前回の記事では時価総額5000億円の凸版印刷(7911)が保有するリクルートホールディングス(6098)株式の評価額が3000億円に達していることや、凸版印刷の時価総額がここ数年で8000億円から5000億円に減少する一方、保有するリクルート株の評価額が1000億円から3000億円に拡大したことをご紹介しました。

時価総額と保有株式の評価額の変化によって、リクルート株を除いた凸版印刷の価値は8000億円-1000億円=7000億円から、5000億円-3000億円=2000億円に減少しているということです。

もちろん、リクルート株を売却する場合は売却益が発生し、それに対する税金が発生するので、評価額それ自体が会社の価値とは言えません。また、多くの株式を売却する場合はその分ディスカウントも発生しえます。ですが、基本的に保有株式の評価額が上がることは保有している会社にとっていいことです。事実、優良株を保有していることで群を抜いているソフトバンクグループ(9984)は保有株の上場などで、その株価が大きく上昇します。

優良資産を保有している会社はアクティビストのターゲットになりやすい

そして、このような優良資産を保有している会社は株主の圧力を受けやすい傾向があります。これまで取り上げたアクティビストの動きでは、優良不動産を保有している会社に対する動きが多く見られました。これは、アクティビストにとって不動産という資産が分かりやすい資産であることの表れと言えます。

事業会社の本業は通常複雑です。ビジネス・収益の継続性はもちろん、その事業をどうすれば改善できるか、その事業を売却すればいくらになるのか、そもそも買い手がつくのか、いずれも簡単な話ではなさそうです。

一方、不動産はその収益は比較的安定しており、見通しがつきやすいものです。活用方法も比較的分かりやすく、売却先を探すのもそれほど難しくはなさそうです。映画館運営会社が代表的ですが、繊維業やメディア産業など、もともと有していた不動産が収益の柱になっている会社は多数あります。また、業績のぶれやすい海運業でも不動産事業を安定収益として事業の柱にしている会社も少なくありません。

このような観点で、優良株式は優良不動産と似たようなところがあります。株式は常にマーケットで売買されているので、その価値は明確です。今回、凸版のリクルート株は他社のものと合わせ海外勢が買う見通しですが、優良な株であれば処分先も多そうです。そういった意味で、優良株式を保有している会社もアクティビストのターゲットになりやすいと考えられます。異なる視点も入りますが、親会社・子会社の価値が逆転している場合も、そのような例に挙がりそうです。

今年大きく時価総額を増やした株式を保有している会社

前回の記事でも触れましたが、2020年は株価の二極化が進んでおり、凸版・リクルートのように保有している会社と保有先の株価の動きに極端な違いが出る例が多く見られます。リクルートのような、優良株を保有している会社の例をいくつか見ていきましょう。

まず、2020年に大きく注目を集めた任天堂(7974)です。任天堂の時価総額は約8兆円で2019年末から2.4兆円程度、その価値を上げています。同社の株式を多く保有する上場会社は京都銀行(8369)で、その時価総額は4000億円程度です。同社は評価額で3000億円相当の任天堂株を保有しており、その価値は2019年末から900億円近く上がっています。一方、京都銀行の時価総額は600億円弱しか上がっていません。

【図表1】任天堂(青)と京都銀行(赤)の株価推移
出所:マネックス証券

同様に地方銀行で優良株式を保有している例としては、八十二銀行(8359)が信越化学工業(4063)の株式を保有していることが挙げられるでしょう。信越化学は時価総額が7兆円を超え、2019年末から2兆円以上増加しています。八十二銀行は信越化学株を約2000億円保有しており、同期間に600億円近く価値が上がっています。一方、八十二銀行自体の時価総額は2000億円弱にとどまっており、2020年600億円近く時価総額を下げています。

【図表2】信越化学工業(青)と八十二銀行(赤)の株価推移
出所:マネックス証券

もちろん、京都銀行も、八十二銀行も、銀行であるだけに総資産も大きく、これらの銀行が優良株式を保有している割合は限定的です(京都銀行はいわゆる京都銘柄の優良株式を多く保有していますが・・・)。ただ、八十二銀行の配当利回りは3%半ばであり、このような優良株式を保有しているのは他の地方銀行と異なる点であり、比較検討の材料になりそうです。

オリエンタルランド(4661)(以下、OLC)は時価総額6.6兆円で、2020年の大逆風にも関わらず、1兆円以上時価総額を伸ばしました。同社の20%近い株式を保有する京成電鉄(9009)は苦しい1年で、時価総額は850億円の減少となっています。しかし、京成電鉄が保有するOLC株の評価額は2000億円以上増加しており、時価総額6000億円半ばの京成電鉄のOLC株評価額は1.3兆円を超えています。

TBSホールディングス(9401)が保有している東京エレクトロン(8035)(以下、東エレ)株も注目でしょう。半導体市況の好調を受け、東エレの時価総額は4兆円弱から6兆円弱となり、約2兆円増加しました。同社の4%弱の株式を保有するTBSの保有株式時価も800億円増加しています。一方、TBSの時価総額は2020年200億円程度増加したのみでした。TBSの時価総額は3500億円ほどで、東エレの持ち株だけで2000億円です。TBSは優良不動産も保有している財務優良会社ですので、引き続き注目できるように思います。