2007年、世界最古の銀行と世界最大の資産運用会社が合併し設立
バンク・オブ・ニューヨーク・メロン[BK]は、金融ライフサイクル全体にわたって顧客の資産管理、移動、保管を支援するグローバル金融サービス会社。子会社を通じて世界35ヶ国100以上の市場で機関投資家、企業、および個人投資家に、資産運用、保管・証券サービス、年金計画管理など一連の金融サービスを提供しています。
同社は2007年、ニューヨーク銀行とメロンファイナンシャルの合併によって設立されました。ニューヨーク銀行は1784年にアメリカ建国の父の一人アレクサンダー・ハミルトンによって設立された世界最古の銀行と知られ、一方のメロンファイナンシャル(1869年創業)は世界最大の資産運用会社として知られた銀行です。この合併によって世界最大の管理資産と米国最大級の運用資産を持つ金融会社になりました。(2024年9月末現在、52.1 兆ドルの保管・管理資産と2.1 兆ドルの運用資産を管理しています。)
現在ではフォーチュン 100企業の91%、世界の上位100銀行のほぼ全てと取引実績を持ち、またトップ100の年金基金の90%以上と協力関係にあります。2023年12月期の総収益は173億ドルで、フォーチュン500で130位に付けています。また総資産では米国で13番目に大きい銀行で、世界では84番目に大きい銀行です。
世界最大のグローバル・カストディ銀行
主な事業は、機関投資家などから顧客資産を預かるカストディ(資産管理)業務。証券、現金、その他の金融商品を年金や投資信託委託会社に代わって保管、記録します。同社は世界最大のグローバル・カストディ銀行として知られ、その管理資産残高は世界最大の52.1兆ドルを誇ります。管理資産が50兆ドルを超えたのは同社が世界で初めてです(第2位のステート・ストリート[STT]は、44.3兆ドル)。
そして主な収入源は、この管理資産に応じて徴収する手数料(カストディ フィー)となります。手数料は同社収益の75%を構成します。2023年度の売上(収益)は175億ドル、手数料収入は131.5億ドルでした。
手数料率は0.02%と低く、事業的にも急成長するということはない成熟した業界ではありますが、事業の堅実さは確固たるものです。
カストディ業界は寡占化していて、同社、ステート・ストリート、ジェイピー・モルガン・チェース[JPM]などの6社で世界の運用資産の8割を管理していると言われます。業界各社は規模を拡大することで成長し、また規模の経済によってコストを圧縮し手数料を低くすることで顧客を獲得してきました。そもそも参入障壁が高い事業であることに加えてこのような構造ができあがっていることから、急激に業績が悪化するリスクは低いと言えます。
注目されるビジネスチャンス:暗号資産ETFカストディ事業への参入
堅実なビジネスモデルを確立している一方で、新たな成長が期待できる事業にも注力しています。暗号資産のカストディ業務です。手数料率が高いとされることも注目点で、収益が押し上がる可能性があります。
同社は兼ねてより「市場で認可されている資産を確実にサポートする」ことを事業テーマにしてきましたが、ここ数年はデジタル資産への対応に注力しています。2021年に、暗号資産カストディを手掛けるファイアブロックスに出資し、デジタル資産の保管技術を共同開発。2022年10月には機関投資家向けに暗号資産を含むデジタル資産保管サービスの提供を開始しました。これは伝統的な金融サービスにデジタルの暗号資産が導入されるという歴史的とも言える出来事だったのではないかと思います。
同社は、暗号資産カストディサービスの拡大に向け規制当局と交渉を進めてきましたが、先月、ポジティブな動きがありました。暗号資産保管サービスへの参入を目指す銀行にとって大きな障害とみなされていたSECの規制「SAB 121」に対し、同社は「特別許可」を取得したとのこと。規制では通常、保管する暗号資産を負債と資産の両方としてバランスシートに計上することが義務付けられていますが、これが免除されたということです。
現物ETFの顧客が保有するビットコイン(BTC)とイーサリアム(ETH)のカストディ(保管)サービスの提供開始に大きく前進したニュースでした。
これは機関投資家による暗号資産導入の動きを活発化させる動きであり、また暗号資産の地位を高める動きでもあることから金融業界全体で暗号資産含むデジタル資産の存在感が高まっていく可能性も高めました。
こうした中、暗号資産を支持するトランプ氏が大統領選に勝利したことはとてもポジティブです。トランプ氏は「アメリカをビットコイン超大国にする」「暗号資産企業に対して厳しい執行措置を続けるSECのゲーリー委員長を解任する」、さらには「司法省が犯罪者などから押収して保有している約21万ビットコインは売却せず、国家戦略的な備蓄に充てる」など暗号資産を強く支持しています。
11月7日には米連邦準備銀行(FED)に戦略的準備金としてビットコインを保有することを義務づける法案「2024年ビットコイン法」が上院に提出されるなど早くも動きが見られます。戦略的備蓄戦略が実現すれば、暗号資産カストディサービスを目指す同社にとって大きなビジネスチャンスとなる可能性があります。
好調な業績と財務基盤、高い株主還元
業績は好調。第3四半期には管理資産と運用資産が増加し、収益が5%成長。一方、利益面では効率化とコスト削減策が奏功して増加することはなく、税引前利益は15%増、自社株買いもあってEPSは20%増加するという流れで好調な業績結果となりました。
カストディ業務を主力とする同社のビジネスにグロース株のような勢いは感じられませんが、手数料収入を主な収入源とすること、また伝統的な商業銀行のように貸倒リスクを負わないところなどで非常に安定性が高いことが評価されます。
高い信用力を持つ世界トップのカストディ銀行であり、安定してキャッシュを生み出すことができており、財務面も問題ありません。2024年9月末時点、普通株式等Tier1(CET1)比率は 11.9%で前年から0.6ポイント上昇、Tier 1レバレッジ比率は6.0%で、前年から0.1ポイント低下したものの目標の5.5%~6%はクリアしています。
また同社は、金融安定理事会(FSB)によってSIFI(システム上重要な金融機関:破綻すると国際金融システムに危機をもたらす可能性がある≒潰してはならない金融機関)に指定されており、全体として低リスクな投資先として見ることができると思います。
株主への利益還元も両立しています。同社は配当と自社株買いを通じて利益の100%以上を株主に還元することを方針としています。2023年度には127%を還元しました。この第3四半期には利益の103%にあたる10億7800万ドルを還元(配当3億5300万ドル、自社株買い7億2500万ドル)しました。配当については14年連続で増配しており、この3年間は年間平均して12%の増配を行っています。配当性向は40%程度で推移しており、株主還元は自社株買いによって柔軟に行われていることから増配は維持される方向かと思います。