エムジーエム・リゾーツ・インターナショナル[MGM]、米国のカジノ大手

エンターテイメントの街への転身

エムジーエム・リゾーツ・インターナショナル[MGM]はラスベガスを代表するカジノ運営会社で、カジノリゾートを軸にエンターテインメント事業を手掛けています。米国でカジノ16ヶ所、マカオで2ヶ所を運営しています(2024年末時点)。

2024年12月期のセグメント別の売上高はラスベガス部門が前年比0.2%増の88億1600万ドルと伸び悩みましたが、売上高全体に占める割合は51.1%で依然として5割を超えています。

ラスベガス部門:カジノ事業の売上高は約2割

ラスベガスで展開するカジノリゾートは「アリア」、「ベラージオ」、「コスモポリタン」、「MGMグランド」、「マンダレイベイ」、「ニューヨークニューヨーク」、「ルクソール」など。ラスベガス部門の特徴はカジノ事業の売上比率の低さです。カジノ事業の売上高は7.9%減の19億6000万ドルで、ラスベガス部門全体に占める割合は22.2%にとどまっています。この割合は年を追うごとに低下しており、ラスベガスがギャンブルの街からエンターテインメントの街に転身したことを象徴していると言えそうです。

ラスベガス部門ではホテルの客室と飲食の売上比率がそれぞれ35.8%、26.7%でカジノ事業を上回っています。エンターテインメント・小売事業の売上比率は15.2%です。

地方部門:ラスベガス以外の米国事業

地方部門はラスベガスを除く米国事業で構成されます。主なカジノ&ホテルには、「東海岸のラスベガス」と呼ばれるニュージャージー州アトランティックシティーの「ボルガータ」をはじめ、ミシガン州の「MGMグランド・デトロイト」、メリーランド州の「MGMナショナルハーバー」、マサチューセッツ州の「MGMスプリングフィールド」などがあります。

マカオ部門:香港上場子会社を通じて展開

マカオ部門は56.0%を出資する香港上場子会社、エムジーエム・チャイナを通じて展開しています。埋立地で巨大カジノが林立するマカオのコタイ地区への進出が後手に回り、マカオでは市場シェアで下位に沈んでいましたが、その後に巻き返し、6社の中で3位に浮上しています。

マカオ部門では売上高に占めるカジノ事業の割合は86.9%です。マカオのカジノ業界ではMICE(企業や団体の会議、旅行、展示会など)を強化し、ラスベガス型のエンターテインメント産業への転身を目指していますが、「ギャンブルの街」からの脱却にはなお時間を要すると言えそうです。

【図表1】エムジーエム・リゾーツ・インターナショナル[MGM]:業績推移(単位:百万ドル)
出所: LSEGよりDZHフィナンシャルリサーチ作成
※期末は12月
【図表2】エムジーエム・リゾーツ・インターナショナル[MGM]:週足チャート(移動平均線 緑色:13週、橙色:26週)
出所:マネックス証券ウェブサイト(2025年4月3日時点)

シーザーズ・エンターテインメント[CZR]、デジタル部門が成長エンジン

積極的なM&Aで拡大

シーザーズ・エンターテインメント[CZR]は、2020年にエルドラド・リゾーツがシーザーズ・エンターテインメント・コーポレーションを買収し、現在の名前に社名変更して誕生しました。1973年創業のエルドラド・リゾーツは、ネバダ州リノでエルドラド・ホテル・カジノを立ち上げてカジノビジネスに参入。2005年以降に企業合併・買収(M&A)を積極的に推し進め、2014年にMTRゲーミング・グループ、2017年にアイル・オブ・カプリ・カジノ、2018年にトロピカーナ・エンターテインメント、2020年にシーザース・エンターテインメント、2021年にウイリアム・ヒルを買収し、業容を拡大しました。2024年末現在、18州の53ヶ所でカジノを所有または運営しています。

主力事業はラスベガスを除く米国事業で構成する地方部門で、2024年12月期の売上高は前年比4.1%減の55億3900万ドル(売上比率49.3%)です。ネバダ州リノの「エルドラド・リゾート・カジノ」、メリーランド州の「ホースシュー・ボルチモア」、ニュージャージー州にある「シーザーズ・アトランティックシティー」と「ハラーズ・アトランティックシティー」などが主なカジノです

ラスベガス部門では「シーザーズ・パレス」、「クロムウェル」、「フラミンゴ」、「ハラーズ」、「ホースシュー」、「プラネット・ハリウッド」などのカジノリゾートを展開しています。2024年12月期の売上比率は38.0%です。

デジタル部門:スポーツ賭博、ポーカー、競馬、オンライン・カジノ等

シーザーズ・エンターテインメントの成長エンジンはデジタル部門です。オフラインとオンラインのスポーツ賭博やポーカー事業、競馬事業、オンライン・カジノ事業などで構成されています。スポーツ賭博ではアメリカンフットボールのNFL、バスケットボールのNBA、アイスホッケーのNHL、野球のMLBなどの団体と提携しています。

ポーカー事業では世界最大のポーカートーナメント、「ワールド・シリーズ・オブ・ポーカー(WSOP)」を手掛けていましたが、2024年にブランドを売却しています。ただ、今後20年の開催場所を決める権利は保持したままです。

スポーツ賭博や競馬事業、オンライン・カジノ事業ではもちろん、モバイルアプリを通じてサービスを提供しています。デジタル部門の2024年12月期の売上高は前年比19.5%増の11億6300万ドルで、売上比率は10.3%に過ぎませんが、成長は続いています。

【図表3】シーザーズ・エンターテインメント[CZR]:業績推移(単位:百万ドル)
出所: LSEGよりDZHフィナンシャルリサーチ作成
※期末は12月
【図表4】シーザーズ・エンターテインメント[CZR]:週足チャート(移動平均線 緑色:13週、橙色:26週)
出所:マネックス証券ウェブサイト(2025年4月3日時点)

ラスベガス・サンズ[LVS]、アジア事業に経営資源を集中

ラスベガス・サンズ[LVS]はシェルドン・アデルソン氏が一代で築き上げた企業です。アデルソン氏は2021年1月に死去する直前まで会長と最高経営責任者(CEO)を務めていました。

同社は翌2022年、ビジネスの方向を大きく転換させました。カジノリゾートの「ベネチアン・リゾート・ラスベガス」などラスベガスで手掛けていた事業を売却し、マカオとシンガポールのアジア事業に経営資源を集中させたのです。

アジア事業の中核はマカオで展開するカジノリゾートです。72.3%を出資する香港上場のサンズ・チャイナを通じ、マカオ半島部の「サンズ・マカオ」、コタイ地区の「ベネチアン・マカオ」、「パリジャン・マカオ」、「ロンドナー・マカオ」などを運営しています。カジノ収入の市場シェアはマカオで運営する6社の中でトップです。

2024年12月期のマカオ事業の売上高は前年比8.4%増の70億7300万ドル、調整後EBITDA(利払い・税引き・減価償却前利益)は4.6%増の23億2700万ドルで、全体に占める割合はそれぞれ62.6%、53.1%です。

シンガポールでは「マリーナベイ・サンズ」を手掛けています。高層ビルの屋上にある巨大プールが特徴的なカジノリゾートです。「マリーナベイ・サンズ」は売上比率が37.4%、調整後EBITDA の比率が46.9%です。

【図表5】ラスベガス・サンズ[LVS]:業績推移(単位:百万ドル)
出所: LSEGよりDZHフィナンシャルリサーチ作成
※期末は12月
【図表6】ラスベガス・サンズ[LVS]:週足チャート(移動平均線 緑色:13週、橙色:26週)
出所:マネックス証券ウェブサイト(2025年4月3日時点)

ウィン・リゾーツ[WYNN]、ラスベガスとマカオでカジノリゾート

ウィン・リゾーツ[WYNN]はラスベガス事業、マサチューセッツ州のボストン事業、マカオ事業をバランスよく手掛けています。セグメント別の売上高はマカオ事業が最も多く、2024年12月期には前年比18.8%増の36億8200万ドル(売上比率51.7%)に達しています。調整後EBITDAR(利払い・税引き・減価償却・賃借費控除前利益)は23.2%増の11億7600万ドルで、全体に占める割合は49.6%です。

マカオ事業では2016年にコタイ地区に開業した大型カジノリゾート「ウィン・パレス」が稼ぎ頭です。やはりカジノ自体の売上比率が81.0%と圧倒的に高く、米国事業のように成熟した総合エンターテインメントビジネスに転身するのはなお時間がかかりそうです。

ラスベガス事業ではカジノリゾートの「ウィン・ラスベガス」や「アンコール」を軸に展開しています。売上比率は36.1%、調整後EBITDAR の比率は40.0%です。

このほかマサチューセッツ州ボストンでカジノリゾートを運営し、オンライン・カジノやスポーツ賭博などのインタラクティブ事業も手掛けています。

【図表7】ウィン・リゾーツ[WYNN]:業績推移(単位:百万ドル)
出所: LSEGよりDZHフィナンシャルリサーチ作成
※期末は12月
【図表8】ウィン・リゾーツ[WYNN]:週足チャート(移動平均線 緑色:13週、橙色:26週)
出所:マネックス証券ウェブサイト(2025年4月3日時点)

レッド・ロック・リゾート[RRR]、ラスベガス周辺で事業展開

レッド・ロック・リゾート[RRR]は1976年に設立された企業で、ラスベガスやその近郊でカジノリゾートを運営しています。主要施設はラスベガスの目抜き通りである通称ラスベガス・ストリップから外れており、これまでご紹介してきた大手とやや毛色が異なります。

ビジネスモデルの差異は売上高の内訳に明確に表れています。2024年12月期の売上高は前年比12.5%増の19億3900万ドルで、カジノ収入は12.8%増の12億7700万ドル、売上比率は65.9%に達しています。飲食の売上比率は18.6%、ホテルの客室の売上比率は10.3%にとどまっています。

ホテルが併設されているカジノは「レッドロック」、「デュランゴ・カジノ&リゾート」、「グリーンバレー・ランチ」、「パレス・ステーション」、「ボールダー・ステーション」、「サンセット・ステーション」の6ヶ所で、ストリップに位置する「パレス・ステーション」を除き、目抜き通りから外れています。

この6施設のカジノにテーブルゲームはありますが、主力はスロットマシンです。例えば「レッドロック」はテーブルゲーム62台に対し、スロットが2,616台(2024年末時点)。「デュランゴ・カジノ&リゾート」はテーブルゲームが67台、スロットが2,171台です。

このほかスロットマシン場に映画館やボーリング場などが併設された施設が10ヶ所に上ります。こうした施設を加えると、スロットマシンは計1万6,447台で、ゲームテーブルは合わせて320台です。

【図表9】レッド・ロック・リゾート[RRR]:業績推移(単位:百万ドル)
出所: LSEGよりDZHフィナンシャルリサーチ作成
※期末は12月
【図表10】レッド・ロック・リゾート[RRR]:週足チャート(移動平均線 緑色:13週、橙色:26週)
出所:マネックス証券ウェブサイト(2025年4月3日時点)