1月23日「レートチェック」がなかったら円安160円突破だった?
1月23日の米ドル/円寄り付きは158.3円だった。この日、日銀の金融政策決定会合が行われた。会議終了後にはいつものように植田総裁の記者会見も行われた。その頃から159円を超え、米ドル高・円安が広がりだした。そうした中で日本の通貨当局による「レートチェック」の観測が流れると、米ドル/円は159.2円を高値に157円台前半まで急落した。
ただ、米ドル/円はすぐに158円台を回復し、円安再燃の不気味な状況がまだ続いていた。そうした状況を急転換させたのは、一般的には予想外だった米通貨当局による「レートチェック」観測だった(図表1参照)。では日米協調「レートチェック」がなかったら、為替相場はどうなっていたのか。
前回の日銀金融政策決定会合は、2025年12月19日に行われた。日銀はこの日0.25%の利上げを決めたが、事前予想通りだったこともあり、為替相場は最大で2円以上、むしろ米ドル高・円安へ動いた(図表2参照)。このような値動きは珍しいものではなかった。前々回の日銀金融政策決定会合は2025年10月30日に開かれたが、この日もやはり最大で2円以上の米ドル高・円安となっていた。
以上から、日銀金融政策決定会合の後は、政策変更の有無にかかわらず、2円以上米ドル高・円安に動きやすい基本パターンがあったといえる。その意味では1月23日、158.3円で取引が始まった米ドル/円は、日本の「レートチェック」、さらにその後の米国の「レートチェック」がなかったら、その日のうちに160円を超えていた可能性もあったのではないか。
160円での日本単独の円安阻止は困難だった?
象徴的な160円という大台、さらにこの間の円安値、2024年7月に記録した161円が迫ると、日本の通貨当局による円安阻止介入に注目が集まるのは当然だろう。では当局は160円近辺で為替市場へ介入しただろうか。
今回、160円近辺で日本が単独で米ドル売り・円買い介入に動いても、円安の阻止は困難だったかもしれなかった。米ドル/円の5年MA(移動平均線)かい離率を参考にすると、2022、2024年の円安阻止介入局面に比べ、160円程度では米ドル高・円安の「行き過ぎ」懸念は強くなかったことがその理由の1つである(図表3参照)。
また、代表的な投機筋のデータであるCFTC(米商品先物取引委員会)統計を参考にすると、やはり2022、2024年の円安阻止局面と異なり、足下では投機筋の円売りが主導した円安ではない可能性があった(図表4参照)。以上のように見ると、2024年まで日本の為替市場への介入が円安の反転に成功した要因は、円安が「行き過ぎ」だったことや、短期の売買を行う投機筋が主導していたことなどにあった。しかし今回は、状況が違う可能性があった。
そうした中で為替介入に動いても、円安を止められず、「介入失敗」が公然化する懸念があったのではないか。2024年まで円安阻止の「最後の砦」となってきた為替介入の「失敗」が公然化したら、円安はいよいよ歯止めがかからなくなる危険があっただろう。
介入「失敗」なら選挙中に170円への円暴落の可能性もあった?
では、有力視された介入が行われなかった場合、為替相場はどう反応しただろうか。似たような局面は2024年4月だろう。当時の円安値は2022年10月に記録した151円だった。この円安値を更新すると当局は米ドル売り・円買い介入を再開するとの見方が有力だったが、介入は行われず、さらに次に有力視された155円という節目の水準でも介入がないと、約2週間で160円まで米ドル高・円安は急加速するところとなった(図表5参照)。
以上を参考にすると、160円近辺で日本が単独で介入し「失敗」した場合でも、失敗を警戒して介入を見送った場合でも、1月23日から2週間余り後の2月8日(衆院選挙投票日)までに、一気に170円を目指す円暴落が広がるリスクがあったのではないか。
「高市政権で円暴落」という見方が広がったら、それでも最近報道されているような「連立与党大勝」という流れは変わらなかっただろうか。そう考えると、「レートチェック」をきっかけとした円安から円高への反転は、衆院選挙にも大きく影響した可能性があるだろう。
ゲーム・チェンジャーは最大の恩恵者=目的は選挙前の円暴落回避だった?
実際には、1月23日に日米協調の「レートチェック」があり、とりわけ米国の「レートチェック」は一般的には予想外、「サプライズ」の可能性が高かったことから、円反発は大きく拡大した。そしてその後の米トランプ大統領の発言が米ドル安容認と受け止められたことも後押しするところとなり、一時152円割れ近くまで米ドル安・円高となった。
ゲーム・チェンジャーは、そのままでは困る状況を変えた結果、最も恩恵を被る立場にある人のことだろう。「レートチェック」がなかったら円は暴落に向かい、それは総選挙における高市総理にとってダメージになる懸念があったかもしれない。そう考えると、日米協調「レートチェック」は、やはり選挙前の円暴落回避が最大の目的ということだったのではないか。
