先週(4月28日週)の動き:NY金は高値圏での波乱、国内価格日銀の見通しを受けた円安が下支え

先週(4月28日週)のニューヨーク金先物価格(NY金)は引き続き値動きの荒い展開となった。一時最高値を更新する3,500ドル超から3,300ドル割れまで200ドルを超える値動きとなった前週(4月21日週)ほどではないものの、1週間の価格レンジの値幅は154ドルとなった。5月1日には1日で100ドル近い値下がりとなるなど、調整局面入りを思わせた。ただし、そのまま大きく崩れるかというと適度な反発を交える前週までの流れが続いた。

上下の振れ幅が大きく方向感が取りにくいものの、大きく売られてもここまでの上昇トレンドを維持するかのように反発の値幅も大きくなるという、最高値圏での波動の大きなもみ合いという珍しい展開となっている。

国内連休中の5月1日に急落

週初めから4月30日まで3,300~3,350ドルの高値もち合いとなった相場は、5月1日に一時前日比100ドル超水準を切り下げ96.90ドル安の3,222.20ドルで終了。何か特別な売り手掛かりがあって急落するという展開ではなく、NY時間外のアジア時間からだらだら下げ、終わってみて下げ幅の大きさに驚くような流れだった。

異例の内容のトランプ関税による、米国のみならず世界経済への影響という、不透明性に対するリスク回避が金(ゴールド)の買い手掛かりとなってきた。とりわけ米中間の対立激化が前週のNY金の3,500ドル超という想定外の動きにつながった。

関税交渉見通しの強弱で上下に振れるNY金

それだけに先週(4月28日週)は、トランプ政権が連日にわたり流した、各国との関税交渉に対する楽観見通しがNY金の売り手掛かりになったとみられる。

特に先週はラトニック米商務長官が国名は明かさなかったものの、政権がすでに1ヶ国と貿易協定で合意していると明らかにした。ベッセント米財務長官も、日本を含む主要貿易相手国との交渉が「非常に好調」に進んでおり、最初の貿易合意はインドとの間で締結される可能性が高いとの見通しを示していた。

NY金急落の5月1日には、ハセット米国家経済会議(NEC)委員長が協議は進展していると述べ、「この日(1日)のうちに何らかのニュースがあると確信している」と話していた。トランプ米大統領は中国との交渉も進んでいるとしていた。

株式市場では関税交渉にからむ過度の悲観論は後退し、好業績企業を中心に買われS&P500種指数は5月2日まで9営業日連続で上昇し、2004年以来20年半ぶりの最長連騰となった。ところが交渉妥結の話はまったく伝わらず週を終えた。成果を焦るトランプ政権の姿が浮き彫りになったと言えるだろう。

結局、こうした中で先週末5月2日のNY金の終値は押し目買いに反発し3,243.30ドルで終了。週足は前週末比55.10ドル1.68%の続落となった。レンジは3,209.40~3,363.80ドル上下の振幅は154.40ドルと前週の239.10ドルからは縮小した。それでも値動きの大きな環境が続いている。

日銀の政策会合を受けた円安が下支え

先週(4月28日週)の国内金価格も上下の値幅は前週(4月21日週)からは縮小したものの、米ドル/円相場の動きも加わり400円を超えるレンジの値動きとなった。大阪取引所の金先物価格(JPX金)は4月29日の祭日を挟みNY金の急落を受け5月1日に下げ幅を前日比130円安と拡大した。

一方で、日本銀行が5月1日の政策決定会合にて、米国の高関税政策の影響を踏まえ成長率と物価の見通しを引き下げたことを受け、円が対米ドルで145円後半まで下落したことから、週末5月2日は大きく反発した。

JPX金の5月2日の終値は1万5288円となった。週足は前週末比75円、0.49%安で4週ぶりの反落となった。レンジは1万4992~1万5443円で値幅は451円と前週の711円からは縮小したものの、比較的値の荒い展開が続いている。1万5000円近辺まで売られては反発という流れからは、1万5000円近辺が押し目買いのポイントになっていることを表す。

2025年第1四半期金需給統計

金の国際的広報調査機関ワールド・ゴールド・カウンシル(WGC)が4月30日、2025年1~3月期の需給統計を発表した。新興国中央銀行の買いに加え現物投資(地金・金貨)が堅調に推移、さらに金ETF(上場投信)への資金流入が回復に転じたことで、総需要は価格上昇にもかかわらず前年同期比(以下同じ)1%増加の1,206.0トンとなった。

中央銀行による買いは前年同期比21%減の244トンとなったが、引き続き大量購入が続いていると言える。これで7四半期連続の200トン超えとなる。前年同期は310トンだったが、これは2024年4~6月期のデータ公表時に上方修正された数字でもある。1~3月期に目立つのはポーランドの45トンの買いだが、244トンには国際通貨基金(IMF)に報告されない取引も含まれた数字となっている。

価格が最高値を更新する中で、地金・金貨は3%増の325トンとなった。中国が12%増の124トン、インドが7%増の47トンだった。前年まで流出が目立っていた金ETFは北米を中心に226トン増となった。

一方、価格高騰の中で宝飾需要は380トンの21%減に。中国が32%減の125トン、インドが25%減の71トンとなった。米国は5%減の23トンだった。この数年、価格高騰時には宝飾需要は低下し、さらなる値上がり期待から投資需要は拡大する傾向が見られている。

供給項目では価格高騰の中にもかかわらず(使用されない宝飾品や金製品の売り戻しを意味する)リサイクルが1%減の345トン、鉱山生産は横ばいの855トンとなった。平均価格が史上最高値更新にもかかわらずリサイクルの増加が見られていないのは注目に値する。

今週(5月5日週)の見通し:トランプ発言含む関税を巡るニュース FOMCパウエル発言

本コラム掲載日の5月7日時点で、5月6日のNY金は大幅続伸し3,422.80ドルで終了し、前週までの下げから一転し買い優勢の流れに転じている。先週の動きで触れた関税交渉に対する楽観論は後退し、再び金市場には資金逃避の買いが集まっている。

トランプ大統領は5月6日、関税の水準を決めるのは自分自身だと述べ、時間を要している各国との交渉に対し距離を置く姿勢を示したことが、投資家心理を冷やし再び株安につながっている。「関税を巡る不透明感が緩和される」という先週高まった楽観論は後退しそうだ。

なお、ベッセント財務長官が「(関税を巡る)最初の貿易合意はインド」と述べていたが(現時点で未発表)、日本時間5月7日午前に「英国とインドは自由貿易協定で合意(NHK)」したと伝えられているのは、なんとも皮肉ではある。今週もトランプ大統領の発言を含む関税を巡るニュースが値動きの手掛かり材料となりそうだ。

5月6日から開催され7日に声明文が公表されるFOMC(米連邦公開市場委員会)も注目事項となる。政策金利の変更なしは織り込み済みだが、トランプ大統領の度重なる利下げ要請の中で、パウエルFRB(米連邦準備制度理事会)議長の記者会見での発言に注目が集まる。今後の関税の影響についてどのような見通しを語るのか。

5月2日発表のCFTC(米商品先物取引委員会)の公表データからは、欧米ファンドは4月29日時点まででロング(買い持ち高)を大きく減らしていることが判明している。一連の流れからは欧米ファンド売りの中国の買いという構図が浮かぶが、むしろポジション(持ち高)を減らしたファンドには買い余力が生まれているとの見方が適切と思われる。

乱高下で方向感は取りにくいものの、依然として上昇トレンドは継続しており、NY金の最高値圏での滞留が続きそうだ。国内金価格も米ドル/円相場よりNY金への連動性が高い状態が続きそうだ。値動きの大きな環境の中で、NY金は広く3,300~3,500ドル、JPX金は1万5500円を挟み上下400円のレンジを想定する。