全員参加型で押し上げられた2025年のゴールド
先週(12月8日週)の動き:緩和環境の継続観測強まる
12月12日のニューヨーク金先物価格(NY金)は4,328.3ドルで終了し、終値ベースでは10月20日以来過去2番目に高い水準となった。先週(12月8日週)の週足は前週末比85.3ドル(2.01%)高で反発となった。
12月9~10日の日程で開かれたFOMC(米連邦公開市場委員会)の利下げ(政策金利を0.25%引き下げ3.5~3.75%に設定)とパウエルFRB(米連邦準備理事会)議長の会合後の記者会見の内容から緩和環境の継続観測が強まり買いを誘った。FRB内部の意見の割れがFOMC開催前から表面化していたことで、利下げに消極的なタカ派への傾斜を警戒していた市場だが(筆者もその内の一人だが)、パウエル議長の発言内容はインフレより雇用への配慮を示したものとなった。
12月12日のNY金は当面の緩和環境の継続を想定した動きとなり、改めて買いを集め一時は4,387.8ドルまで買われ10月20日に付けた過去最高値(4,398.0ドル)に10ドルほどのところまで接近した。しかし最高値圏に控える売りを消化できず最高値を更新できなかったことで、売り優勢に転じ上げ幅を削って取引を終了した。
2025年NY金の上昇率は64%、2024年の27%を大きく上回る
年初から12月12日まででNY金は1,687.3ドル(64%)の上昇となった。金市場版バブル相場とされ、年間で上昇率が100%を超えた1979年以来の規模となる。2024年の27%を大きく上回る上昇は、8月下旬以降に加速した欧米投資マネーの流入加速により、もたらされることとなった。
2024年は主に中国やインドをはじめとする新興国の一般個人や中央銀行の買いが水準を押し上げた。年前半を中心に欧米勢は金ETF(上場投資信託)の売りに回っていた。年後半にその売りは下火となり買い越しに回っていたが、アジア勢を中心とする現物(金地金・金貨)買いや高品位(22金や24金)のジュエリーの買いの陰に隠れ存在感は薄かった。
ところが2025年は一転し買い方として存在感を増し、年後半はトランプ政権によるFRBの独立性の侵害や米国内政治の分断などを懸念事項に欧米勢による金ETFの買いも一気に膨らんだ。なお欧米勢による金ETFの買いは2024年通年で35.9トン、2025年は11月末までで517.3トンに上っている。いわば全員参加型の押し上げ相場というのが2025年の金市場の特徴だった。
複数年にわたる上昇相場の一場面:最大の買い手掛かりは新興国中央銀行による購入
果たして2026年もこの傾向は続くのだろうか。私は今回の一連の金価格の値動きを複数年に渡る歴史的な上昇相場と捉えている。したがって、46年ぶりの大幅上昇となった2025年の値動きもその一場面という捉え方をしている。
買い手掛かりの最大のものが新興国中央銀行の買いであり、これが2026年も持続するか否かが方向を占う最大ファクターと言える。結論から言って持続するだろう。個人から機関投資家まで幅広く金市場におけるセンチメントを支えるものとみられる。
基軸通貨米ドルの減価に対するヘッジ
ここまでの金価格の買い手掛かりは、基軸通貨米ドルの減価に対するヘッジという側面が長らくテーマとなって来た。それが近年注目度の上がった新興国中銀による継続的な金(ゴールド)の購入である。外貨準備に占めるゴールドの比率を上げるため通貨ポートフォリオの組み換えが行われてきた。ディベースメント(Debasement)トレードと呼ばれ、米ドルからゴールドへの移行を表している。
始まりは2009年にFRBが初めて量的緩和策(QE)を導入したことだった。基軸通貨発行国が通貨の増刷を金融政策として導入したことに対抗し、中国の中央銀行である中国人民銀行が無国籍通貨としてゴールド重視に傾いたのが端緒だった。中央銀行全体としてデータ上買い越しに転じたのは2010年以降だが、それから2024年まで15年連続の買い越しで累計8,896トンとなっている。自由に際限なく刷れる(発行できる)米ドルではなく、これだけの量の現物が市場から吸い上げられ、需給を締めたことになる。
2022年ロシアへの金融制裁発動がゴールドシフトへの転機に
中央銀行による買いは2022年以降規模が膨らみ、2024年まで年間で1,000トンを超える購入が続いた。2022年2月のロシアによるウクライナへの軍事侵攻が発生し、米国を中心にいわゆる西側諸国が対ロシアで金融経済上の制裁を発動したことが転機となった。ロシア中銀が外貨準備で保有する米ドルが凍結され、ロシアは米ドル決済網(SWIFT)から排除されることになった。保有していても米国の都合で使えなくなる米ドルに対する警戒感が新興国中銀の間で高まり、ゴールドへのシフトが加速した。
2025年に注目されたのは金価格の高騰が中央銀行の買いにどう影響するのかということだった。金の国際的広報・調査機関ワールド・ゴールド・カウンシル(WGC)のデータでは、2025年9月末までの累計で634トンとペースは落ちているもの高水準が続いていることが確認されている。さらに10月にNY金が過去最高値を示現し、その後急落した際に価格が3,390ドル水準で下げ止まるという流れが見られたが、新興国中銀による買いが下支えしたとみられている。
米政治分断、地政学リスクなど、2026年も不確実性や不透明要因が買い手掛かりに
新興国中銀の買いが上昇持続の基盤を作るが、その他の買い手掛かりは2025年と同様のものが続きそうだ。総じて不確実性や不透明要因と表現される多くのものがゴールドの買い手掛かりとなる。
まず米国政治の分断がある。2026年は中間選挙の年であり、米共和・民主両党の攻防は激しさを増し、予算協議を始め政策運営に支障をきたす可能性がある。特に財政赤字が急拡大し、9月に終了した2025会計年度は連邦政府の利払い費が1兆ドルを超えたと見られ、約8300億ドルとされる国防費を上回る規模となっている。この財政問題が米ドル安につながる可能性もあり金市場の買い手掛かりとなりそうだ。FRBをコントロール下に置こうとする米トランプ政権の動向も注目点となる。
米国金融関連では高騰を続けバブル論議が高まるAI(人工知能)関連銘柄が株式市場全体に与える影響も注目点となる。2025年はいわゆるビックテック銘柄の買いと同時にNY金の買いを同時に進めた投資家も多く、株式市場が大きめの調整局面を迎えた際にはNY金も売られる局面もありそうだ。ただし、それは一過性のもので金市場の上昇トレンド自体を変えることはないと思われる。金融市場で気になるのは、プライベート・クレジットやプライベート・エクイティなど急拡大が伝えられるものの、データ不足から実態が捉えにくい一群の取引があることだ。歴史的低金利の時代を終え、金利上昇が日常となった今、水面下での不良債権の増加などその動向は2026年のみならず2027年に向けても要注意となりそうだ。
もう一つ地政学リスクにも注意を怠れない。2025年9月以降、ロシアが東欧圏中心に軍事ドローンや戦闘機による領空侵犯を繰り返す事例が増えている。ロシアとウクライナ間の争いが、ロシア対NATO(北大西洋条約機構)との争いに拡大する危険性も否めず、金市場の刺激要因になりそうだ。この問題は台湾を巡る中国の動きにも共通するものである。
2026年も複数の買い手掛かり持続、NY金の高値5,400ドル予想
総じて2026年も金市場では複数の買い手掛かりが持続し、複合的な要因によるマクロ型の上昇が続くと見ている。足元に続く上昇の起点は2023年10月の中東情勢の緊迫化がきっかけと捉えている。
テクニカル要因も加味した分析から2026年のNY金の高値は5,400ドルを見込んでいる。FRBの利下げ観測が下方修正される局面では下押し圧力が強まり押し目を形成すると見られるが、それでも3,900ドルのラインは維持されるものとみている。
