永谷園ホールディングス(2899)が上場廃止に向けて公開買付け

2024年6月3日、永谷園ホールディングス(2899)が経営陣による公開買付を発表しました。この公開買付は全株を買収し、上場廃止することを目的としたもので、経営陣による買収、MBOです。永谷園ホールディングスの上場は1976年12月。歴史ある知名度の高い会社が株式市場を去るということで、なかなかシンボリックなニュースだったように思います。

永谷園はもともと三菱商事(8058)が10%強の株式を保有しており、合わせて永谷園の創業家が大株主と並んでいます。今回のMBOは経営陣である創業家が三菱商事系の投資ファンドと組んで行う形で、現在の保有者が非上場化を図る形になります。これにより、意思決定を迅速にして成長を促すといったことが目標とされていますが、もともとPBRが1倍を割れていたこともあり、株式市場からのプレッシャーを避けることを意図する面もあったように思われます。

永谷園は名門企業ですが、実は比較的成長もしており、2024年3月期の売上高は過去最高の売上高・営業利益を達成。10年平均で売上高・営業利益・経常利益ともに4%台の安定的な成長をしています。このように業績もよく、一方でPBRが1倍を割るなど株式市場の評価が低い会社の公開買付などは今後も続いていくでしょう。

永谷園が「ビアードパパ」を買収した背景

そして、最近Xなどで話題になっていたのは永谷園がシュークリームの「ビアードパパ」を子会社としていることです。お茶漬け、お味噌汁など日本の伝統的な食品を主に量販店販路に提供している永谷園が、どちらかと言えばハイカラなシュークリームのようなものをショップ型で展開していることに、多くの人は驚いたと思われます。もっとも永谷園は70周年記念サイトでも「永谷園革命」としており、実際、即席食品においてはチャレンジングな会社だったので、そういう評価は不本意かも知れませんが。

話題性もそうですが、「ビアードパパ」は永谷園の業績でも見逃せない存在感になっています。永谷園がビアードパパを運営している麦の穂ホールディングスを買収したのは2013年、すでに10年を超えています。その時点(買収完了後の期である2015年3月期)で永谷園の食料品の利益は26億円、ビアードパパを中心とした中食の利益は2.5億円でした。それが直近では、食料品(国内・海外での合算)は68億円で、中食は9億円と割合が高まってきています。

永谷園は2016年には海外のフリーズドライの会社を買収し、海外展開に力を入れています。「ビアードパパ」もグローバル展開を図っているということもあり、国内市場の縮小が見込まれる中で海外でも稼げるブランドがあることも買収の後押しになったと考えられます。

このように意外な子会社に注目することは面白いように思います。永谷園自体も三菱商事が出資しており、三菱商事がローソン(2651)など投資先の再編を進めていることも投資アイディアを考える上では面白いでしょう。過去の記事「食品ブランドで今後再編が見込まれそうな銘柄は?」では食品業界での資本関係を取り上げましたが、今回の永谷園以外にも商社が食品会社に投資していることがよく分かります。

株式売却と上場、話題を集めた2つのニュース

帝人(3401)が子会社のインフォコム(4348)を売却

さて、同じように株式保有が注目されるニュースが他にもありました。1つは帝人(3401)が子会社のインフォコム(4348)を売却するというニュースです。インフォコムは運営している「めちゃコミック」が大きく成長しており、株価も大きく上がっていました。今回、投資ファンドが買収を目指すこともあり、公開買付価格を前提に時価総額は3500億円近くなっています。帝人の時価総額が2750億円なのでそれを超える水準ということです。帝人は同社株の55%を握っており、今回全株を売却することで売却金額は1344億円になるということです。帝人の時価総額を考えると大きなインパクトがあります。

タイミーの上場は出資会社にも注目

もう1つは6月21日に発表された隙間バイトアプリで有名なタイミーの上場です。タイミーは隙間バイトアプリというビジネスの関係から多くの会社が出資しています。IPOの仮条件から見ると1000億円を超える上場となり、その出資会社にも注目が集まりました。具体的にはMIXI(2121)、エン・ジャパン(4849)、サイバーエージェント(4751)などが10位以内の株主に名を連ねており、他にもオリエントコーポレーション(8585)、セブン銀行(8410)、伊藤忠商事(8001)なども並んでいます。NEXYZ.Group(4346)は時価総額が小さかったこともあり、発表翌営業日は取引を集め、株価も上がっています。

上場・非上場に関わらず注目の子会社株とは?

この連載では、過去にも「ソフトバンクGのように『優良子会社』を保有する会社は?」などの記事で、興味深い子会社を保有している会社を紹介してきましたが、それらの会社に動きが出てきているのはこれまでもご案内してきたとおりです。

他にも上記のタイミーに似た例として直近で注目されたのがディー・エヌ・エー(2432)です。同社はタクシーアプリ「GO」に25.75%出資をしており、2024年1月にはGOが上場に向けた準備を開始することを告知し、注目が集まりました。ディー・エヌ・エーは3月末時点で任天堂(7974)株式も879.7万株保有しており、その価格も任天堂株式の値上がりで実に700億円を超えています。ディー・エヌ・エーの時価総額が2000億円に満たないことを考えると、これらの保有は注目できそうです。

現在は上記のように、上場・非上場に関わらず注目に値する子会社株があると思われます。次回はもう少し他の事例も見ていきたいと思います。