先週(5月19日週)の動き:NY金は週足大幅反発で米中関税暫定合意前水準に復帰、JPX金は円高に上値抑えられる
先週(5月19日週)のニューヨーク金先物価格(NY金)は、5営業日中4営業日上昇し、週末5月23日の終値は前日比70.80ドル高の3,365.80ドルとなった。5月6日以来約3週間ぶりの高値水準で、5月12日に米中関税協議の暫定合意がまとまる以前の水準に戻ったことになる。前週(5月12日週)は米中関税協議の暫定合意を受けた緊張緩和期待から売りが先行し、5月15日には一時3,150ドル割れまで売られていた。
大きく値を戻し週足は前週末比178.60ドル5.6%の大幅反発となった。レンジは3,207.40~3,366.50ドルで値幅は159.10ドルと値動きの荒い展開が続いている。
米国債格下げと大型財政法案への懸念
前週末5月16日に米格付け会社ムーディーズが米国債を最高格付けから1ランク引き下げを発表したことに反応した買いが週初から先行することになった。もっとも米政府の「現状からは財政赤字と利払い費負担の拡大は不可避」との見方は、市場でも共有されており新鮮味はなかった。
しかし、折しも米下院ではトランプ減税の恒久化などを盛り込んだ大型財政法案が審議中で、成立すると予想よりも速いペースで財政赤字が拡大する現実を意識させることになった。
米国債入札不調で米長期金利が急伸
そうした状況の中で起きたのが、5月21日に米財務省が実施した20年債(160億ドル)の入札が不調に終わったことだった。落札利回りが市場実勢を上回る内容で、超長期債に対する需要の乏しさを浮き彫りにする結果で、市場の警戒感は一気に高まることになった。
結果発表の午後1時を境に、米主要株式指数は軒並み下げ幅を拡大し、米国債相場は軒並み下落(利回りは急伸)、米ドルも主要通貨に対し売られた。内容的には関税発動に揺れた4月上旬ほどの規模ではないものの、いわゆるトリプル安状態となった。
10年債利回りは22日一時4.632%(FactSet)と1月以来4ヶ月ぶりの水準まで上昇した。
対EU関税50%への引き上げ意向表明で今後への懸念浮上
興味深いのは、そのまま週末までこの流れで行くのかと思いきや、5月23日は一転し関税交渉を巡る懸念が再浮上しNY金をさらに押し上げたことだ。
トランプ米大統領は自身のソーシャルメディアに、EU(欧州連合)との貿易交渉が難航しているとして、6月1日からEUからの輸入品に50%の関税を課すことを勧告すると書き込んだ。その書き込みの後、FOXニュースとのインタビューでベッセント米財務長官は、EUを除く他の多くの主要貿易相手国は真摯に交渉に臨んでいるとし、(トランプ大統領の意思表明が)「EUに火を付ける(交渉を急がせる)きっかけになればと期待する」と述べている。EUは4月に発表された上乗せ関税措置の下で20%の関税対象となる予定だったが、暫定的な猶予措置により7月9日までは10%に引き下げられていた。
EUは先週、交渉の再開を図るため、米国に新たな通商提案を伝えたとされる。ただEU特有と言うべきだろう国際的な労働権、環境基準、経済安全保障など詳細にわたり時間を要するものも多く、米国側は不満を持っているとされる。こうした状況にトランプ大統領は業を煮やしているとみられる。EU側も初期段階の米国側の動きに対し、早い段階で報復関税も発表している経緯がある。したがって、米中間で見られたように報復合戦に発展ということも無きにしもあらずという流れか。実際、EU個別国の多くの高官が、今回のトランプ大統領の表明を非難する声明を出している。
ドル指数(DXY)週足大きく下落
週明け5月26日はメモリアルデーの祝日で米国市場は休みとなる。先週末は3連休を前に飛び出した関税に対する懸念の再燃に米ドルは売られ、ドル指数(DXY)は一時99.047と約3週間ぶりの安値を付け99.112で終了した。週間ベースで1.96%安と、4月初め以来の大幅な下落率となった。この米ドル安もNY金を押し上げた。
JPX金反発も円高に上値削られる
こうした中で国内金価格は米ドル/円相場において週初の145円台から週末の142円台まで円高が進んだことで、NY金の上昇分が相殺されることになった。
5月23日に発表された4月の全国消費者物価指数(コアCPI)が前年比3.5%上昇し、2023年1月以来の大きさとなったことが、円を押し上げた。大阪取引所の金先物価格(JPX金)はNY金同様に5営業日中4営業日で上昇したが上値は円高で削られた。
5月26日のJPX金の終値は1万5461円で週足は前週末比361円、2.4%の反発となった。レンジは1万4886~1万5509円で上下の値幅は623円と先週の954円からは大きく縮小したものの、これでも大きい。NY金(海外価格)と米ドル/円の値動きの組み合わせ次第で国内価格の価格変動は大きくなる。
今週(5月26日週)の見通し:政治要因に影響を受ける展開、5月30日PCE統計、ミシガン大学消費者マインド指数に注目 NY金3,350ドル±50ドル、JPX金1万5400円±200円がコアレンジ
対応が難しい政治要因
先週(5月19日週)はNY金とJPX金の見通しをそれぞれ3,150~3,250ドル、JPX金は1万4800~1万5200円のレンジを想定した。NY金については3,200ドルを中心に50ドル幅のレンジを読んだものだったが、米下院での米減税・財政法案の成立による米財政への懸念に20年債入札の不調が重なり水準を切り上げた。さらに対EU関税大幅引き上げというトランプ発言が加わりNY金の反発幅は拡大し実際には冒頭で触れたように3,207.40~3,366.50ドルとなった。トランプ第2次政権発足後のNY金の値動きは、政治要因に大きく左右されている。言うまでもなくトランプ大統領の不規則発言がその最大のものとなっている。政治要因は対応が難しい。数値化が難しくファンドのアルゴリズムもお手上げ状態と言える。
今週(5月26日週)もこうした状況が続くことで、金市場では不安定な値動きが続きそうだ。一方、関税措置の実体経済への影響が表面化する時間帯に入りつつあるが、ここまでのところ明確な兆候は表れていない。米小売大手ウォルマート[WMT]は決算発表に際して、早ければ5月末から製品値上げを開始するとしていた。
今週の注目指標
今週は5月30日(金)に4月の個人消費支出(PCE)統計が発表され、個人消費の動向がまず注目される。またPCE価格指数(PCEデフレーター)の中でコア指数にも注目が集まるが、市場予想では前月比0.1%上昇が見込まれている(3月は変わらず)。FRB(米連邦準備制度理事会)高官による期待インフレ率の上昇を警戒する発言が増えているが、5月のミシガン大学消費者マインド指数確報値(30日)の発表も注目される。
NY金は3,350ドルを中心に前後50ドルのレンジ、JPX金は1万5400円を挟み上下200円をコアレンジとしたい。