもたらす技術の一つになる可能性があります。

岡元:それでは、AIの普及によって、先ほど教授が示された株式市場リターンの見通しが、実は保守的すぎたという状況も考えられますか。

シーゲル教授:生産性の向上は、確かに良いことです。しかし、株式のリターンを決めるのは競争と利益率であることを忘れてはいけません。経済が大きくなったからといって、その恩恵がすべて資本リターンとして投資家に還元されるわけではありません。多くは労働者の賃金上昇という形で分配されるでしょう。実際、歴史的には、生産性向上による恩恵の大部分は労働者の賃金上昇に向かっていきました。そして競争も続きます。

ただし、もしAIが私の考えるほど広がり、特に非テクノロジー企業に広がれば、その過程では企業が通常以上の利益を上げられる時期が訪れる可能性があります。

ですから、私がこれまで述べてきた「インフレ調整後で年率5~6%程度のリターンが20年から30年続く」という予想が、やや保守的である可能性はあります。しかし同時に、インターネットが普及し始めた頃のことを思い出す必要があります。当時、誰もがインターネットで企業利益が大きく上がると思っていました。しかし私は、「インターネットによって人々が価格を非常に簡単に比較できるようになり、その結果、企業の利益はむしろ圧迫されるかもしれない」と指摘していました。つまり、技術は利益を下げることもあるのです。

したがって、AIが利便性を高め、生産性を向上させることは間違いないでしょう。しかし、それだけで自動的に企業の利益が上昇し、株価が上がると考えるべきではありません。そこは非常に注意が必要です。

AIバブルを見極める指標

岡元:AIがバブルになりつつあると投資家が認識し始めるとき、どのような指標を見るべきでしょうか。

シーゲル教授:PERを見るべきです。先ほどお話しした通りです。現在はPERが20倍台半ば、あるいは30倍程度です。テスラは特殊ケースとして除きますが、他の6社については、現時点での水準はかなり妥当だと思います。

もし利益が増えないまま、株価だけがさらに20%、30%上がるなら、その水準では心配になります。これほど大きな企業のPERが30倍台半ばから40倍に向かうなら、まだインターネット・バブルほどの水準ではありませんが、より危険なゾーンに入り始めていると言えるからです。

岡元:AI搭載ロボットが家庭で一般的に使われるようになるのは、いつ頃だと思われますか。

シーゲル教授:非常に興味深いテーマですね。多くの企業が取り組んでいることは知っています。xAIやイーロン・マスク氏、その他の企業もロボットに取り組んでいますし、他国でも進歩があります。

実際のところ、工場ではすでにロボットが使われています。おそらく日本の方が米国よりロボットの導入が進んでいるかもしれません。私が思う最大の自動化は、家庭内でコーヒーを出してくれるようなロボットよりも、むしろ完全自動運転のようなものです。これはロボットではありませんが、人間が運転する必要がなくなるという点で大きな代替手段になります。家庭内でロボットが、さまざまな家事をこなしたりするのは、まだかなり先の将来かもしれません。

岡元:利用可能になったらご自身もお使いになりたいと思いますか。

シーゲル教授:価格が適切であれば、使ってみたいですね。

 

ウォーレン・バフェットから学ぶ「永遠の保有」

市場タイミングを取らない投資哲学で、実質的にはパフォーマンスはS&P500と同程度

岡元:ウォーレン・バフェット氏は教授の本を推薦し、教授はバフェット氏をウォートンスクールの学生の前での講演に招いたことがあります。彼が史上最も成功した投資家の一人であることに加えて、バフェット氏を特別な人物にしているものは何だと思われますか。

シーゲル教授:非常に興味深い点です。まず、バフェット氏はバリュー投資家でした。そして個別企業を深く掘り下げていました。つまり、その企業が本当に割安なのかどうかを深く分析していたのです。銘柄選択において、彼は非常に優れた成果を上げました。

私の記憶では、バフェット氏が市場から一度距離を置いたのは1960年代の好景気の頃だったと思います。そして1972年~1974年頃に再び市場へ戻りました。そのタイミングは非常に良かったと思います。

ただ、その後バフェット氏は市場のタイミングを狙うようなことはしていません。ですから、彼は長年にわたり、一般的なバリュー・プレミアムを活用し、さらに企業を分析する独自の洞察を加えました。その後、バークシャー・ハサウェイのパフォーマンスはS&P500に並ぶ程度になりました。その一因はアップルへの投資です。彼は以前、テクノロジー株には投資しないと言っていましたから、もし彼自身だけで判断していたなら、アップルには投資しなかったのではないかと思っています。しかし彼はアップルに投資し、その判断は大きな助けになりました。

ですから忘れてはいけないのは、この20年から30年ほどの期間で見ると、彼の成績は実質的にS&P500とほぼ同程度だったということです。もっとも、バリュー投資家としては、それだけの成績を維持できたのは非常に立派です。私は彼の70年に及ぶ投資人生のサイクルを説明しているのです。彼は現在95歳くらいでしょう。非常に長い投資人生です。

彼は一度だけ非常に優れたマーケット・タイミングを行い、その後はタイミングを狙うことなく、バリュー投資家としてバリュー株がうまくいった時期に良い成績を上げ、さらに、企業を見極める独自の洞察が、そこにいくらかのバリュー・プレミアムを加えたのでしょう。アップルへの投資によって最終的にS&P500に並ぶような成績を残してきたのです。

バフェット氏、「お気に入りの保有期間は永遠です」

岡元:バフェット氏が偉大な投資家であること以外に、なぜ彼がそれほど特別なのか、教授の見方をお聞かせいただけますか。

シーゲル教授:彼の特別な点は、バランスシート(貸借対照表)を見る力、そして企業を選ぶ洞察にあります。彼は市場タイミングを取ろうとはしません。初期に一度だけ市場から出て戻ったことはありましたが、それ以降は市場タイミングを取っていません。彼は市場タイミングを狙う人ではまったくありません。優れた企業を保有し続けることが彼の成功の源泉の1つです。

私は自分の著書の中で彼の言葉を引用しています。彼は「通常の保有期間はどれくらいか」と尋ねられた際、こう答えました。「私のお気に入りの保有期間は永遠です」と。

岡元:それでも、教授は米国株式市場を永遠に保有することに抵抗感はありませんか。

シーゲル教授:ないですね。私は永遠には生きませんが、私のお金を引き継ぐ人たちは、私がいなくなった後も生き続けるでしょうからね。

岡元:ウォーレン・バフェット氏が退任しましたが、今後バークシャー・ハサウェイは、どのようなパフォーマンスになると思われますか。

シーゲル教授:そもそも、バフェット氏がいなければバークシャー・ハサウェイは存在しなかったでしょう。バークシャーはウォーレン・バフェット氏そのものです。ですから、その2つを切り離して考えるのは非常に難しいですね。バフェット氏の思いを引き継いだ方たちの手腕に期待したいと思っています。

 

年代によって投資方針を変えるべきか、20代と60代への資産運用の考え方

岡元:教授の株式に関する長年の研究を踏まえて、20代の投資家と60代の投資家では、株式ポートフォリオをどのように組むことを勧めますか。

シーゲル教授:20代であれば、間違いなく株式の比率を高くすべきです。必要な現金を除けば、それ以外の資産はすべて株式でもよいと思います。

一方、60代の場合は、その人がどれだけ資産を持っているかによるでしょう。自分自身や家族、近親者の生活に十分な資産があるのか、それともそうではないのか。その点を考慮する必要があります。ただ、それでもなお、資産の大部分は株式で保有すべきだと思います。というのも、私たちが話してきたように、退職時に多くの人が想定するよりも、平均寿命ははるかに長くなっているからです。

岡元:私が60歳以上の方からよく受ける質問があります。「お金が必要な時に市場が下がったらどうするのか」というものです。

シーゲル教授:それは事前に計画を立てておかなければなりません。60歳や70歳で仕事を引退し、その後は資産を取り崩しながら生活するのであれば、市場が一時的に40%、50%下落し、その後1年か2年で戻るというようなシナリオを考えておかなければなりません。

しかし、歴史的なデータを分析すると、そのような状況が起こり得るからと言って、株式投資をやめるべきだという結論にはなりません。確かに、市場が大きく下落した時に、生活資金のために大きな資金を取り崩さなければならない場合、回復局面の恩恵を受けられないという問題があります。そうした状況では債券の比率を高めておくべきだという考え方になります。

ただ、忘れてはならないのは、実際に50%もの大幅下落を経験したのは、直近では世界金融危機(リーマンショック)でした。その後、私たちは市場有数の強気相場に入りました。もし新型コロナの流行がなければ、2009年からの強気相場は今も続いていたかもしれません。

この数十年を振り返ると、大きな下落はほとんどありませんでした。ロシアがウクライナに侵攻した2022年には20%近い下落がありましたが、完全な弱気相場の20%には届きませんでした。2025年の4月のトランプ関税を巡って20%近く下落しましたが、一時的なものでした。湾岸戦争の時も10%程度の下落があり、それも比較的短期間で戻しています。これが歴史です。

これから投資を始める方へのメッセージ「下がるまで待ってはいけない」

岡元:最後の質問です。米国株への投資に興味はあるものの、為替変動への不安や、市場の値動きへの恐れ、あるいは「いつ始めればいいのか分からない」といった理由で、まだ投資を始められていない方が、最初の投資をする前に理解しておくべき最も重要な原則は何でしょうか。

シーゲル教授:最初の投資をする前に、ぜひ理解してほしいことがあります。「下がるまで待とう」と考えないことです。あまりにも多くの人が「下がったら投資しよう」と言います。しかし、その結果としてそのまま一生投資を始められないのです。今、投資を始めるべきです。

現在の市場は、私が過大評価と呼ぶ水準ではありません。決して割安ではありませんが、過大評価されているとも思いません。

為替変動については対策をとることもできます。もし為替リスクが気になるのであれば、為替ヘッジ付きの商品が数多く存在しています。そうした商品を利用すれば、実際の為替変動がどうなろうと、円ベースで投資を続けることが可能です。ただし、長期的には、為替変動はしばしばインフレ率の違いによって決まります。そして株式においては、それは相殺されることが多いです。したがって、真の長期投資家にとっては、為替ヘッジはそれほど重要ではなくなります。

岡元:現在の水準でもですか。史上最高値圏にある今でも、教授は安心して投資できるとお考えなのでしょうか。

シーゲル教授:もちろんです。現在の水準であっても、私は安心してみています。

岡元:シーゲル教授、本日は貴重なお時間をいただき、本当にありがとうございました。

シーゲル教授:こちらこそ、とても楽しかったです。ありがとうございます。

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