米企業のロビー活動への支出は実質「青天井」
米国第47代大統領となったトランプ氏の大統領就任式には、テスラ[TSLA]創業者のイーロン・マスク氏、アマゾン・ドットコム[AMZN](以下アマゾン)創業者のジェフ・ベゾス氏ら世界のテクノロジー企業のトップらの姿があった。マスク氏、ベゾス氏の両者は、ブルームバーグ通信の世界長者番付「ビリオネアインデックス」で上位に入っており、ロビー活動への支出でトランプ氏の大統領選の勝利に大きく寄与したとされている。
ロビー活動に関する議論が最も盛んな米国では、自社の収益性や競争力に影響を与えうる政策決定に企業が強い関心を持つ。米国の主要企業はこれまでロビー活動のためにスーパーPAC(個人や企業、団体からの献金額に上限はないが候補者自身を支援することができない政治団体)等多額の資金を投じてきた。大統領の就任式は企業の政治関与が可視化される機会とも言える。
この流れを加速した要因の1つは、2010年1月に下された米国最高裁の「シチズンズ・ユナイテッド判決」だ。本判例は保守系の政治団体シチズンズ・ユナイテッドによるテレビCM(ヒラリー・クリントン氏を批判する内容)について、選挙管理委員会がそれを差し止めたところ、シチズンズ・ユナイテッド側が「表現の自由」に制約がかかったと訴えたものだ。
米国最高裁は最終的に政治資金への制限は表現の自由を制約すると判断し、企業献金を制限する過去の法律に違憲判決を下した。本判決を受け、米国では企業・団体からの政治資金の提供が実質青天井となった(ただし、企業からの主な政治資金の対象はスーパーPACに限定されるため相手候補を貶す内容の広告が多い)との指摘もある。
この判決以来、米国企業のロビー活動は投資家の懸念事項にもなっている。企業の支出について透明性が担保されているか、企業価値向上のための戦略との整合性が取れているかといった懸念が出ているからだ。また、企業の政治支出の影響力が増大することで民主主義の原則を損なうため、民主主義と企業統治に広範な影響を及ぼしているとの指摘もある。
それでは、実際に経営トップが大統領就任式に出席したアマゾンやテスラを例に、投資家らが具体的にどのような働きかけを行っているのか整理したい。
アマゾン・ドットコム[AMZN]、企業のモットーが株主に問われる
まずはアマゾンの事例から。2024年に同社が直面した株主提案の代表的事例は、米国ミシガン州に拠点を置く教会系ファンドThe Province of St. Joseph of the Capuchin Order Corporate Responsibility Officeから提出された議案だ。その内容は、同社のロビー活動に関する詳細の開示を求めるもの。
米国に拠点を置く300を超える機関投資家による団体Interfaith Center on Corporate Responsibility(ICCR)がまとめた資料によると、アマゾンは2015年から2022年にかけて、連邦ロビー活動に1億2182万ドルを費やしたといい、その額の多さから同社のロビー活動に関する投資家の高い関心がうかがえる。
ICCRは同社の開示が不十分であることを踏まえ、ロビー活動の内容が会社の公式見解と矛盾する場合、レピュテーションリスクをもたらすとし、アマゾンは「地球上で最も優れた雇用主」となることを目指しているが、労働者の団結権に反対するロビー活動を行っているとの見解を示した。同議案は好水準と言える29.51%の株主の賛同を得た。
テスラ[TSLA]、投資家の働きかけに対し反発姿勢
2024年の米大統領選挙で、トランプ陣営に2億3,900万ドルを寄付したイーロン・マスク氏。「政府効率化省(DOGE)」による官僚機構の締め付けを皮切りに、トランプ陣営におけるマスク氏の存在は日々存在感を増している。
このような特定の経営者が政権中枢と距離を縮めていることに危機感を強めたのか、米国シアトルに拠点を置くESGファンドのNewground Social Investment (NSI)は、テスラに対して同社の政治献金の透明性に関する報告書作成を求める株主提案を提出した。
NSIは、企業の政治献金の透明性を評価する指標として知られるCPA-Zicklin Indexで、テスラが0.0%と評価されたことから、ボーイング[BA]、ペイパル・ホールディングス[PYPL]、RTX[RTX]等の主要企業が政治献金の透明性を確保するための開示を行っていることにテスラも倣うべきとした。そして、テスラの資金がどの政党・政治団体に流れているかを公開することで、投資家が企業の方針と整合性を確認できるようにすべきとの考えをまとめている。
テスラはこの提案に大きく反発した。2025年1月、同社はSEC(米証券取引委員会)に対し、株主提案のトピックには適さないことや、報告書の要求が過度に詳細かつ頻繁すぎることを理由に、この株主提案の排除を求める申請を提出している。
企業と政権の関係「取引的になる」可能性も
第1次トランプ政権下の2020年には、1年以上当該企業の株式を2,000ドル相当または1%保有する株主であれば、誰でも株主提案を提出することができる現行の仕組みを変更し、基準額を25,000ドルに引き上げようとする動きがあった。トランプ氏がパリ気候協定からの離脱を表明したことや米国で多様性の推進に逆風が吹いていること、SECが企業への株主提案を除外しやすくなる指針を掲げたことから、投資家の監視ムードが退潮する可能性もある。
それでも米国企業とトランプ新政権との距離の取り方について懸念する声は根強い。企業の政治支出に関する透明性に詳しい政治的説明責任センター(Center for Political Accountability)代表のブルース・フリード氏は「(企業もトランプ氏への寄付を通じて)トランプとの関係が取引的なものになることを理解しています」と述べている。
日本でも2023年にトヨタ自動車に対してロビー活動に関する株主提案が提出された。続く2024年にはトヨタ、日本製鉄に対して同テーマの議案が出され、近年は日本でも企業のロビー活動に関する投資家の働きかけは、親しみやすいテーマになった。特定の有力企業が政策形成プロセスに影響力を行使するのは万国共通だが、同時に、投資家が企業に透明性を求める投資家の働きかけは日本でも定着する可能性が高い。