先週(7月29日週)の動き:NY金2,500ドル突破で最高値更新も上げ幅削る。米ドル安円高が加速している中で、国内金価格は週足プラスを維持した
先週、米景気の後退懸念を強める経済指標の発表が続き、米長期金利は急低下となった。これに伴い、ニューヨーク市場の金先物価格(NY金)は、買いを集め、最高値を更新した。7月30~31日に開かれた米連邦公開市場委員会(FOMC)の記者会見で米連邦準備制度理事会(FRB)パウエル議長が、このところ一連の指標を受け「9月会合で利下げが選択肢になり得る」と述べたことも伏線となり、週後半の8月1日と2日は連日で2,500ドルを超える取引時間中の最高値を更新した。
また7月31日新大統領就任式出席のためイランを訪問していたイスラム組織ハマスの最高指導者ハニヤ氏が、イスラエルと見られる攻撃によりテヘランで死亡した。ハマスを支援するイランの最高指導者ハメネイ師は報復を宣言するなど中東情勢の緊迫化も金市場を刺激した。
8月2日には前日から続く世界的な株安で投資家のリスク回避姿勢が強まっていたところに、発表された米雇用統計が予想外の減速となったことが、NY金先物価格の押し上げ要因となった。ただし一方で、利益捻出の対象にもなり上下動が大きくなった。
米景気の先行き懸念が急激に高まり、利下げ観測は9月実施のみならず利下げ幅の拡大観測まで浮上し、安全資産とされる金市場に資金が流入した。一時は2,252.50ドルまで付け高値を更新。しかし、終盤には急速に上げ幅を削りマイナス圏に落ちる荒れた展開となった。米国株式市場が大幅下落になり、そのポジションを整理するにあたり損金処理の益出し売りの対象に利益が出ているゴールドが売られたのだった。
結局、8月2日のNY金は前日比11.00ドル安の2469.80ドルで終了し、週足は前週末比88.80ドル、3.72%高の大幅反発となった。レンジは2367.30~2522.50ドルと、2385~2435ドルとした想定レンジの上値を大きく上回った。ただし、ニューヨーク商品取引所では先週取引の中心が8月物から12月物に移行した(限月交代)があったことに伴い、12月物の価格は4ヶ月分の金利を加味したプレミアムを含む価格となることから、8月ものに比べ50ドル近く高くなっている。このプレミアムは、決済期限である12月に向けた時間の経過とともに縮小、最終的には消滅する。
一方、円建て国内金価格は、前週から続く円売りポジション解消の動きに拍車がかかり、米ドル安円高がさらに加速し、ドル建て金価格の上昇分を円高が相殺する形となった。それでもドル建て価格の反発が前述のように最高値更新に至ったことから、1万1700~1万1900円台の水準で売り買い交錯状態が続いた。8月2日の大阪取引所の先物価格(JPX金)の終値は1万1862円となり、週足は前週末比117円、1%の反発となった。レンジは1万1705~1万1995円となったが、これは想定レンジ1万1750~1万2000円に沿ったものとなった。
世界の第2四半期の金需給、中銀の買い継続、中国需要に陰り
7月30日に、金の国際調査機関ワールド・ゴールド・カウンシル(略称WGC、本部ロンドン)が第2四半期の世界の金需要統計を発表した。
最高値を更新した期ゆえにジュエリー需要が前年同期比で19%減の391トンにとどまるなど、価格高騰の影響が出た。一方で地金、コインの現物投資需要は欧米での需要減少はあったものの中国はじめアジアの買いがカバーし5%減の261トンだった。欧米勢が過去8四半期(2年)売り続けていたETFは減少がほぼ止まったものの7.2トン減と、9四半期連続の残高減となった。ただし、月次で見ると、5、6月はわずかに流入に転じている。FRBによる9月利下げがほぼ決まる中で、欧米勢によるETFの買いが復活するか注目される。
注目の中央銀行セクターは、184トン増と前年同期比9%増とはなったものの、前期は上方修正され299トンだったので前期比では39%減と大きくスローダウンということになったが、上半期483トンの規模は従来感覚では大規模といえるものだ。過去2年が下半期に買いが増え、連続で年間1000トンを超えているだけに、7~9月期の前年比のバーは高い。WGCは2024年も相応の規模にはなるものの、前年と同規模程度、あるいは上回れるかというと現時点では注視するのみとしている。
なお、第一四半期に買いが急増し価格押し上げの立役者となった中国だが価格急騰に加え景気も陰りジュエリー需要中心に落ち込みが予見される一方で、投資需要がどこまでカバーできたのかどうかが注目されていた。第2四半期の中国のジュエリー需要は前年同期比35%減の86トン。投資需要は28%増の80トンだった。
中国需要の低下は、対ロンドン現物価格に対する中国国内価格(上海現物価格)のプレミアムの縮小、さらに7月以降はプレミアム消滅からディスカウント入りにより示唆されていた。価格高騰の4、5月に中国需要の減速が伝えられていたが、今回の発表でジュエリー部門が中心だったことが判明した。
今週(8月5日週)の見通し:株式ポジション解消に伴う売りは一巡か、国内金価格はドル安の下値見えず不安定
金価格見通しに影響を与える世界的な株安動向
先週の動きで触れたように、NY金は2500ドルを上回る最高値更新を見たものの、その後は利益確定売りに上げ幅を失った。株式市場が大幅下落になった際に、そのポジションを解消するにあたり損金処理の益出し売りの対象に利益が出ているゴールドが売られることは、過去何度も起きてきた。必要な投資家が必要量を売却すれば、それで終わり、反転というのがパターンと言える。このような時のためにゴールドのポジション(ヘッジポジション)を持っている投資家も多く、まさに「備えの金」と言えるもの。
この点で今週も世界的な株安の流れがどうなるかということも、金価格の見通しには影響を及ぼす。8月2日に米商品先物取引委員会(CFTC)が発表した7月30日時点でのCTA(商品投資顧問)など短期筋のポジションは、前週比29トンほど減少していた。その後の価格推移からさらに減少しているとみられることから、株安処理の売りは一巡しつつあると見る。むしろクレジット市場への影響を懸念しFRBが緊急利下げに踏み切る可能性もあり得ることから、NY金は買い優勢に転じる可能性もありそうだ。
今週は米国関連で主要な経済指標の発表予定はなく、5日(月)のサンフランシスコ連銀デイリー総裁の発言に注目している。6月時点から雇用に対する懸念を口にしており、7月雇用統計の結果を受けた発言がどう変わるか。なお、同総裁はFRB執行部に近く、2024年のFOMC投票権を有している。
今週の予想レンジ:NY金2,440~2,530ドル、国内金価格1万1100~1万1860円
NY金は、高値更新を含むものの引き続き値動きは大きくなると見て2440~2530ドル、国内金価格は円高の進展というよりも、ドル高バブルの崩壊過程との観点から1万1100~1万1860円を想定する。想定レンジ上限は先週末の夜間取引の高値であり、それを上回ることは考えにくく、下値をどこまで読むかによる。