5月の振り返り=142~148円台で方向感定まらなかった米ドル/円

なぜ米ドル高・円安は継続しなかったか

5月の米ドル/円は142~148円台のレンジで方向感の定まらない展開となりました(図表1参照)。一時的に大きく米ドル高・円安に振れる場面があったものの、すぐに米ドル安・円高へ戻す動きを何度か繰り返しました。

【図表1】米ドル/円の日足チャート(2025年3月~)
出所:マネックストレーダーFX

米ドル高・円安が継続しなかったのは、日米金利差(米ドル優位・円劣位)の拡大が限られたことが一因でしょう(図表2参照)。5月1日の日銀会合後の米ドル高・円安や5月12日の米中の一時的な関税率大幅引き下げ合意を受けた米ドル高・円安などは、ともに日米金利差から大きくかい離したものでしたが、すぐに金利差で正当化される水準まで戻しました。

【図表2】米ドル/円と日米10年債利回り差(2025年4月~)
出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券が作成

また4月の「関税ショック」以降は、米金利上昇が米ドル高をもたらさない「悪い金利上昇」の反応も目立つようになりました。こうした中で米ドル高・円安が継続的に展開するのは難しくなっている可能性もありそうです。

もう1つ継続的なドル高・円安を阻んでいるのは、「関税ショック」以降指摘が増えている、対米投資見直しの動きではないでしょうか。トランプ米大統領の政策への不信感から米ドルの信認が低下し、対米投資を見直す動きが増えている可能性があります。具体的には対米投資の引き揚げや、米ドル下落に伴う損失を回避するための為替ヘッジ率引き上げといった長期投資家の米ドル売りを、少しでも米ドルが高いうちに行おうとする動きが米ドルの上値を抑制している可能性もありそうです。

米景気への懸念も和らぐ=米ドル下値も限られた理由

一方で、5月の米ドル/円安値は142円台までにとどまり、この間の安値更新には至りませんでした。これは、米中が一時的に関税率の大幅引き下げで合意するなど、トランプ大統領の過激な関税政策の修正が続いた中で株高へ戻す動きとなったこと、そうした中で米景気への懸念も和らいだことが影響したのではないでしょうか。

米実質GDP(国内総生産)は、第1四半期がマイナス0.2%(第一次改定値)と2022年以来のマイナス成長となりましたが、第2四半期について定評のあるアトランタ連銀の経済予測モデルのGDPナウが30日更新した予想値は3%以上のプラス成長を回復する見立てとなりました。

一時は関税政策の影響で景気後退と物価上昇が同時に起こるスタグフレーションも警戒されましたが、そうした懸念は後退し、それも米ドル安・円高の歯止め役になった可能性はあるでしょう。

6月の注目点=米財政リスク、日銀追加利上げ観測の再燃

トランプ減税で再燃する米財政リスク

関税政策発表をきっかけにトランプ大統領の政策に対する不信感が急拡大し、それがすでに見てきたように対米投資見直しの本格化をもたらしたならば、その流れは簡単には変わらず、米ドルの上値を抑制する要因となりそうです。それに加えて5月に注目が高まったのは、トランプ大統領の経済政策のもう1つの目玉である減税を巡る財政赤字拡大への懸念でしょう。

トランプ政権1期目においても、2017年12月の減税法案の議会成立後間もなく、米金利上昇に伴う金利差拡大を尻目に米ドルが急落に向かう「悪い金利上昇」局面が2ヶ月以上も続きました(図表3参照)。2025年6月も減税法案の議会審議などをにらみながら、米財政赤字拡大懸念が株、債券、米ドルの「トリプル安」を再燃させるリスクは引き続き要注意ではないでしょうか。

【図表3】米ドル/円と日米10年債利回り差(2016~2020年)
出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券が作成

再浮上する日銀追加利上げ観測

6月は中旬に日米の金融政策を決める会合が予定されています。この中でも特に日銀の金融政策については、「関税ショック」をきっかけとした金融市場の不安定化の中で一時後退していた追加利上げの可能性が、金融市場の安定化を受けて再浮上してきたのではないでしょうか。

日銀の金融政策を織り込む2年債利回りは3月にかけて0.9%近くまで上昇し、現行0.5%の政策金利をさらに0.25%×2回、つまり1%への引き上げを織り込む動きとなりました。その後「関税ショック」を受けて、2年債利回りは大きく低下し、追加利上げの織り込みはほぼ消滅しましたが、最近にかけて再び0.75%程度まで上昇し、0.25%の1回の追加利上げを再び織り込んだようです(図表4参照)。このような日銀の追加利上げ見通しは、金利差縮小を通じて円買い要因になりそうです。

【図表4】日本の2年債および10年債利回り推移(2025年1月~)
出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券が作成

6月米ドル/円予想レンジは139~147円

トランプ大統領の政策への不信感などから、この6月も米ドル高・円安の継続的な展開には自ずと限界がありそうです。一方で、米財政赤字拡大懸念による米ドル売りや、日銀の追加利上げ見通しに伴う円買いが拡大する可能性はあるでしょう。以上を踏まえ、6月の米ドル/円は139~147円で予想したいと思います。

6/2~6/6の米ドル/円予想レンジ=140~146円

6月第1週は、米雇用統計など注目度の高い5月の米経済指標の発表が始まります。米景気については一時のスタグフレーションなどの懸念がやや和らいでいますが、それを実際の数字で確認することになります。金融政策関連では6月5日にECB(欧州中央銀行)の金融政策発表などが予定されています。

ほかには、先週(5月26日週)の関税政策差し止めを巡るトランプ政権と米裁判所のやり取りや、米財政リスクを取り巻く問題が引き続き注目を集めることになりそうです。米ドル/円は突発的なニュースをきっかけに上昇することはあっても、それが継続的に展開することは限られ、一方でテクニカルな分岐点である142円台を割り込んだ場合は下落余地が拡大する可能性があるとの考え方から、予想レンジは140~146円で想定したいと思います。