先週(6月16日週)の振り返り=一時146円台に、米ドル反発力試す展開続く
5月中旬以来の終値146円台まで上昇=米ドル/円
先週の米ドル/円はじりじり上昇が続き、146円台での越週となりました(図表1参照)。日足終値が146円台となったのは5月14日以来、さらに週足終値となると4月第1週以来となります。

値動きを見る限りでは、4月に入りトランプ大統領の相互関税発表をきっかけとした世界的な株価暴落「関税ショック」から始まった米ドル急落が底入れし、反発余地を探る展開が続いているということではないでしょうか。ではこのような米ドル/円の反発はさらに広がることになるのか。
米ドル/円の背景は?=金利差ではなく、円金利低下と連動
先週(6月16日週)の米ドル/円の反発は、日米金利差(米ドル優位・円劣位)からはかい離したものでした(図表2参照)。先週は日米の金融政策の発表がありましたが、日米金利差はこの間の方向感のない動きが続きました。

この間の米ドル/円の上昇は、金利差よりむしろ金利で見た方が比較的うまく説明できるかもしれません。例えば、日本の10年債利回りは、5月下旬の1.5%近い水準から、先週は一時1.4%を割るまで低下しましたが、この動きが米ドル高・円安に一定の影響を与えたようにも見えなくはありません(図表3参照)。

このような最近にかけての日本の長期金利低下は、国債発行計画の見直しなどを受けた債券需給不安の後退が一因でしょう。そしてそれは、米国の長期金利低下にも影響した可能性がありそうです(図表4参照)。

財政赤字拡大を背景に、債券需給への不安は日米を含むグローバルな問題になってきました。そうした債券需給不安は基軸通貨米ドル売り要因となり、需給不安の後退が米ドル買い戻し要因になっている可能性もあるのかもしれません。
「有事の米ドル買い」説に疑問=ホルムズ海峡封鎖リスク・ヘッジの円売りか
もう1つ、先週(6月16日週)の米ドル/円上昇の背景として考えられるのは、イスラエルとイランの軍事衝突を受けた中東の地政学リスクの影響です。これについて、「有事の米ドル買い」の結果とする解説が目立ちましたが、違和感があります。
「有事」で基軸通貨の米ドルが選好されるということは、いわゆる東西冷戦時代までの現象であり、冷戦終了後は必ずしも一般的ではなくなりました。これは、冷戦勝利のためのコストの影響で、米国が経常・財政「双子赤字」となると、そのデメリットが再認識されたためでしょう。
その意味では、先週にかけて中東の地政学リスクが米ドル買い・円売りの一因になったとしても、それは「有事の米ドル買い」ということではなく、ホルムズ海峡封鎖に伴う原油供給遮断リスクを警戒した円売りだったのではないでしょうか。
特に円については、短期の売買を行う投機筋のポジションが最近までに記録的な「買われ過ぎ」になっている可能性がありました。CFTC(米商品先物取引委員会)統計の投機筋の円買い越しは、一時18万枚程度といった具合に、それまでの最高を大きく上回るほど拡大しました(図表5参照)。ホルムズ海峡封鎖リスクの浮上を受けて、大きく円買いに傾斜したポジションを整理する動きが、米ドル高・円安を後押しした可能性もあります。

今週(6月23日週)の注目点=中東情勢の緊張は続くのか
米インフレ再燃なら「悪い金利上昇」の可能性も
今週の注目は、中東情勢の緊張がまだ続くのか、それとも緩和に向かうのかということでしょう。仮に緊張が続いた場合は、原油価格上昇がインフレを再燃させるリスクへの懸念も強まる可能性があるでしょう。今週はFRB(米連邦準備制度理事会)が注目するインフレ指標、PCEコアデフレーターの発表も予定されていることから、インフレ再燃リスクには過敏な状況が続くのではないでしょうか。
インフレ再燃への懸念が高まった場合は、米金利上昇により米ドル買いがさらに広がると考えるのが基本でしょう。ただ、すでに見てきたように債券需給不安の後退がこの間米ドル買い戻しを後押ししたなら、インフレ再燃は債券需給不安を再燃させることで米ドル売り材料になる可能性もあります。
米金利上昇でも米ドルが下落することを「悪い金利上昇」と呼びますが、その分かりやすい目安は株価の動向です。インフレ再燃への懸念が高まった場合、株安となるようであれば、米金利上昇でも米ドルは売られる可能性が出てくるでしょう。
今週(6月23日週)の米ドル/円予想レンジは143~148円
上述のとおり、先週(6月16日週)の米ドル高・円安の一因として、過大な投機筋の円買いポジションを整理する動きがあったなら、それが一段と広がるかを考える上では損益分岐点との関係が注目されるでしょう。
たとえば、損益分岐点の目安である120日MA(移動平均線)は足下で148円台まで下落してきたので、これを超えて米ドル高・円安になる可能性が出てきた場合、円買いポジションの損失拡大を回避するために、ポジションを手仕舞う(米ドル買い・円売り)動きが拡大する可能性があります(図表6参照)。

個人的には、日米金利差との関係などから、米ドル高・円安は円買いポジションが損益分岐点割れに至らない程度にとどまると考えています。このため今週(6月23日週)の米ドル/円の予想レンジ上限は、損益分岐点の目安である120日MAが位置する148円で想定します。一方の下限は、米ドル反発を試す動きが続くなら先週(6月19日週)の米ドル/円の安値、143円台の更新の可能性は低いとの考えから、143円ちょうどで想定したいと思います。