先週(1月6日週)の振り返り=米ドル高値更新が続いたが反落の場面も
先週の米ドル/円は高値更新が続き、1月10日に発表された注目の米12月雇用統計が予想より強い結果になると一時159円近くまで一段高となりました(図表1参照)。ただ、そうした中で何度か反落する場面もありました。1つは1月6日、米ワシントン・ポスト紙の「トランプ関税」を巡る報道がきっかけとなりました。そしてもう1つは1月10日、雇用統計の結果を受けて米利下げ見通しが後退、米金利上昇となったことが嫌気されたとした米国株急落がきっかけでした。
米ワシントン・ポスト紙の報道は、トランプ次期米大統領の選挙公約の1つである諸外国からの輸入品に関税を課すことについて、重要な分野に限定することを検討しているという内容でした。この報道をきっかけに、1月6日の米ドル/円は158円手前から156円割れ近くまで比較的大きく下落しました。なぜ、このような過敏な反応となったのか。それは、「トランプ関税」の影響を見込んだ取引が急拡大し、「行き過ぎ」懸念も出てきたからではないでしょうか。
記録的なカナダドル売りの最大の拠り所は「トランプ減税」
例えば、ヘッジファンドの取引を反映するCFTC(米商品先物取引委員会)統計の投機筋のカナダドル・ポジションは、最近にかけて売り越しが18万枚程度と記録的拡大となっています(図表2参照)。トランプ氏は、2024年11月の大統領選挙での勝利後間もなく、「カナダとメキシコに25%の関税を課す」と発言しました。このため、「トランプ関税」の最大の受難先の1つがカナダとなりそうです。その意味では記録的なカナダドル売りの最大の拠り所が「トランプ減税」の可能性があるでしょう。
ただし、「記録的な売り越し」とは、別な見方をすると極端な「売られ過ぎ」の可能性を感じさせます。極端な「行き過ぎ」とは「バブル」と言い換えられるかもしれません。以上のことから、「トランプ関税」の影響を懸念したカナダドル売り「バブル」になっており、ワシントン・ポスト紙の報道のように「関税の影響は懸念されたほどにならない」可能性が出てくると「バブル」の反動が入りやすくなるのではないでしょうか。
この場合の「バブル」の反動、行き過ぎの修正とは、基本的には米ドル売り・米金利低下になると考えられます。今後、トランプ政権の正式なスタートに向けて、関税の具体的な中身が明らかになっていくと思われます。その中で米金利上昇、カナダドル売り・米ドル買いなどがさらに続くのか、すでに目一杯影響を織り込んだことから、逆にその反動で「バブル破裂」のようになる可能性もあるのかは、今後の大いなる見所でしょう。
米長期金利の10年債利回りは一時4.8%近くまで急騰
もう1つ、1月10日の雇用統計発表後の米国株急落についてもみておきましょう。雇用統計は予想より強い結果となったことから、1月FOMC(米連邦公開市場委員会)での利下げ見送り、さらに2025年中の米利下げ見通しも一段と後退したとされ、米長期金利の10年債利回りは一時4.8%近くまで急騰しました。一方で米国株は主要な株価指数が軒並み急落となりました。
このような米金利上昇、米国株下落という金利と株の反対方向の展開は、基本的に2024年12月から続いてきました(図表3参照)。この一因と考えられるのが、債券利回りと株式の益回りで見た時の後者の比較劣位拡大です。これは過去2年においても、今回のように米10年債利回りが4.5%を大きく上回り上昇する局面で見られたものでした(図表4参照)。
過去2年のケースでは、米金利上昇と株安はほぼ同じタイミングで転換しました。これは、米金利上昇の一巡により株安が転換したのか、そうではなくて逆の因果関係、つまり株安が広がる中で、逆資産効果など景気への悪影響が見込まれ米金利上昇終了となったのか定かではありません。ただ仮に後者の面が大きいなら、株安のさらなる拡大はこの先米金利上昇を終了させる要因になる可能性もあるでしょう。
今週(1月13日週)の注目点=米金利上昇は続くのか、株安が広がるのか
過去1ヶ月余り米金利上昇が続く中で、日米金利差米ドル優位が拡大し、それに連れる形で米ドル/円も先週は159円近くまで上昇しました(図表5参照)。さらに米ドル/円が今週160円の大台トライに向かうかは、米金利上昇が続くかが最大の焦点と言えるでしょう。
ただし米金利上昇には、「トランプ関税」への懸念の影響も大きく、そうした取引にはカナダドル売り・米ドル買いのように極端な「行き過ぎ」、つまり「バブル化」の兆しも出てきたようです。そうであれば、「トランプ関税」の動向次第ではバブルの修正で米金利上昇、米ドル買いの反転となる可能性もあるでしょう。一方で、さらに米金利上昇が続いた場合、それが株安をどれだけもたらすかも気になるところです。
以上を踏まえると、今週の米ドル/円は高値圏での推移が続くものの、米金利上昇と米国株安の動向次第では反落に転じるリスクもあるでしょう。今週の米ドル/円の予想レンジは155~160円で想定したいと思います。