新年を迎えると、市場では3月期決算企業の年度末配当を見据えた動きが意識され始めます。高配当利回り株への投資は、毎年の配当収入を期待する長期投資が基本となりますが、その場合、将来にわたって配当の支払いが継続されるかどうかといった企業の配当政策に対するスタンスも、銘柄選択における重要な判断材料となります。

そこで今回は、配当利回りに加えて活用すれば効果が高まる指標として、DOE(Dividend on Equity:自己資本配当率)を用いた投資戦略を紹介します。

DOE(自己資本配当率)が注目される理由

景気や業界環境の変化の影響を受けやすい配当性向

企業が株主還元に対してどのような姿勢を取っているかを示す目標として、一般的によく用いられる指標が配当性向です。配当性向は、純利益のうちどの程度の割合を配当として支払うかを示すもので、「配当額 ÷ 純利益」によって算出されます。株主還元を重視する企業ほど、配当性向は高めに設定される傾向があります。企業の配当方針にもよりますが、実務上は30%~40%程度を目安としている企業が多いとされています。

利益のうち、株主に直接配当として配分する割合を定めることは、企業の収益力を前提とした株主還元という観点では整合的です。しかし、景気や業界環境の変化によって利益が変動すると、配当額も大きく上下しやすくなり、安定した配当を期待する株主にとってはリスク要因となり得ます。

安定的な株主還元を重視する場合に活用されるDOE

そこで近年では、利益ではなく、比較的変動の小さい自己資本を基準に配当額を決定するDOEを、資本政策上の目標として採用する企業が増えています。株主が企業に拠出した資本(自己資本)に対して、どの程度を現金配当として直接還元するのかを明確に示す指標であり、安定的な株主還元を重視するという点で、より整合的な考え方と言えます。実際には、DOEを3%~4%程度に設定している企業が多いようです。

予想DOEを用いた高配当株戦略の検証

そこで本稿では、配当利回りとDOEの2つの指標を基準とした投資戦略を取り上げます。DOEに関しては、すでに、本連載の9月11日付の記事「9月の季節性、配当利回り効果と純資産配当率を用いた株式投資戦略」で紹介していますが、同記事では実績DOEを銘柄スクリーニングの基準としていました。

予想DOEの算出方法とは

今回はさらに一歩進めて、予想DOEを用いた銘柄選別を行います。予想DOEは、「予想1株当たりの配当金÷実績1株当たりの自己資本」で定義されます。ただし、予想DOEそのものの情報は、現状では十分に提供されていないのが実情です。そこで、本稿では次の式を用いて予想DOEを算出します。

予想配当利回りと予想DOEを活用した投資戦略の検証

次に、予想配当利回りと予想DOEの2つの指標を基準とした投資戦略の検証方法について説明します。

銘柄の流動性を確保するため、母集団にはTOPIX500を採用しました。TOPIX500は、東証上場銘柄の中から時価総額と流動性の双方が高い主要500銘柄で構成される代表的な株価指数であり、実務に近い形で投資戦略の有効性を検証するのに適した銘柄群と言えます。

このTOPIX500の構成銘柄について、毎月末時点のデータを用い、今期予想配当利回りが4%以上、かつ今期予想DOEも4%以上という2つの条件を満たす銘柄を抽出し、それらに均等投資した場合のパフォーマンスを算出しました。図表1の紫線は、母集団全体の平均リターンを差し引いた超過パフォーマンスの累積を示しています。近年にかけて右肩上がりで推移しており、今期予想配当利回りと今期予想DOEを組み合わせた銘柄選別が、有効な投資戦略であることが確認できます。

【図表1】予想配当利回りと予想DOEの条件を満たす銘柄の株式パフォーマンス
注1:データ期間は2018年1月から2025年12月(ただし、12月は19日までのリターンを月間リターンとする)、データサイクルは月次
注2:母数はTOPIX500構成銘柄
注3:予想配当利回りに用いる配当額は日本経済新聞社の今期予想を用いている
注4:予想DOEは予想配当利回り×実績PBRにより算出
注5:毎月末時点で母数のうち予想配当利回り、DOEの条件を満たす銘柄に等金額投資した場合の翌月のリターンを算出。そして対象となる月の母数全体に等金額投資した場合のリターンを引いた超過分を求めて2018年1月以降累積している
出所:QUICK Workstation Astra Managerを用いて、マネックス証券作成

一方、図表1の青線は、今期予想配当利回りのみを基準に選定した銘柄のパフォーマンスです。一定の超過リターンは見られるものの、紫線と比べると上昇の傾きは緩やかであり、配当利回りにDOEを組み合わせることで、銘柄選別の効果が高まっていることが分かります。

また、紫線のパフォーマンスは2021年以降に特に上昇トレンドが顕著となっています。DOEが近年になって株主還元指標として注目を集めるようになったことを踏まえると、それ以前は市場での評価が十分に進んでおらず、銘柄選別効果も限定的だった可能性が考えられます。

予想配当利回りと予想DOEを用いた銘柄選別、FPG(7148)や川崎汽船(9107)など参考銘柄12選

参考銘柄のスクリーニング条件

最後に、実際の投資の参考として、筆者がマネックス証券のウェブサイトで提供している「銘柄スカウター」の10年スクリーニング機能を用いて、参考銘柄を抽出しました。図表1での検証条件を踏まえ、東証プライム上場銘柄のうち、時価総額1,000億円以上とし、流動性に配慮しています。さらに、足元のROEが8%以上という業績面での条件も加えました。

スクリーニングの主要な条件は、先ずは「予想配当利回り4%以上(最終的なリストでは配当利回り面での魅力を考慮して更に4.5%以上に絞っています)」に加え、Excelを用いて「予想配当利回り×実績PBR」により算出した「予想DOE」が4%以上であることです。予想配当利回りの高い順に並べた結果を図表2に示しました。配当利回り面の魅力を考慮して、さらに予想配当利回りが4.5%以上の銘柄に絞っています。投資の参考としてご活用ください。

【図表2】スクリーニング結果(Excel出力での表示変換、予想配当利回りの大きい順に4.5%以上)
※東証プライム上場
市場:東証プライム、時価総額:1,000億円~
[詳細条件]
[指標]予想配当利回り:4.00%~、[指標]PBR:指定なし、[指標]実績ROE:8.00%~さらにExcelで予想配当利回り×実績PBRによりDOEを求めて4.00%以上の銘柄に絞り込む
予想配当利回りが上位順に並び変えて、更に配当利回りが4.5%以上に絞っている

銘柄スクリーニング方法を解説

ここからは補足的な説明です。手順としては、先ず「銘柄スカウター」の10年スクリーニングを用いて、予想配当利回りと、予想DOEの算出に必要な実績PBRのデータを取得します。
次に、Excelで予想DOEを計算後に、予想配当利回りが4%以上で、予想DOEも4%以上の銘柄に絞り込みます。

以下では、実際に用いたスクリーニング条件を示します。
[基礎条件]
市場:東証プライム、時価総額:1,000億円~
[詳細条件]
[指標]予想配当利回り:4.00%~、[指標]PBR:指定なし、[指標]実績ROE:8.00%~

「実績PBR」は、DOEを計算するための処理で必要な指標なので表示のみとします。Excelで予想配当利回り×実績PBRにより予想DOEを求めます。

【図表3】スクリーニングの条件設定画面(銘柄スカウター)
出所:マネックス証券ウェブサイト 銘柄スカウター(ログイン後 ― 投資情報 ―ツール― マネックス銘柄スカウター ― 10年スクリーニング、2025年12月23日時点)

この結果、図表4のような銘柄一覧が画面に出力されます。右上の「CSVダウンロード(図表4の〇印)」から銘柄リストを取得して、Excelで処理します。

【図表4】スクリーニング表示結果(銘柄スカウター)
出所:マネックス証券ウェブサイト 銘柄スカウター(ログイン後 ― 投資情報 ―ツール― マネックス銘柄スカウター ― 10年スクリーニング、2025年12月23日時点)

図表5は図表4でダウンロードして取得したcsvファイルをExcelで開いた画面です。

まず、J列に「G列*H列」という数式を入力します。これが「予想DOE」です。
「*」は掛け算という意味です。そして、予想DOEが4%以上の銘柄に絞ります。Excelのメニュー「データ」→「フィルター」を使い、J列の予想DOEが4%以上に絞ります。

ここで銘柄の抽出が出来上がるのですが、更に配当利回りの高い順に並べるなら、G列の「予想配当利回り」で降順(大きい順)にソート(並べ替え)します。更に配当利回りでの魅力で絞る場合には、例えば、上位から配当利回りが4.5%以上に絞ることも可能です。

【図表5】Excel画面サンプル
出所:マネックス証券ウェブサイト 銘柄スカウターの結果を使ってマネックス証券作成