5月19日週は三重苦で主要指数は軒並み続落
先週(5月19日週)の米国株式市場は、主要株価指数が軒並み続落し、投資家心理に再び「関税リスク」が影を落とす1週間となりました。S&P500とナスダック100は週を通してそれぞれ2.61%、2.39%の下落と、4月以降で最も大きな週次マイナスを記録しました。
背景には、トランプ米大統領による関税方針の再強化、長期金利の上昇とムーディーズによる米国債の格下げ圧力、そしてエヌビディア[NVDA]の決算を前にしたAIセクターの利確売りという、三重苦とも言える構図が存在しています。
トランプ関税、アップルと欧州に再び圧力
最大の注目を集めたのは、トランプ米大統領による関税強化の示唆でしょう。5月23日、トランプ米大統領はTruth Socialにて「6月1日から欧州製品には50%、米国外で生産されたiPhoneには25%の関税を課す」と投稿しました(※)。とりわけアップル[AAPL]に対しては、インドなど米国外でのiPhone生産を「非愛国的」と非難し、「米国内での生産を強く求める」と明言したのです。
これを受け、アップル株は週間で7%下落。時価総額は再び3兆ドルを下回り、2021年以来の8日続落という異例の下げとなりました。ティム・クックCEOの政治対応力に対する信頼感が揺らぐ中、「iPhone国内生産」は経済的非現実性が高いとの見方が市場では支配的です。仮に25%の関税が課された場合、iPhoneの原価は1台あたり100~150ドル程度上昇すると試算されており、アップルとしては価格転嫁かマージン圧縮かという難しい選択を迫られます。
また、欧州連合(EU)に対してもトランプ氏は「ディールは決まっている、工場を米国に建てれば関税は免除」と述べるなど、米国への製造回帰圧力を強めています。米国の対EU赤字は他国と比較して小さいものの、トランプ氏の「製造業重視」姿勢は一貫しており、関税を外交・雇用政策のツールとして活用する傾向は続く見通しです。
(※)その後5月26日朝に欧州への50%の関税発動を7月9日まで延期することをトランプ米大統領は表明しました。
金利上昇と米国債への信認低下
格付け会社ムーディーズによる米国債の格下げが5月17日に発表されました。ムーディーズは「財政軌道が不透明であり、議会の機能不全が続く」として、米国債の格付けを「Aaa」から「Aa1」に引き下げました。これにより、3大格付機関すべてが米国債の最高格付けを剥奪したことになります。
現時点では米ドルや米国債への売りは限定的ですが、今後長期的にリスクプレミアムが織り込まれる可能性があり、株式市場にとってもバリュエーションの抑制要因として意識され始めています。
債券市場でも異変が生じました。5月22日に実施された20年米国債の入札が不調に終わったことを受け、米国の長期金利が急上昇しました。通常、市場参加者からほとんど注目されることのない20年債は、流動性にも乏しく、“忘れられた子ども”とも揶揄される存在です。しかし、今回は事情が異なりました。すでに債券利回りが上昇基調にある中での入札であったため、例外的に関心が集まったのです。
30年債利回りは一時5.09%に達し、2024年10月以来の水準を試す動きとなりました。米国の財政赤字拡大と債務管理への懸念が再燃している形です。
市場の視点は徐々に「高金利・高関税・高ボラティリティ」に
エヌビディア決算控え、AI関連に利益確定売り
先週(5月19日週)の米国株市場では、AIセクターが調整局面を迎えました。5月29日に予定されるエヌビディアの決算を前に、半導体株全体に利益確定売りが広がり、フィラデルフィア半導体指数は7日続落、エヌビディアも週間で3%下落しました。特にアナログ・デバイシズ[ADI]が「今期は顧客による在庫積み増しが一巡した」と発言したことで、アナログ半導体全般に売りが波及しました。
加えて、アップルおよびエヌビディアという2社の株価軟調が指数全体の重荷となりました。ただし、AIインフラ需要の構造的な成長トレンドに変化はなく、もしエヌビディアが決算で次世代GPU「Blackwell」の出荷スケジュールや顧客別需要を明示し、ガイダンスを引き上げるような内容となれば、センチメントの好転につながる可能性も残されています。
ボラティリティ上昇とテーマ選好の継続が予想
今週(5月26日週)の注目イベントは、エヌビディアの決算に加え、5月31日に発表されるPCEデフレーターです。インフレ指標で粘着性の強さが再確認されれば、FRB(米連邦準備制度理事会)の利下げ期待が後退し、金利高が長期化する可能性もあります。市場の視点は徐々に「高金利・高関税・高ボラティリティ」の環境へと移行しており、目先はボラティリティ上昇とテーマ選好の継続が予想されます。