2025年11月5日(金)日本時間22:15発表
米国 ADP雇用者数10月、他

【1】結果:民間の雇用データが注目される中、米雇用は弱含みか

直近の米国では、政府機関の一部閉鎖の影響から、雇用統計を始めとした主要経済統計の発表が遅延しています。先週11月7日発表予定であった10月分の雇用統計も発表が見送られ、9月と併せて2ヶ月分のデータが確認できない状況が続いています。

雇用が弱まっていると危惧される米経済において、FOMC(米連邦市場公開委員会)の政策判断の観点からも雇用データの重要度は高く、そのことから多くの市場参加者が代替となる民間データによって足元の経済動向を確認している状況です。

雇用者の増減は、ADP雇用統計が代替指標とされています。最新の2025年10月分のデータは、市場予想の前月差3万人増を上回る同4.2万人増となりました。8月、9月と伸び悩んでいた雇用者数に持ち直しの動きがみられたことで市場には一定の安心感を与える内容となりました(図表1)。

【図表1】非農業部門雇用者数の推移(前月差、季節調整値)
出所:米労働省労働統計局、オートマチック・データ・プロセッシングよりマネックス証券作成

一方で、民間の再就職支援会社であるチャレンジャー・グレイ・アンド・クリスマスが集計する企業の人員削減数を集計した指標では、10月は15万3,074人と2024年同月比で約2.8倍の雇用削減が発表されました(図表2)。主な要因はAIの普及により、テクノロジー企業のレイオフ増加が指摘されています。本指標は企業が公表した数値をもとに集計した指標であり、レイオフが撤回されるケースなどから実際の失業者数を示しているわけではないことに留意が必要ですが、人員削減懸念を市場は不安視しています。

【図表2】チャレンジャー人員削減数の推移(前年同月比、原数値)
出所:チャレンジャー・グレイ・アンド・クリスマスよりマネックス証券作成、シャドーは景気後退期

【2】内容・注目点:労働需要の伸び悩みが顕著

上述の図表1では持ち直しがみられるも、依然として雇用者数の低下トレンドは続いていると考えられます。また、図表2の人員削減数は2025年に入り、米政権の政策不透明感などを背景に変動が大きいことがわかります(図表2、赤丸部分)。直近での変動が大きい点や、レイオフの撤回などが捕捉されない指標の性質上、指標の趨勢(3ヶ月移動平均)に注目すると、直近のトレンドは少なくとも期間中の長期平均(図表2、破線)を上回る水準で推移していることがわかります。過去と比較して雇用の縮小が懸念される段階と言えるでしょう。

求人数も伸び悩み、緩やかな低下傾向がうかがえます。米労働省が発表するJOLTS(雇用動態調査)は、政府閉鎖の影響から発表が遅延していますが、求人サイト運営のIndeedが求人動向をタイムリーに発表しており、その指数値が代替ないしは高頻度データとして注目されています。Indeedのデータ(図表3、青線)は直近で2025年10月末までのデータが公表されていますが、求人数も停滞気味であり、足元では企業の雇用拡大が確認できる状況とは言い難く、労働需要の伸び悩みも危惧される状況です。

【図表3】求人数の推移(季節調整値)
出所:米労働省労働統計局、Indeedよりマネックス証券作成

【3】所感: 足元の局面は企業活動の活性化とそれによる雇用増に注力すべき

求人数の低下と雇用削減(=失業者の増加)は、企業サイドからみれば整合的なアクションですが、マクロの観点では失業者間での競争が増えるため再就職の難しさにつながることが懸念されます。FRB(米連邦準備制度理事会)は、デュアル・マンデートと呼ばれる「雇用と物価の安定」を責務としていますが、物価が下がりきらない中での追加利下げと、それによる物価の再加速を危惧している局面です。

次回12月のFOMCでの利下げは不確定であるものの、個人的には米国のインフレ動向は、緩やかながら低下基調とみられ、関税の影響も突出してインフレ全体を押し上げるといった影響を及ぼしていない点から、現在の局面では雇用サイドの懸念払しょくに注力する時期で、企業活動の後押しの点で追加利下げが妥当と考えています。

マネックス証券 フィナンシャル・インテリジェンス部 山口 慧太