モトリーフール米国本社、2024年9月28日 投稿記事より
オマハの賢人として知られるバリュー投資家であるウォーレン・バフェット氏にとって、現在の市場でバリュー銘柄を見つけるのは難しい
バークシャー・ハサウェイ[BRK.B]のCEOを務めるウォーレン・バフェット氏ほど、ウォール街で注目されている投資家は、世界中どこを探してもいないでしょう。「オマハの賢人」と呼ばれるバフェット氏が発する一言一句に投資家が注目する理由は、同氏が過去60年近くにわたってS&P500種指数を大きくアウトパフォームしてきたからです。
1960年代半ばにバフェット氏がバークシャー・ハサウェイのCEOに就任して以降、同社のクラスA株の累積リターンは540万%を優に上回ります。これに対して同期間のS&P500種指数のリターンは、配当込みで約3万8,000%です。これでも十分に素晴らしいリターンですが、バフェット氏の投資手腕と比べたら足元にも及びません。
投資家は、バークシャー・ハサウェイが四半期ごとに米証券取引委員会(SEC)に提出するフォーム13F(株式保有報告書)を心待ちにしています。これは、運用資産残高が1億ドル以上の機関投資家や大口投資家が提出を義務付けられているもので、直近四半期にどの銘柄を売買したかが分かります。フォーム13Fを見れば、事後的にはなりますがバフェット氏の売買の動きを効率的に真似ることができるのです。
投資家が、フォーム13Fなどのバークシャー・ハサウェイがSECに提出する書類を見る主な目的は、どの銘柄を買うかのアイデアを得ることですが、バフェット氏のウォール街に対する明確な警告が、最近になって一段と大きくなっています。
ウォール街で最も楽観的な投資家の1人であるバフェット氏は、バンク・オブ・アメリカ[BAC]を複数回売却している
バークシャー・ハサウェイの株主に宛てた年次書簡に書かれたものであれ、年次株主総会での発言であれ、バフェット氏が投資界に向けて発するメッセージは一貫して前向きで、忍耐強くあるべき、という内容です。米国企業に逆張りするべきではないというのが同氏の持論であり、それこそが、同氏自身や同氏の同僚であるテッド・ウェシュラー氏やトッド・コームズ氏が空売りやプットオプションの購入をしない理由です。
とはいえ、バフェット氏の楽観論も盲目的なわけではありません。同氏は、景気サイクルが必ずしも一定の周期ではなく、米国経済は縮小期よりも拡大期の方が圧倒的に長いことを十分に認識しながらも、明確な価値を見いだせない場合や、明らかな割安感を感じられなければ、あえて株価の上昇を追うことはしません。
過去7四半期(2022年第4四半期~2024年第2四半期)にかけて、バフェット氏は総額1,316億ドル相当の株式を売り越しています。バークシャー・ハサウェイの2024年第3四半期のフォーム13FがSECに提出されるのは11月14日の予定ですが、SECのフォーム4(持ち株に重大な変更があった場合に提出)は、バークシャー・ハサウェイの売り越しが8四半期連続になる見通しであることを明らかに裏付けています。
9月24日に提出されたフォーム4によると、バークシャー・ハサウェイはバンク・オブ・アメリカ[BAC]の株式約2,156万株(約8億6,270万ドル相当)を売却しました。
しかし、バークシャー・ハサウェイにとって3番目に大きな保有銘柄であるバンク・オブ・アメリカ株の売却は、今回に限ったことではありません。バフェット氏は7月17日以降、バンク・オブ・アメリカの株式を33回にわたって売却しており、売却総額は約90億ドルに迫っています。一時はバンク・オブ・アメリカ株を10億3,000万株超保有していましたが、9月24日時点で保有株数は8億1,435万株まで減少しています。
バークシャー・ハサウェイが10週間の間にバンク・オブ・アメリカの持ち分を21%も減らした背景には、利益確定という単純な動機があるとみられます。バフェット氏は5月上旬のバークシャー・ハサウェイの年次株主総会で、将来的に法人税率が引き上げられる可能性があるとの見方を明らかにしました。そのため、莫大な含み益を今のうちに確保しておけば、数年後に後悔せずに済むというわけです。
しかし、バフェット氏が総額90億ドルものバンク・オブ・アメリカ株を売却した背景には、もっと深い理由があるかもしれません。
ウォール街が「カジノ的行動」を取る中、株式は極めて割高で魅力に欠ける
これから述べることの前提として、バフェット氏は明らかに長期的な楽観主義者であるということお伝えしておきます。同氏は、米国経済を強く信じており、ウォール街の強気相場が弱気相場よりもはるかに長く続くことを知っています。だからこそ、明確な競争優位性があり、長い実績のある企業の株価変動に常に目を光らせているのでしょう。
米国の経済と株式市場に対して長期的に揺るぎない楽観論を持っているバフェット氏ですが、バークシャー・ハサウェイの現金を短期的にどう使うかは、同氏の信条と必ずしも一致するとは限りません。バフェット氏自身が言うように、「価格は支払うもの、価値は手に入れるもの」です。
根っからのバリュー投資家であるバフェット氏は、株式にその価値以上の金額を支払うことはしません。自らの信念を固く信じ、感情に左右されるような出来事をきっかけに株価が下落して買いのチャンスが訪れるタイミングを待っています。
足元の株式市場は、史上でも稀に見る割高なバリュエーションとなっています。
「バリュー」を判断する基準はさまざまあり、結局のところバリューかどうかは主観的判断ですが、シラー株価収益率(PER)と呼ばれる尺度は、現在のS&P500種指数のバリュエーションがどれくらい割高かを示すのに特に優れた指標です。シラーPERはCAPEレシオ(景気循環調整後PER)とも呼ばれます。
シラーPERは、過去10年間のインフレ調整後平均利益に基づいて算出されるもので、9月24日の終値ベースで約37倍となっています。これは、1871年1月以降に出現した強気相場の中で3番目に高い水準であり、過去150年を超える平均値と比べて2倍以上です。
過去153年間で、強気相場の期間中にS&P500種指数のシラーPERが30倍を上回ったのは、現在を含めて6回しかありません。過去5回を見ると、S&P500種指数とダウ工業株30種平均はその後20~89%下落しています。音楽が止まるタイミングを正確に計ることはできませんが、過去の教訓は、株価のバリュエーションが永遠に高止まりすることはないことを示唆しています。
感情に駆られた投資もよくありません。バフェット氏はバークシャー・ハサウェイの株主に宛てた最新の年次書簡の中で、最近のウォール街に「カジノ的行動」が横行していると警鐘を鳴らしました。歴史的な低金利が何年も続き、情報へのアクセスが容易になったことも重なり、一部の個人投資家がボラティリティ(価格変動)を追い求めるようになっています。これは、自社株を大量に買い戻すという形で具現化しているバフェット氏の長期的な考え方と明らかに対立する動きです。
バフェット氏がいつまでも傍観しているわけではないでしょうが、投資先に価値を見いだそうとする姿勢が揺らぐことはありません。株価が変動して無視できないほど魅力的になるまで、バフェット氏はバンク・オブ・アメリカのような主要ポジションを縮小し続け、既に2,770億ドルを上回っているバークシャー・ハサウェイの保有現金は増え続けるでしょう。
免責事項と開示事項 記事は一般的な情報提供のみを目的としたものであり、投資家に対する投資アドバイスではありません。バンク・オブ・アメリカは、モトリーフールのグループ会社アセントの広告パートナーです。元記事の筆者Sean Williamsはバンク・オブ・アメリカの株式を保有しています。モトリーフール米国本社は、バンク・オブ・アメリカ、バークシャー・ハサウェイの株式を保有し、推奨しています。モトリーフールは情報開示方針を定めています。