前回の記事「タイミー上場など有力会社の株式保有者に再注目」では、帝人(3401)が「めちゃコミック」運営のインフォコム(4348)を保有しており、当該銘柄を売却した話や、新しく上場する隙間バイトアプリで有名なタイミー(215A)に様々な会社が株式を保有していることなど、上場会社の株式保有に注目して解説しました。

帝人(3401)株をアクティビストが注目

その記事で取り上げたように、帝人はインフォコムの売却で1344億円の売却金額を得ます。前回記事執筆時点の帝人の時価総額は2750億円であり、1344億円の売却金額には大きなインパクトがあるとしていました。その後、7月19日に帝人株をアクティビストで著名なエフィッシモが買っていることが判明しました。同日の大量保有報告書によれば、エフィッシモは帝人株の6.03%を保有しているとのことです。

このニュースを受け、下落基調だった帝人株は翌営業日の7月22日に55円高の1,430.5円と大きく買われ、7月29日時点でも1,449.5円とさらに高い水準になっています。もともと、帝人のPBRは0.6倍程度と1倍を大きく割っており、そこにインフォコム株売却代金も入ってくるので、株主還元など妙味が大きいと見たのでしょう。アクティビストのオアシスも同社株をもともと保有しており、こちらはインフォコム保有を見ての投資だったと思われますが、いずれにせよアクティビストが注目を集めていることは間違いなさそうです。

村上世彰氏の長女らが平和不動産(8803)株取得など注目の不動産関連ニュース

また、村上ファンドで有名な村上世彰氏の長女らが平和不動産(8803)株を取得したことが、7月29日に発表され、こちらも注目を集めています。証券取引所の大家さんとして著名な平和不動産ですが、全国に優良な不動産を有しており、古い物件も多いことから再開発にも力を入れています。三菱地所(8802)が筆頭株主となるなど、安定株主もいますが、強力な親会社もおらず保有物件には注目ができるということでしょう。

さらに、7月29日のニュースで興味深かったものとして、カラオケ事業を展開する第一興商(7458)が東京都品川区の土地を売却するというものがありました。その土地は東五反田に位置し、山手線の大崎駅・五反田駅からいずれも徒歩圏、近くにはスーパーやコンビニも点在し、一言でいうと好立地です。

第一興商は近年駐車場事業に力を入れていますが、あえてその駐車場用地を売却したというのです。売却相手は三井不動産レジデンシャルです。常識的に考えると、この地にマンションを建設しようというのでしょう。売却金額は85億円と発表されており、第一興商の簿価が約41億円だったので、第一興商には約44億円程度の利益が出るということです。

都心部のマンション価格は値上がりが続いており、山手線内の好立地であれば、簿価の倍の値段でもビジネスになりうるということなのでしょう。この売却された土地と同じ丁目に、より駅が近い立地で、同じ三井不動産が分譲したマンションがあります。そのマンションの中古物件は80平米弱で実に約1.7億円で売りに出されています。こちらは築20年以上で、新築だといくらになることか。いずれにせよ、マンション価格が上がる中、このような駐車場になっていた土地も開発する余地が増えているということです。

平和不動産株への投資もこのような不動産価格自体の上昇が背景にあるのでしょう。平和不動産の保有している土地は、マンション用地とするとまさに超一等地ばかりですから、そういう目線でも評価ができるということかも知れません。

実際、工場跡地などがマンション用地などのために売却される例も少なくありません。直近の発表でもナカヨ(6715)が群馬県前橋市の野球グラウンド・駐車場を売却し、3億円の譲渡益、丸八倉庫(9313)が東京都渋谷区の商業ビルを売却して7億円の譲渡益が出るなどしています。いずれも、会社の利益規模から見ると大きな水準の利益です。

投資家サイドには分かりにくい不動産保有情報

一方、投資家サイドからすると、これらの不動産の保有情報はよく分からないというのが難しいところです。たとえば、第一興商の直近の有価証券報告書を見ると、財務諸表上には総資産2100億円あまりのうち、土地が400億円強あることが分かります。しかし、具体的にどういう土地を保有しているかはほとんど分からないのです。

不動産保有の大きくない会社であれば、主要な設備の状況で具体的な内容や土地を保有しているかなども分かるのですが、第一興商の場合はたとえば、第一興商自身の保有する設備としてカラオケルーム及び飲食店舗(419店)の土地が帳簿上202億円、面積で4000平米ということしか分からず、優良物件なのかどうかもなかなか分からないというのが正直なところです。

具体的な株式保有情報は投資判断に活かしやすい

それに対し、前回の記事で取り上げた株式保有はより具体的な情報が出ており、投資判断に活かせそうです。たとえば、本連載でもよく取りあげているTBSホールディングス(9401)の有価証券報告書を見てみましょう。こちらには特定投資株式、すなわち純投資以外の株式保有が開示されています。マンション価格同様に日本株も上下動を伴いながらも大きく上昇しており、改めて日本株保有にも注目したいところです。

【図表1】TBSホールディングスの特定投資株式保有状況
出所:TBSホールディングス有価証券報告書

TBSホールディングス(9401)の東京エレクトロン(8035)株保有効果

こちらを見ると、TBSが東京エレクトロン(8035)株を2024年3月末時点で約6000億円保有していることが分かります。ご存知の通り、東京エレクトロンは大きく値上がりしており、2023年3月末時点の約2600億円から1年で倍近い値段になっています。TBSはこの年度で投資有価証券の売却益で約350億円を計上しており、その大きな部分は東京エレクトロン株ですが、その利益を上げつつもこれだけ価値が上がっているということです。TBSの株価は2023年度大きく上昇しており、時価総額は倍増、約7,000億円になっていますが、東京エレクトロンの価値の上昇がそれに匹敵しているような状況です。

過去に取り上げた地銀の動向にも注目

このような具体的な保有状況が分かるのが、株式保有状況の良いところです。過去にも以下のように注目できる株式保有のある会社を紹介しています。

「時価総額ランキングに変化!保有株式の価値が大きな企業を見分ける方法とは」(2021年11月19日付け)

「大きく変わった時価総額上位企業!その株式を保有している企業は?」(2021年11月16日付け)

「今年大きく時価総額を増やした株式を保有している会社は?」(2020年12月18年付け)

いずれもやや古い記事ではあるものの、保有状況などで大きな変化はありません。3つ目の記事では地銀の保有銘柄に注目しています。その後、地銀も保有株の縮減圧力などもあり、株価が大きく上昇しています。記事で取り上げている八十二銀行(8359)は当時の時価総額が2000億円弱だったところ、現在は5000億円を超えています。当時、八十二銀行は信越化学工業(4063)株を約2000億円保有している、としていましたが、まだ売却をしておらず、2024年3月末時点の評価額(以下の評価額はいずれも同時点)は4000億円弱になっています。

上記のように八十二銀行の時価総額が上がってはいるものの、その大部分が信越化学工業株で説明がつくとさえ言えるのです。北洋銀行(8524)(時価総額約1900億円)のニトリホールディングス(9843)持ち分約900億円、いよぎんホールディングス(5830)(時価総額約4500億円)のユニ・チャーム(8113)持ち分約740億円など、地銀でも引き続き注目されます。

保有先の株価上昇で注目度が増している会社は? 

その他で、保有先の株価上昇などで注目度が増している会社はあるでしょうか?安田倉庫(9324)(時価総額約480億円)のヒューリック(3003)持ち分約450億円は大きな水準です。錢高組(1811)(時価総額約300億円)は三菱UFJフィナンシャル・グループ(8306)を約68億円、アサヒグループホールディングス(2502)を約62億円、東京瓦斯(9531)を約47億円、住友商事(8053)を約44億円、ニチレイ(2871)を約44億円など保有しており、有価証券評価差額金は2023年3月末の約230億円が2024年3月末には約350億円ほど増加しています。錢高組はさながら日本株ファンドのようです。

食品業界は持ち合いも多く、名糖産業(2207)(時価総額約350億円)はキッコーマン(2801)を約62億円、東邦瓦斯(9533)を約41億円、三菱UFJフィナンシャル・グループ(8306)を約35億円保有している他、不二製油グループ本社(2607)、高砂香料工業(4914)、ヤクルト本社(2267)など幅広く株式を保有しています。

これらはいずれも上記のように有価証券報告書から確認できる情報で、個別銘柄の検討の際に参考にすると良いのではないでしょうか。一方、本連載でも今回のように株や不動産など一種の含み資産について触れることが多く、アクティビストの動きもそれらをターゲットとしていることが多いようなのはやや残念な感もあります。直接に本業部分でもその会社の隠れた価値を引き出す動きが進めば、よりアクティビストへの理解は高まりそうです。