2024年1月16日(木)22:30発表(日本時間)
米国 小売売上高

【1】結果:総合は予想を下振れもコントロール・グループは堅調

小売売上高(前月比)
結果:+0.4% 予想:+0.6%
前回:+0.8%(速報値+0.7%から修正)

自動車・同部品除く小売売上高(前月比)
結果:+0.4% 予想:+0.5%
前回:+0.2%

コントロール・グループ(自動車、ガソリン、外食、建設資材除く小売売上高・前月比)
結果:0.7% 予想:0.4%
前回:0.4%

【図表1】米国小売売上高の推移
出所:米商務省、Bloombergよりマネックス証券作成

米国では、個人消費がGDPの約7割を占めることから、その動向を確認できる小売売上高に注目が集まります。今回12月の小売売上高は前月比+0.4%となり、市場予想(+0.6%)と前月の伸び(+0.8%)を下回り、やや伸び悩む結果となりました。ただし、前月の数値は+0.7%から+0.8%に上方修正されているほか、12月の数値も水準としてはまずまずの結果で、米国の個人消費は底堅さを維持していると言えるでしょう。

また、自動車の販売はセールなどの影響で月ごとに大きく変動するため、自動車を除いた小売売上高に注目が集まります。その結果は+0.4%で、市場予想(+0.5%)を下回りましたが前月(+0.2%)からは売上の伸びが加速しています。

一方、GDPの算出に間接的に用いられるコントロール・グループ(季節変動の大きい自動車、ガソリン、外食、建設資材を除いたコア小売売上高)は、前月比+0.7%で市場予想と前回結果(ともに+0.4%)を上回る結果となりました。この結果を受け、アトランタ連銀のGDPNow(短期予測モデル)は、2024年第4四半期の実質GDP成長率(季節調整済み年率)の推定値を2.7%から3.0%に上方修正しています。

【2】内容・注目点: 唯一のサービス部門の外食は売上減となるもその他幅広い項目で売上増加

【図表2】品目別小売売上高(前月比)
出所:米商務省、Bloombergよりマネックス証券作成

図表2に示されているように、12月の小売売上高は13項目中10項目で増加し、11月速報時点の7項目を上回って、幅広い項目で売上増が見られました。

特に売上増が目立ったのは、雑貨店(+4.3%)、スポーツ用品等趣味(+2.6%)、家具(+2.3%)などで、比較的、裁量的支出として分類される項目でした。この動きは、先日の米雇用統計で娯楽・宿泊部門の堅調な雇用増が確認されたことと整合的といえます。インフレが緩やかに落ち着きつつある中で、労働市場の堅調さが続いていることから、米消費者の支出余力が回復しつつあることが示唆されます。

さらに、衣服(+1.5%)、食料品(+0.8%)といった生活必需品の売上増もみられたほか、12月以降の原油価格上昇を背景としたガソリンスタンドの売上増(+1.5%)も確認されました。

また、自動車・同部品も+0.7%で好調です。自動車販売が好調である背景としてはトランプ氏が、米大統領就任後に電気自動車(EV)に対する税額控除の廃止を示唆しており、税控除廃止前の駆け込み需要がEVを中心に自動車販売を押し上げていると考えられます。

一方、売上減が目立ったのは建設資材で、前月比-2.0%となりました。FRB(米連邦準備制度理事会)の利下げ後も住宅ローン金利が高止まりしている影響で、住宅販売やリフォーム需要が依然として回復していない様子がうかがえます(図表3参照)。

【図表3】米30年住宅ローン金利の推移
出所:米抵当銀行協会(MBA)、Bloombergのデータを基にマネックス証券作成

また、アマゾンなどのECサイトに代表される無店舗小売は、12月は+0.2%の増加にとどまりました。年末商戦にかけて値引き競争が激化したほか、セールの前倒しによる需要の先食いで月の後半にかけて減速した可能性が指摘されています。

そのほか、小売売上高で唯一のサービス部門である外食も前月比-0.3%とマイナスになりました。
図表4に示されている食事に関する小売売上の動向を確認すると、コロナ禍以降、外食の売上(図表4の青緑色線)は減少し、食料品の売上(図表4の黄土色線)は増加している傾向が続いていることが分かります。消費者が外食を控え、家庭での食事を増やすことで、より節約志向の消費行動を選択していることが示唆されます。

【図表4】実質ベースの外食及び食料品小売売上(前年比)の推移
出所:米商務省、米労働省労働統計局(BLS)、Bloombergよりマネックス証券作成

外食の売上高の減少は、対面サービスを提供する労働者の必要性が減ることを間接的に意味しており、一部業界での労働需要の低下(労働市場の冷え込み)が懸念されます。

【3】所感:総じて健全な内容だが、トランプ氏の大統領就任直前でノイズも大きい

今回の小売売上高は、ヘッドラインの数値こそ予想を下回ったものの、幅広い品目で増加が見られたほか、GDP算出に用いられるコントロール・グループも上振れするなど、総じて米国の消費が依然として底堅い印象を与える結果となりました。

一方で、12月は年末商戦による季節性が強い時期であるほか、トランプ氏の米大統領就任を前に、関税引き上げや電気自動車(EV)に対する税控除廃止を見越した駆け込み需要といった一時的な要因の影響も考えられるため、今回のデータはやや読み取りづらい面があります。

また、小売売上高はインフレ調整を行わない数値であり、主に財の消費を対象としている点に留意が必要です。今回、唯一のサービス部門である外食が前月比マイナスであったことから、他のサービス部門の消費動向が気になるところで、月末に発表される個人消費支出(PCE)を通じて、サービス部門を含むインフレ調整後の消費動向を確認する必要があるでしょう。

そして、トランプ氏は1月20日に正式に米大統領に就任する予定であり、就任後の発言や政権運営に引き続き注目です。

フィナンシャル・インテリジェンス部 岡 功祐