S&P500とナスダック100が堅調ながら投資家心理には警戒感
S&P500は先々週(10月6日週)の下げから反発し、先週は1.7%上昇しました。ナスダック100も大型テクノロジー株の上昇に支えられ、2.46%の上昇率を記録しています。数字の上では堅調に見えますが、投資家心理には明確に警戒感が広がっています。
投資家のセンチメントを測る恐怖指数(VIX指数)は先週月曜日(10月13日)に20を下回っていたものの、金曜日(10月17日)には一時、28を超えました。これは2025年4月の「関税ショック」以来の水準です。市場全体に「何かが起きるかもしれない」という緊張感が漂っているのです。
地方銀行の不正融資問題に注目
先週(10月13日週)、投資家心理を冷やしたのは、米国内の信用市場に表れた不穏な動きでした。地方銀行ザイオンズ・バンコープ[ZION]は、関連する融資に不正があったとして借り手を提訴し、第3四半期に約6,000万ドル(約90億円)の貸倒引当金を計上したと発表しました。
ウェスタン・アライアンス・バンコープ[WAL]も担保不履行を理由に、法的措置を取ったことを明らかにしています。このニュースを受け、両行の株価は木曜日(10月16日)にそれぞれ13%、10.8%急落しました。9月に発生した2件の大規模デフォルトですでに神経質になっていた投資家たちが、このニュースを見て一斉に売り逃げたようです。
また、ジェイピー・モルガン・チェース[JPM]の ジェイミー・ダイモンCEO は、「ゴキブリが1匹いれば、必ず他にもいる」と警鐘を鳴らし、この発言が市場心理を一段と冷やしました。一方で、先週の急落を過剰反応と捉え、ザイオンズ・バンコープ株を好機と見て格上げしたアナリストもおり、市場の見方は明暗が分かれています。
金融セクター全体でみると決算発表は堅調
先週後半は地方銀行の不正融資問題が注目を集めましたが、金融セクター全体では堅調な決算発表が行われています。ジェイピー・モルガン・チェース、ウェルズ・ファーゴ[WFC]、バンク・オブ・アメリカ[BAC]、シティグループ[C]、ゴールドマン・サックス[GS]、モルガン・スタンレー[MS]など大手銀行は、いずれも第3四半期決算で市場予想を上回る収益を報告。
特に、バンク・オブ・アメリカは純利益が前年同期比23%増、投資銀行部門は43%増という驚異的な伸びを示しました。モルガン・スタンレーも株式市場の活況とM&A再活発化に支えられ業績が回復しています。
ただし、ダイモン発言や信用不安で地方銀行には上値の重さも残ります。とはいえ、多くのストラテジストは、これは2008年型の連鎖崩壊ではなく、過剰債務セクターの部分的デレバレッジとみなしており、むしろ市場の健全化プロセスと捉えています。
米中貿易摩擦が再燃、政府高官の発言にマーケットは一喜一憂
そのほかに、株式市場を最も揺さぶったのは、再燃する米中貿易摩擦です。トランプ米大統領は先週、自身のSNSで「中国が米国産大豆を買わないのは経済的敵対行為だ」と投稿し、中国からの食用油輸入を禁止する可能性に言及。これが一時的に株価を押し下げました。
その後、米国通商代表部(U.S. Trade Representative) ジェイミソン・グリア氏と財務長官スコット・ベッセント氏が「中国はまだ輸出制限を実施していない。交渉の余地はある」と発言し、マーケットは安堵。米中首脳会談は10月末に韓国APECサミットで予定されており、強硬なレトリックの裏で「デスカレーション(緊張緩和)への回廊」が模索されています。
ベッセント氏は「最終的にはエスカレーションではなくデスカレーションが道筋になる」と述べ、市場もこれを好感して上昇、政府高官の発言に一喜一憂するマーケットが続いています。
株式市場の底堅さを支える個人投資家は押し目買いを活発化
恐怖指数(VIX指数)が急上昇する中でも、株式市場の底堅さを支えているのは依然として個人投資家(リテール資金)です。米国大手証券のチャールズ・シュワブ[SCHW]によると、第3四半期だけで新規口座開設が100万件を突破しており、株価が1~2%下落するとすぐに買いが入る「Buy the Dip(押し目買い)」の行動が再び活発化しています。
現在のS&P500の株価収益率(PER)は約25倍と高水準にありますが、株式のリスク・リワード(期待損失と期待利益の比率)の観点から見れば、企業業績の堅調さやFRBによる利下げ期待など、市場のファンダメンタルズは依然としてポジティブです。したがって、2025年末までにS&P500が7,000ポイントに到達する余地があると見ています。
今週(10月20日週)は、現地時間火曜日(10月21日)引け後のネットフリックス[NFLX]、現地時間水曜日(10月22日)引け後のテスラ[TSLA]、この2社の決算発表に注目です。
