モトリーフール米国本社、2024年8月20日 投稿記事より

ハイテクセクターが減速している理由と今後の投資への影響とは

ハイテクセクターの株価が大幅に変動することは珍しくありません。また、必ずしも投資家にとって良い方向に動くとは限りません。

ウォール街はここ数週間に大きな打撃を受けており、S&P500種指数は7月16日から8月5日にかけて8.5%下落しました。同期間に、ハイテク株の比重が高いナスダック100指数は12.3%も下落しています。ハイテクセクターに特化した上場投資信託(ETF)のバンガード米国情報技術セクターETF[VGT]は14.8%の下落を記録しました。

今回の株価急落は、いくつかの大手企業が主導しています。例えば、人工知能(AI)向け半導体を手掛けるエヌビディア[NVDA]の株価は上記の3週間に20.5%下落、AIシステムを構築するスーパー・マイクロ・コンピューター[SMCI]は30.6%下落、半導体の老舗企業であるインテル[INTC]は41.4%の下落に見舞われています。

現在、市場全体は劇的な落ち込みから回復しつつありますが、ハイテクセクターは依然として市場から後れを取っています。ハイテクセクターの株価が急落した背景にある要因と、それが投資家にとって何を意味するのか見てみましょう。

強弱混在の決算発表

2024年に入って3回目の決算発表シーズンはすでに終盤を迎えていますが、ハイテク投資家にとって必ずしも喜ばしい内容ではありませんでした。市場トレンドを牽引するハイテク銘柄の多くが期待外れの決算、または2024年下半期に対して控え目なガイダンスを発表し、それらが株価下落のきっかけとなりました。

決算発表を受けて株価が下落した例がスーパー・マイクロとインテルです。両社ともウォール街のコンセンサス予想利益を下回り、今後についても厳しい見通しを発表しました。インテルは同時に、100億ドルのコスト削減案と配当の停止を発表しました。

経営陣のコメントから、何が起こっているのかを垣間見ることができます。

・インテルのパット・ゲルシンガーCEOは景気の減速について触れ、「下半期のトレンドは以前に予想していたよりもさらに厳しいものになっている」と述べました。

・スーパー・マイクロ・コンピューターのチャールズ・リャンCEOは、「工場への長期投資が利益の足かせになっていると指摘したものの、短期的なマージン圧力は緩和され、2025年度(9月期)中に通常のレンジに戻る見通しである」との見方を示しました。

・半導体企業アーム・ホールディングス[ARM]のジェイソン・チャイルドCFO(最高財務責任者)は、通期の売上高と利益率に関して軟調なガイダンスを示し、「産業用のモノのインターネット(IoT)市場とネットワーキング市場における在庫問題が、当初想定していたよりも根強いようだ」との見解を明らかにしました。言い換えると、ここ数四半期の好調により、製品パイプラインや倉庫に在庫が積み上がっているということです。

・デジタル広告プラットフォームを展開するトレード・デスク[TTD]のジェフ・グリーンCEOは決算発表で、顧客企業が「多くの不確実性に直面している」と述べました。企業の業績は好調ですが、家計は財布の紐をきつく締めており、マーケティング・メッセージの効果は低下しています。グリーンCEOは、「このことは、価格設定、パッケージ、広告などを含めて、企業がどのように商品を売り出すかに大きな影響を与える」と指摘しました。

これらの発言には、いくつかの共通点があります。これらが指し示しているのが次の項目です。

景気減速

インフレ危機は収束に向かい、米連邦準備制度理事会(FRB)は9月に利下げを予定しており、経済全体は立ち直りつつあります。

しかし、経済危機はまだ終わっておらず、投資家が神経質に反応する余地は残っています。利下げが先送りされる可能性が示唆されるたびに、市場では落ち込みが見られます。日本の金利がわずかに引き上げられたことで、世界中の市場が弱気に反応しました。さらに、前述のように企業のトップが示す見解や懸念も加えると、足元の強気相場も心もとないように感じられます。

これは、飛ぶ鳥を落とす勢いの市場リーダー企業にとっては悪材料です。新進気鋭の未来のイノベーターにとっても、資金調達や株式公開を行うのに良いタイミングではありません。その結果、既存のリーダー企業も小規模なスタートアップ企業も、市場評価額が低下しています。

AIブームの停滞で投資家は忍耐を失いつつある

当然ながら、株価が急落した銘柄の中にはAI技術の主要企業も多く含まれています。エヌビディアだけで、最近の株価下落によって6,370億ドルの時価総額が失われました。同社は7月の決算発表を行っておらず、2024年5~7月期の決算は8月28日に発表される予定です。投資家は、同業他社から学んだ教訓をエヌビディアの状況に当てはめているようです。

もしかしたら、マーケットメーカーは初期のAIブームに熱狂し過ぎたのかもしれません。確かに、生成AIは画期的技術ですが、宙ぶらりんになっている疑問点がいくつかあります。

・AI革命はいつになったら、AIセクターの業績に持続的変化をもたらすのでしょうか。ハードウェア分野におけるエヌビディアの初期のリードも、他の半導体企業が同水準のハードウェアを低コストで、あるいは消費電力や冷却面でより効率的なソリューションを開発するにつれて薄れていく可能性があります。

・オープンAIのChatGPTは、現時点では大規模言語モデル(LLM)において最高のソリューションですが、いずれ別のエンジンがその座を奪う可能性があります。

・多くの企業リーダーが、生成AIによって業界が様変わりする可能性について案じていますが、今のところその力を裏付ける実例は多くありません。

これらの懸念の一部は実現しないかもしれませんし、猛烈なスピードで進むAI技術革新の中のちょっとした小休止にとどまる可能性もあります。しかし、株式市場では、認識はすぐに現実のものとなり、どの投資家も、現在と将来の状況について不完全な情報に基づいて動いています。

利益を確定するタイミングなのか

最近の株価下落にもかかわらず、市場を牽引するAI銘柄は依然として高値にあります。一時的なパニックで安値を付けた8月5日時点でさえ、エヌビディアとスーパー・マイクロ・コンピューターの株価は依然として年初来で100%超上昇、アーム・ホールディングスも47%上昇となっています。

不安に駆られた投資家が、このような状況下で利益を確定したことを責めることはできません。結果的に、株価が下落した銘柄の値ごろ感が増し、強気のAI投資家の新たな波を呼び込んでいます。こうしてビートは続いていくのです。

結局のところ、最近のハイテク株の下落は、よくある市場のノイズにすぎません。日和見的な投資家は、このような一時的な買いのチャンスに目を光らせておく必要があります。ただし、実際に起きてみないと分かりませんが、次の株価下落が長期化する可能性もあります。

それまでは、現在の市場を冷静に見て、自らの長期目標に合わせてポートフォリオを調整するのが最善です。個人的には、ハードウェア分野におけるエヌビディアの支配力には若干の不安があり、インテルとトレード・デスクは過小評価されているように感じます。判断は投資家によってさまざまですが、ぜひ次の銘柄選択の参考にしてください。

免責事項と開示事項  記事は一般的な情報提供のみを目的としたものであり、投資家に対する投資アドバイスではありません。元記事の筆者Anders Bylundは、インテル、エヌビディア、トレード・デスクの株式、およびバンガード米国情報技術セクターETFを保有しています。モトリーフール米国本社は、エヌビディア、トレード・デスクの株式を保有し、推奨しています。モトリーフール米国本社は、インテルの株式、および以下のオプションを推奨しています。インテルの2025年1月満期の45ドルコールのロング、同2024年8月満期の35ドルコールのショート。モトリーフールは情報開示方針を定めています。