・8月1日に発表された米雇用統計の結果を受けて、米ドル/円は150円台から147円台前半まで急落。これは珍しく過敏な反応だった。

・なぜこんなに大きく反応したのか?注目は5月、6月のNFP(非農業部門雇用者数)が大幅に下方修正されたことである。2025年以降はすべて下方修正となり、修正値を累計すると52万4000人、月平均では約8.7万人となる。2024年のNFPの1ヶ月平均は16.7万人だったため、トランプ政権になってからほぼ半減したことになる。

・民間の会社であるADP社が発表するADP統計と比較すると、両者には相関性があまりないと思われていたが、2025年の修正後のNFPの数値は、結果的にADP統計の数値に近いものとなった。

・トランプ政権の政策は、移民の強制送還や政府部門の大幅な人員削減など、雇用減になるものが多いと言われてきた。「雇用の拡大」はFRB(米連邦準備制度理事会)のデュアル・マンデート(2つの使命)のうちの1つであり、それが急激に悪化しているということから、利下げ再開の見方が広がっている。

・FFレートと2年債利回りのスプレッドを見ると、利下げ再開を先取りするタイミングで、2年債利回りはFFレートを大きく下回っている。今後の利下げのストーリー次第では、2年債利回りがFFレートを1%以上、下回る可能性もある。

・米ドル/円と米2年債利回りの相関関係はここ数ヶ月で崩れていたものの、2025年3月頃までは高い傾向にあった。日本は利上げ方向に動いているため、日米の金利差は2.5%以下に縮小する可能性があり、3月までの相関関係を前提にすると、米ドル/円は9月FOMC(米連邦公開市場委員会)に向けて139円(年初安値)をトライする可能性がある。ただし、9月に利下げするかどうかは、今週発表されるインフレ指標の結果に左右される可能性もある。

・2022年ロシアのウクライナ侵攻以降、世界的なインフレになり、150円を超える円安が繰り返されてきた。日本の貿易サービス収支は2022年に過去最大の赤字を記録したが、2023年以降赤字は縮小している。通例であれば赤字が縮小すれば円高になるが、円安傾向が継続したのは、日米の金利差が大幅に拡大し、米金利の上昇傾向が続いたからである。米経済の強さが変われば、長期的な円安傾向も変わるカギとなるだろう。