2024年9月27日を権利落ち日として分割を実施した銘柄数は62銘柄

日本取引所グループのウェブサイトでは個人投資家が投資しやすい環境を整備するために、望ましい投資単位として50万円未満という水準が明示されています。また、上場内国株券の発行者に対して、望ましい投資単位の水準以上(50万円以上)で株式が売買されている場合には、事業年度経過後3ヶ月以内に、50万円未満の水準へ移行するための、当該発行者の投資単位の引下げに関する考え方及び方針等を開示するよう義務付けています(※)。

このような背景もあり、2024年9月27日を権利落ち日として(権利付き最終売買日は9月26日)株式分割をした銘柄は62銘柄あります。では、株式分割をした後、この62銘柄の株価推移はどうなったのでしょうか? 

権利付き最終売買日であった9月26日の終値から10月1日終値まで、上昇した銘柄数は21銘柄、下落した銘柄数は41銘柄となり、平均騰落率は-0.72%です。この数字だけを見ると、株式分割への期待感で権利付き最終売買日に向けて株価が上昇し、権利落ち後に材料出尽くしで下がっているようにも見えます。

しかし、当該期間の日経平均の騰落率が-0.70%、TOPIXの騰落率が-1.11%であることを考えると、平均的な騰落率のようにも見ることができると思います。また、これらの企業が今回の株式分割を発表したのは2024年3月期の決算発表時期(5月上旬ごろ)であることが多く、4月末の終値から10月1日(火)終値までの騰落率を調べてみると、上昇銘柄数35銘柄、下落銘柄数27銘柄、平均騰落率+7.96%となっており、当該期間の日経平均の+0.64%やTOPIXの+2.84%の騰落率を大きく上回ります。

株式分割で銘柄自体の価値は変わらないが流動性は向上する

ところで、株式分割は分割後に最低購入金額が下がって買いやすくなるというメリットはありますが、株式分割をしてもPERや時価総額など、その銘柄の価値自体は全く変わりません。ただし、最低購入金額が下がることによって購入できる人が多くなり、流動性が向上することで株価がどちらかといえば上がりやすくなる傾向はあると言えるでしょう。前述のように最低売買金額が50万円以上の銘柄が分割を検討することが多いことを考えてみると、株式分割は(業績が良く)、株価が上昇している銘柄の割合が多くなると考えることもできると思います。

また、安定性や配当利回りが期待されて購入されている銘柄、今回の分割で言えばソフトバンク(9434)や北海道瓦斯(9534)などの公益セクターの株価には長期目線でプラスの影響をもたらす可能性があります。高配当銘柄としてNISAなどで購入する人が多くなる可能性があると考えられるからです。例えば、日本電信電話(9432)は2023年6月29日を権利落ち日として1株を25分割に行って大きく最低購入株価を下げましたが、分割後、株価は好調に推移しました。しかし、その後は2025年3月期の見通しが市場予想よりも低い数字が発表されたことなどから調整しています。また、金利上昇で注目が集まる三井住友フィナンシャルグループ(8316)、日本の株式市場の活性化で人気の日本取引所グループ(8697)といった大型の金融関連株も今回の分割で手が出しやすくなったことから注目が集まるかもしれません。

業績や株価トレンド、定性面の強みといった本来の材料に注目しよう

さて、2000年前後までは100分割を発表した企業が急騰するなど、株式分割自体が株価上昇の大きな材料となったケースもみられましたが、現在では株式分割自体が株価上昇の大きな材料にはあまりなりません。では何が重要か、それはやはり、その銘柄のファンダメンタルやテクニカルに注目することだと思います。つまり業績が良く定性面の強み(=圧倒的なシェアなど、その会社の独自の強み)があって、もともとの株価トレンドが上昇トレンドの銘柄が株式分割を発表した場合、最低売買金額が下がり、流動性が向上するという期待感もあって、株価上昇が加速することがあります。

歯科機器総合メーカーの松風(7979)

例えば、今回2分割を実施した松風(7979)という銘柄があります。分割を発表した日は2024年5月1日でしたが、そこから株価は大きく上昇しています。松風(7979)は、歯科材料および歯科機器の大手総合メーカーで、人工歯や研削・研磨材で国内トップシェアを誇ります。事業領域は、人工歯から研削材や化工品など歯科材料・機器全般へと広がり、人工歯だけでなく、他の製品群でも数多くの「日本初」「世界初」を生み出しています。

新製品には大臼歯全般で保険適用となった CAD/CAM 冠用の材料などがあります。また同社は、成長の余地は国内よりも海外に大きいとし、海外事業へ注力しています。ニッチトップ企業であること、海外市場という成長余地に対し、強いキャッシュ創出力と盤石財務をもって成長投資を強化していること、株主還元が強化されたこと、これらを総合的に考えると、今回の株式分割を機に注目できる銘柄のひとつだと思います。

機能性材料メーカーのデクセリアルズ(4980)

デクセリアルズ(4980)は今回3分割をした銘柄です。2024年5月13日に分割を発表しましたが、その後、株価は上がっています(市況全体に押されて7月上旬をピークとして8月5日まで大きく調整していますが、その後は戻しています)。デクセリアルズは異方性導電膜(ACF)、光学弾性樹脂(SVR)、スパッタリング技術で製造された反射防止フィルムで世界トップクラスの機能性材料メーカーです。1962年にソニー(当時は東京通信工業)の電子部品の製造・販売会社として設立された「ソニーケミカル」を前身とし、ネジの代替部品として接着剤付き銅箔を開発するなど、一世を風靡したトランジスタラジオの小型軽量化に貢献した実力を持ちます。

現在も、スマートフォンやタブレット、車載機器などの高機能化や小型化、視認性の向上に寄与する製品を展開することで成長を続けています。主力の光学弾性樹脂(製品名「SVR」)は、視認性向上や高コントラスト化に加え、耐久性や耐衝撃性を上げる弾性特性によってパネルの薄型化に貢献することから、世界でもOCR(光学透明粘着材)市場で高いシェアを獲得。また、異方性導電膜(ACF)でも、1977年に業界で量産化に初めて成功し、現在でも世界トップシェアを誇る製品となっています。世界トップシェアとなっている製品を持っていること、市場成長が見込まれること、またキャッシュ創出力と健全財務、それに支えられた株主還元が期待できることなど、こちらも今回の株式分割を機に注目できる銘柄の1つと思います。

この他にも、今回は浜松ホトニクス(6965)、ソニーグループ(6758)、ニデック(6594)、TDK(6762)、ヤマハ(7951)など主力商品が世界でも高シェアを持つ銘柄が株式分割を行っているので、注目したいところです。

※日本取引所グループ(投資単位の引下げ/株式分割の仕組み・効果)https://www.jpx.co.jp/equities/listing/company-split/index.html